映画"Perfect Days"
いやぁ昨今のSNSの闇に感染してうんざりしていたので、それは読書だけでは治癒せず、ふと
「あ、今の俺に足りないのは映画だ」
と気づいて、気になっていた映画"Perfect Days"を見に行ってきました。
Wim Wendersといえば個人的には「ベルリン・天使の詩」(1987)がファーストコンタクト。続編の「時の翼に乗って」(1993)も良かったし、遡って「パリ・テキサス」(1984)jも良かったし、ドイツ人ならではの静寂と思慮深い映画構成が大好きな監督。
だが今回は事前に知っていて見に行ったんではなく、「明日は映画を見よう」と決めてから調べて、「あ、これやってるんだ!」と知って見に行った次第。
で、結論を先に述べると、まさに今の俺が見たかった映画だった。
ネタバレしないように解説しておく。あ、ネタバレしようが関係ないタイプの、見ているその時間に酔える・入り込める映画です。
■いろんな伏線が撒かれていて、のちに回収されていく、と言うのは映画や物語の基本だけれど、その伏線と回収の感じが押し付けがましくないのがすごくいい。なんならその伏線に気付けなくとも映画の心地よさに酔えるように出来ている。ある種のUS映画やアニメ映画だとその伏線を把握できるかどうかが映画の内容を把握できるかどうかに直結してしまうからね。その、「気づかれなくてもいい」気遣いに溢れている映画だった。
■ #TokyoToiletプロジェクト と言うだけあり、自分も知っているお洒落なトイレが多数出てくるのが良い。その、お洒落なトイレばかり出てくる、そのトイレたちに、わざわざ高速道路に乗ってまで掃除しにいくと言う設定のある種の不自然感も伏線ではあったなと思う。
■主人公は読書家でもある設定だったので、いろんな興味をそそられる本が出てきた。映画を見終わってから古本屋やアマゾンまで検索してみたが、映画人気のせいか、どれも売り切れだった、、、
「木」 #幸田文
「11の物語」 #パトリシアハイスミス
など
■個人的には何より音楽の選び方にキュンと来た。映画タイトルはLou Reedだし、Patti Smithもかかるし、Otis Reddingもかかるし、役所広司演じる主人公は毎朝素敵な選曲をしているのにキュンと来た。中でも唯一の和物、 #金延幸子 「青い魚」が選ばれてるのは嬉しかったね。このアルバム自体、昨年再発されて慌てて買ったものだしね。あ、このアルバムは1972年に出たものです。この和製 #JoniMitchell と言われたアルバムは名作ですよ。
■個人的にもう一つ興奮したのは、話の流れでカセットテープを売りに行った店が下北沢のFlash Disc Runch(映画の中では店の名前を変えてありました)と言うことと、その店の店長役がなんと #松居大吾 が演じていたこと。そう、松居大吾氏は俺も出演した #舞台バードランド の演出の方でもあり、ラジオDJもやってたりと多方面に活躍されてる方。連絡先も交換してるので、映画を見終わった後思わずメールしちゃいました。「まさかのヴィムヴェンダース作品を通じてまたこうして連絡取るのが面白いですね」と返ってきた。
■素敵なシーンはたくさんありましたが、もう一つだけ紹介すると、主人公の行きつけの赤提灯居酒屋のママが石川さゆりが演じていて、飲んでるうちに「ママ歌ってよ」となり、客のうちの一人、あがた森魚さんがギターを弾き出して「しょうがないわね」と言って「朝日の当たる家」の日本語版を歌い出すんだけど、あがた森魚さんがコードをちょいちょい間違えていた。その、間違える感じごとまさに下町の居酒屋の風景っぽくてリアルを感じたな。あれはわざと間違えたんじゃないな、1テイク目で間違えちゃったけど、その緊張感ごとリアルだってことで採用されたんじゃないかな??と勝手に推測。
、、、とつらつらと良かったとこを記したけど、この映画の良きところは、一見不遇に見える境遇を愚痴るどころか前向きに淡々と過ごしている主人公の姿。今時だと「これは理不尽だ」「これは**ハラスメントだ」などと言って自らを被害者にして戦おうとする話になってもおかしくない設定なんだが、そうではなく、現実を粛々と受け入れて過ごす、その中で精一杯ポジティブに生きている感じが胸を打つのだ。
最後の「木漏れ日〜KOMOREBI」に関する説明文が出てきて映画が終わるのも良い。
主人公平山さんのこの言葉も良かったな、
「今は今、今度は今度」
いやあ映画ってやっぱりいいですね(笑)