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「オランダ語と英語がちょっと似て聞こえる」んですか??

こんにちは、
Yamayoyam です。
新年が明けたのがつい昨日のことのように感じられますが、
もう二月も末。
時が経つのは早いものです。

もう二ヶ月近く前になるでしょうか。
ベルンに住む日本人のお知り合い数人と小さな新年会をしたときのこと。
Yamayoyam が言語学を勉強していることを話題にしていただきました。
そこでベルンドイツ語の貴重なお話や、
日々様々な言語に触れてちょっと疑問に思ったことなどを
聞かせていただきました。

その中の一つに、面白いなと思うと同時に、
ブログに書けそうな良いサイズ感の話題がありましたので、
今回はそれを取り上げようと思います。
質問をご提供くださった W. S. さん、
どうもありがとうございました。

さて、その疑問とは、

英語とオランダ語って、ドイツ語と比べるとなんだか似てる感じがするんだけど。ドイツ語だけがかなり違う気がするんだけど、なんでかしら?

というもの(だったと思う)。

そもそも Yamayoyam はオランダ語、習ったことナイ・・・。
けど、オランダに行ったことならある。
そして、街や博物館やライデン大学でちょっとだけオランダ語を目にしたり耳にしたりしたヨ。
程度の関わり。

ですので、
「英語とオランダ語が似てる感じがするんだけど、面白いですよね」
とコメントいただいても、
「え?そう・・・ですか??」
と、言語学者なのになんともガッカリな反応をしてしまいました。

英語もオランダ語も言語系統的には、ドイツ語とともに西ゲルマン語グループに属しています。もっと細かく見ると、英語はアングロ・フリジア語グループに、オランダ語は低地フランク語グループに、いわゆるドイツ語は高地ドイツ語諸方言のグループにそれぞれ分類されます。なので、この3つのうち、どれとどれが特に近いということはないはずです。
強いて言えば、オランダとドイツはお隣さん同士なので、地理的に近いと言えます。それに対してイギリスは、オランダやドイツからは海を隔てて地理的にちょっと遠くにあります。

ですから、

英語とオランダ語のほうが似て聞こえるのがいささか意外だ

というのは、共感できる感想。

で、英語・ドイツ語・オランダ語に堪能な方がもし
英語とオランダ語の方が似て聞こえるよな
と感じるとして、
その感じをサポートできそうな理由が一つ思い当たりました。

言語学徒の面目躍如なるか!?

歴史言語学の授業で習ったゲルマン系に関する記憶を総動員して思い当たったんですけども。

それは
第二次子音推移(
またの名を、高地ドイツ語子音推移)
なんですけど、いかがでしょうか。

第二次子音推移は、紀元後6~9世紀にかけて、高地ドイツ語諸方言で起こった子音の音韻変化です。音韻変化とは、ザックリ言えば、ある言語音の発音の仕方が変わることです。語頭でとか、語末でとか、母音の間でなど、「ある条件」の下で起こることもありますし、そんなの関係なく一律に発音の仕方が変わってしまうこともあります。でも、原則としてその変化が起こった言語領域内では「規則的」に起こります。

第二次子音推移の場合、この変化が起こったのはスイスの山岳地帯を中心とする高地ドイツ語諸方言。
無声閉鎖音(p、t、k)が語頭および子音の後で破擦音(pf、ts、kx)に、
それ以外の場所では摩擦音(f、s、x)になりました。

以下に、英語・オランダ語・ドイツ語の音対応が分かる例をずら~っと並べてみました。太字の部分が、第二次子音推移で音が変わった部分とそれに対応する部分。
二つだけですけど、スイスドイツ語(瑞独)の形も載せました。というのも、スイスドイツ語は第二次子音推移の起こった震源地。標準ドイツ語よりもこの音変化が規則的なのです。標準ドイツ語(標独)では子音推移が逆戻りしてしまった kalt「寒い」でも (瑞独)chalt のように推移を保っています。

(英)apple – (蘭)appel – (標独)Apfel「りんご」
book – boek – Buch「本」
c
opkopen – kaufen / (瑞独)chauffä「獲得する・買う」
cold  – koud – kalt / (古高独)chalt /(瑞独)chalt「寒い」 
eat – eten – essen「食べる」
(古英) ic – ik – ich「私」
out – uit – aus「外」
p
an – pan – Pfanne「フライパン」
salt – zout – Saltz「塩」
sheep – schaap – Schaf「羊」
sweat – zweet – schweiss 「汗」
sweat – zweten – schwitzen 「汗をかく」
sleep – slapen – schlaf「眠る」
seek – soeken – suchen「探す」
tooth – tand – Zahn「歯」
water – water – Wasser「水」

こうして見ると、たしかに英語とオランダ語の方が似て見えるかも。
「フライパン」と「水」に至っては綴りまで同じだし。
発音したらきっと似て聞こえることでしょう。

その理由は、
高地ドイツ語諸方言の子音が第二次子音推移によってガラッと変わってしまったのに対し、
オランダ語も英語もそういう変化を経験しなかった
から。

とはいえ、細かく見ていくと、
例えば「out – uit – aus」では、
寧ろドイツ語と英語の方が母音の発音が似てるんじゃないかとか、
「sheep – schaap – Schaf」では、
オランダ語とドイツ語の方が似てるじゃんとか、
動詞の不定形が「-en」で終わるのは
むしろオランダ語とドイツ語だ、などなど・・・。
一概に「オランダ語と英語の方が似てる」
とは言えないところがあるんですけれど。

きっとその他にも共通語彙の数や統語法など、
色々と見るべきポイントを見ていくと、
結局「どれとどれが特に似ているとは言えない」
という結論になるのでしょう。

ただ、似て「聞こえる」という点に注目すれば、
ドイツ語の独特な聞こえ方に分かりやすい影響を与えた要因は、
第二次子音推移じゃないかと思う、
というお話でした。

みなさんにも、「あ~、言われてみればそうかもね」
と思っていただける内容になってるといいなぁ。
と思います。

この流れでいくと、例えばスウェーデン語とか、
他にも第二次子音推移が起こらなかったゲルマン系の言語はたくさんあって、同じようなことを観察できます。

実を言うと Yamayoyam もスウェーデンで同じことを感じたのですよ!
そして、スウェーデン語や英語の単語と対応する、
第二次子音推移の起こったドイツ語の単語のペアを探す
「第二次子音推移を探せ」ごっこをして遊んだりしたものです。
そのお話は、また別の機会にしたいと思います。

それでは、またね!

Yamayoyam

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