“そうだってよかったから、よかったのに”映画『辻占恋慕』で作詞させていただいた曲について。※うっすらネタバレあり
劇中歌の作詞をさせていただいた映画『辻占恋慕』の公開が5月21日から始まった。
お話をいただいたのが2年前、わたしはまだ23歳だった。
コロナ禍で撮影が延期される中、「どうかこの作品が届くように」と祈り続けていたらいつの間にか26歳になってしまっていた。だから、今歌詞を見直すとかなり恥ずかしい。
でもパンフレットを購入してくださった方が沢山いらっしゃるので、少しだけ自分が作詞させていただいた3曲について話をしたい。
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『ほるまりん』
いちばん最初に書き上げたのがこの『ほるまりん』だった。タイトルは監督が決めていて、シナリオを読んでから15分で書き上げた記憶がある。
信太がどんなアーティストに憧れているかが明確に書かれており、わたしもそのアーティストに影響を受けた部分もあるのですごくすんなり書けた。
ほるまりん、理科室…と連想して思い出したのだが、理科の時間スライドショーを観ながら授業を受けた時に、必ずぐっすり眠るクラスメートがいた。
その子と旅行へ行った時、布団に入って5秒でイビキをかいて寝始めたので寝付きのよくないわたしはむかついて、冷蔵庫からビールを取り出して一気飲みした思い出がある。その思い出からラブソングに書き直したかたちだ。
”ゆるい缶ビール”というのは一体何なのだ、という話だけれども、きっとこの曲の主人公はビールをいつも買えるほどお金があるわけではない。
いつだったか、福田社長がしてくれたご友人の話からこの部分は書いたのだが、きっと飲みかけでも勿体無いからラップをかけて大切に冷蔵庫にしまって炭酸がすっかり抜けてしまった、冷たくて苦いだけの”ゆるい”缶ビールを静かに静かに取り出して飲んだのだろう。
永遠のものなんてない。
「君がいればそれだけで幸せだからどこまでも行ける」なんて平成のJ-POPみたいなこともありえない。恋は必ず終わるようにできている。
まだ恵美と出会う前の信太が背中を丸めながらこの歌詞を書いていることをちょっとだけ思い浮かべた。どんな気持ちだったんだろう。
とにかく、フォークソングは息が詰まるほど切なく在ってほしいという個人的なわたしの願いから出来上がった。本編でもとても重要な部分に出てくるので嬉しい。
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そして、ここからは加藤玲奈さん演じる菊地あずきの楽曲について。
わたしが最初に感じたのは「きっとあずきちゃんはあずきちゃんでゆべしに憧れていたのではないかな」ということだった。
元々彼女はきっと自分の世界観を貫き通すゆべしのようなシンガーソングライターになりたかったのかもしれないな、と勝手に考えた。
けれど自分はそうした形では生き残ることができないから自分のやりたかったことを全部捨てて、あのスタイルに活動の方向を変えたのだと個人的には思う。
信太にサポートしてもらえるゆべしを心底羨ましく思いながら、彼女は孤独と「馬鹿を相手にする虚しさ」とずっと闘ってきたのだ、たぶん。
隣の芝は青いとはまさにこのこと。
きっと今もあずきちゃんは下請けに任せた語彙力のない歌詞を完璧な笑顔で歌っているんだろう。
そしてこれから紹介する2曲はもう今では全くライブで歌うことがなくなってしまったのだと妄想している。
「この先売れるようになってからはデビュー15周年記念のファンクラブ限定イベントで1回だけ歌うくらいにレアな初期の曲」を意識して書いた。
『メロンソーダ』
北海道の帯広市に「ふじもり」という飲食店がある。
席につくと必ずメロンソーダが出てくる珍しい店で、隣のテーブルでカップルが別れ話をしているのを聞きながら飲んだ記憶があった。
それをふと、3年前精神科に入院している最中窓の外で揺れる緑の葉っぱを見て思い出した。
そこからコツコツと、わたしにしては珍しく時間をかけて育て上げた曲だ。いつの間にかものすごく愛着がわいている。
かき氷のメロンシロップ。
あれは色と香りがちがうだけで、みんな同じ味なのだと聞いたことがある。
「お互い紛い物だね」
そう思いながらメロンソーダと自分をこの曲の主人公は恋人との別れ話の場で重ね合わせた。
きみが好みだと言ったから髪を伸ばしていた。
ネイルもシンプルにして、
ナチュラルメイクを覚えた。
何もかも全部きみの好きから外れないように、間違わないように。
それで
そんなことをしていたら
いつの間にか本当の自分がどこにいるのかわからなくなってしまうことに気がつく。
そしてこの恋自体がそもそも紛い物だったのかもしれない。だから終わりが来た。
でもそれなのに、ありもしないきみとの紛い物の未来が焼き付いて離れないままだ。
離れたくて今日ここに来たのにどうしてこんなに胸が締め付けられるのだろうか。
諦念とその対義語の間で揺れ動く、本物に憧れていた愚かな紛い物が夢の終わりを待っている歌。
耳鳴りで消せない言葉が聞けたことを祈る。
ちなみに“そうだってよかったから、よかったのに”は”ソーダってよかったから、よかったのに”というダジャレです。
でも『辻占恋慕』の登場人物はみんなどこかに”そうだってよかったから、よかったのに”を抱えている気がします。
『君の体温と僕の体温、合わせて75度』
この曲は大野監督がタイトルを決めてくださっていて、あとからわたしが歌詞を書く形だった。
わたしは高熱を出すとありもしないいろいろなものが見える。この曲の主人公は夏風邪を引いてぼんやりした意識のなかで物語が繰り広げられる。
キミはどこにもいないけれど、たしかにこれは恋なの。
そんなラブソングです。
菊地あずき版、浜田省吾さんの『サイドシートの影』と言うと分かりやすいかもしれません。
あとはあずきちゃんの厄介なファンが『メロンソーダ』を聴いたあとにSNSで、
「最近の曲、特に、ラヴソングは、相手の、イメージが具体的すぎる、カナ⁉️😅💦彼氏がいるのは、イイけれど、露骨な匂わせはやめないとオヂサン怒っちゃうゾ💢💢😡‼️ナンチャッテ😅💦」
なんて書いているところをあずきちゃんがエゴサして見つけてしまって、そこから歌詞を書いたらどうなるだろうかと妄想しながら書いた1曲です。
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というわけで3曲について作詞した側の個人的な解釈を書いてみました。「作詞した側の解釈」というのは少し妙な表現かもしれません。
ですが単純に自分はこんな気持ちで書きました、という事でこれが正しい、という事ではもちろんありません。
歌は聴き手の数だけ解釈があるべきと思います。
なのでああ、そうなんだね!程度に読み流していただければ結構です。お付き合いいただきありがとうございました。
そしてこのnoteを読んで「なんだその楽曲!?聞いてみたい!」と思った方は劇場で是非パンフレットを買って歌詞カードと見比べながら楽しんでください!
『辻占恋慕』、まだまだたくさんの方に観ていただきたい映画です。何卒よろしくお願い申し上げます。
二ノ倉 らむね🫧