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Herbie Mannが再評価される時は来るんだろうか? #3

 問題作とはこの写真の"Gagaku & Beyond"(1976)だ。この問題作を紹介する前に、作品に至るまでの経緯をざっくり説明しておこう。

 最初に紹介した、悪い方の問題作"POP IMPRESSION~日本の印象1"がリリースされたのは1974年。Herbie Mannが"London Underground""Reggae"など世界各地でレコーディングするシリーズをやっていた、その一環と思われ、日本盤解説に写真家の #阿部克自 がその経緯を説明していた。

 尺八の #村岡実 から連絡があり、「あべさん、ハービーマンから手紙が来て3月に来日する折、僕とレコーディングしたい旨を言ってきたよ。」と。なんでも写真家の阿部氏はこの1974年の時点で20年の、村岡実氏は10年の付き合いがHerbieとあったらしい。

 ちなみに村岡実氏は尺八をfluteのように見立てた演奏集をジャズからロックまで数多手がけていて、一部の作品は再評価されており、なんなら高値になっている人だ。例えばこんなジャズスタンダードを尺八でやっている音源などは面白い。

 アプローチの仕方はある種Herbie Mannと似ていると言っていい。アレンジにあまり力を置いていなくて、そのジャンルの普通の演奏に直球で尺八をぶつけてる(だけ)感じは、いろんなジャンルに手を出しては乗っかっているだけのHerbieと一緒と言っていいね(笑)。

 だが、結果としてアルバム"POP IMPRESSION~日本の印象1"は大したコラボは出来ておらず、Herbie作の"The Butterfly In A Stone Garden"はメロディに「和」な感じも少しはあるが、そこに無理くり後ろに尺八や堤などを入れているだけの作品で、これはご本人も気に召さなかったのか、欧米版にはその堤や尺八などは抜かれてしまっている。残念ながら入っている方はサブスクやYouTubeにもないので、抜かれた後のこれしかお聞かせ出来ないが。

 面識こそあったとしても、大したコラボができずに、なんなら本人も納得できていないものしかレコーディングできなかったんだろう。結果、ワーナーパイオニアからのリリースとは言え、"POP IMPRESSION~日本の印象1"は日本盤しかリリースされなかったようだ。ジャケは"POP IMPRESSION"としかないのに、邦題だと「日本の印象1」とされているところに日本のレコード会社と本人とに温度差があるよね。もちろんパート2はレコーディングこそ分からないが、リリースはされておりません。

 そして(長すぎる前置きですんません)この作品"Gagaku & Beyond"だ。邦題をつけるなら「雅楽とその先」とでも言えばいいだろうか、これがリリースされたのが1976年。1974年には大したものは録れなかったものの(笑)、日本の音楽〜音階には興味を持ったということだろう。だとしてもここまで「和」な作品を作ってしまうとは驚きだ。なにせ"Shomyo~聲明"や"Etenraku~越天楽"などが入ってるのだ。

 もういきなり正月でしょ?Ono Gagaku Societyの演奏の上にfluteで乗っかっただけとは言え、ここまでやってしまうとは流石に驚きだ。でもって正直、個人的にはどこまでがfluteで笙なのかもよく分からない。よくまぁメロディを把握して吹けたものだ。

 更には同じ趣向の"Kurodabushi~黒田節"までやってしまう。これは上記の尺八の村岡実のグループとのコラボ。これも多分尺八とfluteをユニゾンでやっているものと思われる。

 そしてこれらのコラボの印象を元にしたと思しきHerbie本人作のアルバムタイトル曲にてこのアルバムは終了する。ドラムは #SteveGadd だ。和音階になりきれてはいないが、素直に和音楽の印象を楽曲に仕上げているとは言っていいだろう。リズムアプローチなどは間違いなく和太鼓や和音楽の影響下にある。

 まぁ何度も聴ける代物ではないけれど(笑)、これは「よくここまで踏み込んで作り上げたなぁ」と思える作品集なことは確かだね。

 でもってこのアルバムは調べたところ、理由はわからないが日本では発売されていない。日本の音楽を欧米に紹介するというコンセプトの作品だったということだろうか。

 個人的には日本の音楽に造詣が深い訳ではないが、ここまで他国のミュージシャンが歩み寄って作り上げたものというのはなかなかないのではなかろうか?ただ、歴史的価値なり音楽的価値があるか?と言われると正直なんとも言えない。ご当地料理をまんま出されただけとも言えるようなものだからね。

 頑張り屋さんというか、ある種の意欲と行動力は感服に値するほどすごいんだけれど、器用すぎると言えばいいんだろうか?生き方(=ビジネス)が器用すぎると言えばいいんだろうか?結果として博物館の展示もの以上の印象がない。その感じが、なかなか再評価されない理由なんだろうなと改めて思う。

 何はともあれ"Gagaku & Beyond"の「何じゃこれ?」感があることだけは保証します。そこからの再評価は是非あなたがしてみてください。予算をかけずにお宝発見の可能性のあるアーティストでもありますからね。

#SOUL大学  

#1 から読み直したい方はこちら

#2 を読み逃した方はこちら


"Gagaku & Beyond" (1976)

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