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人生最高の幼稚園

観測史上最速という梅雨の日の、2年目を迎えたコロナ禍のある日の、もう何年目か分からない昼休みのトランプの最中。

なぜかしら「幼稚園」の話になった。

メンバーは小学生になってから、つまり成績の優劣で人間性すらも判断されるようになってからは、酷い目に遭い続けたミサさんにあちゃみちゃんにXL、そして僕だ。

僕は皆に聞いた。

幼稚園の頃はどうだったの? いじめられたり嫌なことはなかったの? と。

僕自身、窮屈な思いをした記憶はない。

それどころか毎日が楽しすぎて園に行くのが早すぎて、先生を困らせていたくらいだ(ということは当時は朝が強かったのか?)。

その記憶は今もありありと残っている。

ミサさんもあちゃみちゃんもXLも、幼稚園の頃はやはり何もなかった、楽しかったと言う。

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するとあちゃみちゃんが、いつもの笑顔で、でも少ししんみりとした様子で言葉を継ぐ。

「やっぱり幼稚園の頃がいちばん幸せやったかも」

いちばん幸せ……。切ない。

彼女はスウィングでもそこそこ幸せな日々を送っているのだと思う。

でもウソ偽りのない響きだ。

そしてこの思いに共感を覚える人は少なくないんじゃないだろうか。

ミサさんもそのひとりだったらしく、当時を思い起こすようにぼんやりと宙を眺めながら、まるで独り言のように呟く。

かすかに嫌な予感がする。

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「そうやなあ。だってうち、幼稚園の頃、プールで鼻血出してたもん」


意味が。

意味が全く分からない。

あるいはこれは、この仕打ちは、もともと全て意味なんてないよ? という仏レベルのやつなのだろうか。

なぜプールで鼻血を出してたことが幸せだったのか? なぜ出たのか?

それは1回こっきりのことだったのか?  それとも数度あったことだったのか? 

まさか幼稚園時代全般を通じて? 

ダメだ。

今日は満月で体調が……とか、時節柄低気圧で頭痛が……とか言ってる凡人が何を考えようと太刀打ちできるわけがない。

常々無闇に人を崇めたり、人から崇められたりするのはまったくもって良くないと思っている。

みんな人間、ただの人。である。

がしかし、この恐るべき一件を機に、ミサ様を神の如く崇めはじめている自分自身に気づかないふりはできない。

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