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溶け出せ!たいやきくん

子供の頃である70年代の大ヒット曲といえば「およげ!たいやきくん」なのだ。

当時は苦手の部類の音楽だったが、今ではなぜかときどきこの「およげ!たいやきくん」を口ずさんでいたりする。

まいにち まいにち ぼくらはてっぱんの

うえでやかれて いやになっちゃうよ

あるあさ ぼくはみせのおじさんと

けんかして うみににげこんだのさ

はじめておよいだうみのそこ

と〜ってもながめがいいもんだ

おなかのあんこはおもいけど

うみはひろいし こころもはずむ


苦手なのに、よく覚えていて忘れない。


ヒットから半世紀近く経つ今も、今でもレコードシングル売り上げ一位らしい。

レコード、CDなど今は一般では買われないのだから当然と言えば当然。”レコード売り上げ記録”は冷凍保存され、過去の尊い遺産となった。

1950年代のエルヴィスが今でも最も売れたシンガーとして君臨し続けているのに相似で、日本においては、「およげ!たいやきくん」こそが永久不滅のシングルレコードであり、子門真人こそが日本のエルヴィスなのである。



ところで「およげ!たいやきくん」の苦手な理由は、一言で言えば”おとな臭さ”で、テンポもゆっくり、歌唱もピエロチックというか、子供に合わせているふうなおとな臭さでもある。それも含めて古臭いのとか。

しかし、それだから売れたのかもしれないらしい。当時のサラリーマンに共感を呼んだから売れたという言説もあるのらしいので。曲調の古めかしさといい、納得である。


最後の歌詞は↓


いわばのかげからくいつけば

それはちいさなつりばりだった

どんなにどんなにあがいても

ハリがのどからとれないよ

はまべでみしらぬおじさんが

ぼくをつりあげ びっくりしてた

やっぱりぼくはたいやきさ

おじさんつばをのみこんで

ぼくをうまそにたべたのさ


どこまで逃げても逃れられぬカルマに、たいやきくんは飲み込まれて、しかしどこか安堵のため息が聞こえそうな歌詞。

自分の子供たちと一緒に、昭和のお父さんサラリーマンはこれを聴き、なにを思ったのか。


たいやきであるがゆえ、海に泳ぐ魚とは似て非なる存在ゆえ、たいやきくんの結末は変えようもなく必然であったと思う。

海であんこが溶け出すわけにもいかない。


たいやきくんの明日なき暴走は、最後にはその実存的本命をまっとうするかたちで救いあげられる。

知らないおじさんに食べられるたいやきくんは、自分の本来の役目を果たすことができたのだ。それでよかったのだ。それで。。


蛙の子は蛙という結末は、むしろ安定の世界であり、その世界にはどこにも出口がない。出口など必要ない。野望も無謀もなくていいのだ。

いいのだ。

いいのか?


一見、食われる以上に悲惨に思える”あんこが海に溶け出す”結末こそが実は、たいやきくんが目指すべき世界線ではなかったのか。

のか?



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