「第二次子音推移を探せ」ごっこ
Yamayoyam はアメリカ、スウェーデン、スイスと三つのゲルマン語圏に居住歴があります。というわけで、三つのゲルマン語の音対応を体感できる瞬間が折に触れてあります。歴史言語学徒垂涎の瞬間です!
前回のブログ記事(↓)で取り上げたゲルマン語の「第二次子音推移」は、そんな音対応を確認するのにうってつけな音韻変化です。
もちろん言語学の教科書で第二次子音推移のことは読んだし、例もいくつか目を通したものの、やっぱり日々の生活で目にすると格段に楽しいものですよね。
電車やトラムに乗ってる時など、
スウェーデン語や英語の単語と、
それに対応する、第二次子音推移の起こったドイツ語の単語のペアを探す
「第二次子音推移を探せ」ごっこ
をして密かに一人遊びをしました。
あれ?でも
ドイツ語でなんで **bisser じゃないの?
と、ひっかかって「第二次子音推移を探せ」一時停止。
他にも探すとポロポロ出てきますが、今回はbitterがなんで bisser じゃないのかを取り上げたいと思います。
例によって、語源辞典を調べました。
まず Kluge の Etymologisches Wörterbuch(※1)。曰く、Eiter「毒」, Otter「かわうそ」, zittern「ふるえる」… のように、後ろに -r- が続く場合には -t- が推移せず保持されるのだそうです。でも *better は besser になってるけど?と、いまいち納得がいかない・・・。
しかし!ゲルマン祖語での祖形を見ると違いが一目瞭然になるんです(※2)。
besser の -r- は、ゲルマン祖語の段階での形 *batiza- で、-z- が母音の間で -r- に変わるという「ロタシズム」という変化が起きて生じたものなのですね。だから、後ろに続く -r- のお陰で子音推移が妨げられた例には当てはまらない。というわけです。
ね、歴史言語学って、面白いでしょ?
現代語の形だけ見ててもわからないことが、歴史をだとると分かることがあるのですよ!それがどーした、と言われればそれまでなのですが、こういう小さいことでも「なるほどー」と思えると気持ちいい。
と、こんなふうに、ヘンな音対応に躓きながらも、
「第二次子音推移を探せ」ごっこをしていたものでした。
最近は電車やトラムに乗ることがあまりないので
しなくなっちゃいましたが・・・。
また再開したいなとおもう今日この頃です。
それではまた!
Yamayoyam
※1 Friedrich Kluge(編)Etymologisches Wörterbuch der deutschen Sprache (21版、Berlin: Walter de Gruyter, 1975) 70, 80 ページを参考にしました。
※2 Guus Kroonen(編)Etymological dictionary of Proto-Germanic (Leiden: Brill, 2013) を参考にしました。