スポーツとアフォーダンス
▌アフォーダンスとは?
私が「アフォーダンス【affordance】」という言葉を知ったのは、今から1年ほど前のことです。それまでなんとなく耳にしてはいたものの、詳しいことはよくわかりませんでした。きっかけは『アメリカン・ベースボール革命』という本の紹介文にアフォーダンス理論という言葉が入っていたためです。もちろんこの本は購入しましたが、本の中にアフォーダンスという用語は出てきません。
アフォーダンスとは、コトバンク → デジタル大辞泉(小学館)によると、以下のような意味になります。
ただ、厳密に言うと、デザインの分野で使われているアフォーダンスは、むしろシグニファイア【signifier】であるとの認識で、「モノが人に与える行為のヒント」と捉えることが今では大勢を占めているようです。知覚までがアフォーダンス、認知までがシグニファイアという解釈もあります。道路の信号機やリンク文字を色分けして下線を加えることなどは、シグニファイアの良い例です。
▌野球とアフォーダンス
これについては、まず下記のリンク記事をお読み下さい。
この記事に紹介されているグレイの研究【Gray, R.(2018)】はとても興味深く、特にまだ指導者の言葉をよく理解できない子供たちへの指導方法に対しても一石を投じていると考えます。
これがアフォーダンスの領域におさまるかどうかは別として、こうした考え方は「仕掛学」にも通じる点が多く、コーチングの引き出しの一つとして大いに学ぶべきです。難解な動作の説明をすることなく、知らず知らずのうちに上達へと導いていくというのが最も効率的な指導であり、それにはやはり主観的な経験論(「オレはこうやってうまくなったのだからオマエもやれ!」といった指導)だけではダメなのです。
▌アフォーダンス的な練習方法
ここで「的な」を加えて表現した理由は、先も述べた通りです。リンク記事や『アメリカン・ベースボール革命』でも紹介され、今や野球界で広く認知されているドライブライン・ベースボールという施設では、球速や変化球の質、スイングスピードなどのパフォーマンス向上のために、さまざまな医科学的手法が用いられています。それらがすべてアフォーダンスかと言うと決してそうではありませんが、プライオボールやメディシンボールを使った練習方法は、野球で使用するものとは違った用具でパフォーマンスの向上をアフォードしています。
そのほかにも、外野手のスローイング動作(バックホーム時などの)で下半身と上半身の連動を養ったり、グラブで重りを持ち、それが最も軽く感じられるグラブ腕の使い方を学習することで体の回転効率を上げたりして、球速アップを誘導しています。
なお、2つ目のグラブで重りを持つ練習方法は、過去にトム・ハウス氏(アトランタ・ブレーブス、ボストン・レッドソックス、シアトル・マリナーズなどで投手コーチを歴任)の著書『THE PITCHING EDGE』(P.47)でも紹介されていますので、下記に引用しておきます(2~4ポンド=907.2~1814.4グラム)。
いかがでしょうか?アフォーダンスという言葉を無理に意識する必要はまったくありませんが、野球に限らず、上達のための練習環境づくりには今後なくてはならない思考法だと考えます。御興味のある方は、広義のアフォーダンスをさらに深く掘り下げてみて下さい。繰り返しますが、スポーツでは「知らず知らずのうちにうまくなる」、それが一番です。