房さんとの4日間【1日目】
俺より18歳年上の現在71歳のミュージシャン先輩、房さん。フルネームは言わないでおく。ま、わかる人にわかれば良いし、わからなくても面白い日々であったことは伝わるかと思う。なにせここ一週間で4日も一緒に過ごしたのだから、何か記しておきたくなってね。
そもそも会う予定を前々から決めてた訳ではない。ツアー仕事で大阪に行く予定があり、ふと、ふと思い出したのだ「あ、房さんは今大阪に住んでるんだったな」と。名古屋出身で色んなところを渡り歩き、長年下北沢に住われていたが、6,7年前から関西に拠点を移していた。所有していたバーも売り、4度目の奥さんと(これまでで一番相性が良いと言っているw)移り住んでいた。それも若い時からの仲間が全国に別荘を持つ人になっていて、その別荘を安く借り受ける生活。高級住宅地にある豪邸、の横にある使用人のための一軒家を移り住む生活。
「豪邸側でもいいよと言われてるんだけど、二人で住むには広すぎて落ち着かないから、俺らしく使用人の方にしてもらった」
と言っていた。でも持つ者たちの使用人のための別邸は、庶民な俺にとっては別邸なのに豪邸に見える。以前お邪魔した芦屋のお住まいも素敵で、そこから見おろす関西の街は壮観だった。そう、芦屋から見下ろせるのは神戸ではなく、大阪だというのはその時知った。芦屋を経由して現在は大阪の南の方に住んでらっしゃると聞いていたので、俺と同じく渋い店好きの酒飲み先輩に、是非大阪のドープな所に連れて行ってもらいたいなと思って連絡した。そして4日後に飲むことが決まった。待ち合わせは動物園前駅あたり。新世界と釜ヶ崎の境目、待ち合わせ場所からドープだ。
【1日目】
そもそも動物園前になったのは、俺がとった宿がそこだったからだ。何故そこらへんの宿を取ったかというとズバリ安かったからだ。一泊2500円な宿がわんさかある。その中で比較的綺麗な、新しめの宿を押さえた、それもちゃんと概要を読まずに。風呂やトイレが共有なのはチェックインしてから知ることになるが、ま、それは経験としていいかと自分を納得させた。実際隣との壁が異様に薄く、ロビーで耳栓を売っていた理由は寝るときに知るんだけどね。風呂はともかく、トイレも共有、1フロア20部屋ぐらいあるのに男性用女性用1つずつしかトイレがないのはちと過ごしづらかったな。労働者や怪しい方々が住んでいる街なので、色んな意味でドキドキする部屋だった。一泊500円とかなんなら「0円」と書かれてる謎の宿も周囲にはあってね、そういう所にこの夏場に泊まるとダニなんて当たり前だよという話は後から聞くことになる。結果俺の部屋は大丈夫な綺麗な宿だったが、興味本位だけだと痛い目に遭うかもしれない。でも何事も勉強だ。
12時にはもうチェックインさせてくれて(それは助かる)、夏の甲子園の準決勝をテレビで少し見てから、周囲の街を散策してみることにした。そりゃあもう噂通りのドープな場所だったね。そこらじゅうでお爺ちゃんお婆ちゃんが寝そべってるし、昼過ぎなのにホルモン居酒屋みたいなのが大繁盛していたりした。様子だけ見にと思って飛田新地にも行ってみたら、ビックリするほどその街だけ綺麗な温泉街のようになっていて驚いた、、、と思ってふと入り口を見たらお婆さんと若い女の子が「いらっしゃい」と客引き。女の子は水着を着つつお股を開いて笑顔でこちらに手を振ってくる。まだ昼の2時くらいなのに、、、そんな気はさらさらなかったので、いや正直俺は風俗苦手なので、ただただドキドキしてまさに動物園を見学しているような心持ちで、キョロキョロしながらその街を一周した。
そして広ーい西成のドープな地域をざっくり周りきったところでそろそろ待ち合わせの時間。ホテルの前で一服してる所に房さんは現れた。
「すまんすまん、携帯忘れちゃってさ。前にいてくれて助かったよ。しょうがないからさっきホテル入ってみたんだが、お前の苗字をそう言えば知らないことに気づいてな、そうこうしてるとチンチン出したオッサンがロビーを通り過ぎたりしてビックリしたぞ。お前こんなとこに泊まってるのか。笑えるなぁ」
「あぁ、ロビーの奥に共同風呂がありますからね。しかしここに泊まってる人は皆、ロビーに売ってる120円のカップラーメンを食べてますね?皆それを主食にしてるんですかね?」
「まぁここは敗残者の街だからなぁ」
まさにGhetto。ただ、海外のそれと違うものを俺は感じていた。海外のそれには差別がつきものだが、この街は落ちぶれた人を落ちぶれたまま受け止めてくれる街、そんな暖かさもほんのりと感じたのだ。「頑張れんやつは頑張らんかったってええんや」そんな感じがしたことを房さんに伝えると
「そうかもしれないな」
と答えた。
二人で新世界に向かうことになる、オススメの店があるそうだ。
「坂田三吉って棋士が昔よく来てたっていう店がある、そこに行こう」
それは新世界の南の #ジャンジャン横丁 にある、その名も「王将」という店だった。
「チャラい店が多い横丁だけど、ここは少しだけ各式が高いからいつも空いてるんだ」
実際に空いていた。まだ15時だからかもしれないけど。素敵な木造の内装のその店は、以前は将棋を打つ店として残っていたが潰れて、若い人が何年か前に居酒屋として作り直された店だそう。それにしてもこの街には「王将」って名前の飲食店からホテルまで沢山ある、その理由は坂田三吉由来なんだと今回初めて知った。文字を読めない文盲なのに棋士として出世した男、坂田三吉。その生き様と晩年の様が大阪下町で伝説になるのは分かる気がした。実際その串カツ屋王将の中にはそこらじゅうに坂田三吉の写真が飾られていた。
そこで串カツや水ナスを食べて、瓶ビールを2本ずつ飲む。その後
「お前に紹介したい店がある」
ってことでなんばハッチの下にあるS.O.Ra.というライブハウスに。本当は共通の知り合いのブルースマン、ヤンシーとコテツのライブの日の予定だったが、ヤンシーが熱を出したとかでキャンセルになっちゃったそう。ここで会えたら面白かったのにな、と思いつつ、途中からマネジャーのツダさんも現れ、酔いが進んできたがまだ18時ぐらい。すると
「この後は俺ん家で飲もう」
と誘われ、タクシーで移動。すごーい豪邸の横についている、豪邸と比べると小さく見える二階建て一軒家(でも4LDKはあるだろう)に移動して、奥さん共々と色々語り合ううちに、こんな話になった。
「俺今週末から3日間東京の方にツアーに行くぞ、お前遊びに来い、なんなら弾け」
、、、、つづく
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