中小企業とインボイス制度
2023年10月1日よりインボイス制度が開始されます。中小企業が何をすべきか・・・は会社ごとによって変わるかと思います。今回は中小企業のサービス業の経理として何をするのか考えていることをまとめていきます。
消費税の課税要件は?
インボイス制度の前に、どんな時に消費税が課税されるのか整理しましょう。国税庁のホームページを閲覧すると以下の一文にまとめられています。
「事業者」や「国内」の要件、「対価を得て行う」要件は問題ないと思いますが、「事業として」とはどういうことでしょうか?定款に記載された業務内容でしょうか?それともその会社独自に判断しても構わないものなのでしょうか?
答えは以下のようになっています。基本的に法人の行う経済活動については広く事業性が認められるものと考えた方がいいです。
上記の要件を満たさない取引(反対給付がなかったり対価を得ない取引)は不課税取引として消費税が課せられないこととなっています。それ以外にも以下の17取引は消費税が課せられない(非課税)取引として定義されています。
なお、今回の話しでいう「事業として」は消費税法についての話しです。所得税法における事業や業務の概念や、各業法(金融業法など)での業務の扱いはそれぞれの法律ごとに定義されています。参考に例示しますので以下のサイトを参考にしてください。
消費税の納税者と負担者
消費税は、納税者(事業者)と税金の負担者(消費者)が異なる間接税の一種です。納税者は資産の購入時に消費税を払い、販売時に消費税を預かります。その事業主は「預かった消費税」から「支払った消費税」を差し引いた金額を納税することとなります。
余談ですが、酒税やたばこ税、ガソリン税のように物品に課せられる消費税のようなものもありますが、これらは二つとも直接税(納税者と負担者が同じ)となっています。まれに酒税等の二重課税を指摘する声も上がりますが、そもそも事業主が負担すべきものを販売価格に転嫁しているわけですので、原料費に不課税のものが含まれているといった認識の方が正しいです。
消費税納税の問題と解決策
インボイス制度が導入されることとなったのは、以下の2つの問題解決の為です。
消費税が10%課税される取引と、8%課税される取引(この中にも軽減税率のものと経過措置のものと混在)等があり、正しい税額がわかりづらい。
インボイス制度では請求書を発行する事業者を「適格請求書発行事業者」と定めて消費税率や消費税の額、納税義務者情報などを記載させることとしました。そうすることで10%課税(国税消費税率7.8%)と軽減税率の8%課税(国税消費税率6.24%)と経過措置の8%(国税消費税率6.3%)で悩むことがなくなり、納税義務者がその判断を誤ることがなくなりました。免税事業者に対して「支払った消費税」も納税金額から控除できてしまう。
前年の課税売上高が1,000万円以下の事業者は納税の義務が免除されます。ある納税義務者A社が免税事業者B社から物品を仕入れた場合、B社に対して「支払った消費税」は納税義務が免除されてしまい国に納められることはありません。従来の処理ではA社が「支払った消費税」として「預かった消費税」より控除できましたが、その控除の条件として納税者に適格請求書の保管を義務付けたのです。
インボイス制度導入に必要な準備
インボイス制度導入にあたり、事業者として主体的に行うことは以下の3つです。
適格請求書発行事業者の登録
この手続きは納税地を所轄する税務署長に申請することで適用が受けられます。e-taxでも簡単に申請することができます。また、顧問の税理士を雇っているようであれば顧問の先生に登録を依頼しましょう。自社の請求書を適格請求書の要件を満たすように改定する
適格請求書の要件は国税庁によると①適格請求書発行事業者の名称及び登録番号②課税資産の譲渡等を行った年月日③課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容④課税資産の譲渡等の税抜価額又は税込価額を税率ごとに区分して合計した金額及び適用税率⑤税率ごとに区分した消費税等の額⑥書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称の6つが必要となります。多くの企業において、区分記載請求書の発行を行っていると思いますので、登録番号の追記を行うことで済ませることができます。締結済みの契約の見直しを行う
前述の適格請求書の要件は契約書にも求められます。既に契約を締結していて請求書の発行されない取引があれば(顧問契約等)、不足している記載事項を交付してもらい契約書と併せて保管する必要があります。インボイス制度が開始されるまでに手元の締結済みの契約書をすべて確認しましょう。
インボイス制度導入によるプロセスの変化
業種にもよりますがBtoCメインの会社でもない限り、請求書は原則適格請求書で発行することになると思いますので、発行に際して大きな変化はありません。逆に取引先から請求を受ける際は、適格請求書を発行してもらえるように要求しましょう。
インボイス制度の導入によりすべての消費税課税事業者が適格請求書の発行を望むこととなりましたが、適格請求書の発行義務は「相手方(課税事業者のみ)の求めに応じて発行すること」です。長い取引先であれば気を利かせて言わずとも適格請求書を発行してもらえると思いますが、一見の取引の場合は必ず確認を行いましょう。
なお、今まで3万円未満の取引については、請求書の保存を要求されておりませんでした。インボイス制度導入後は、適格請求書の交付義務が免除される取引が以下のように限定列挙されましたので少額取引の際に注意が必要です。
実務上影響が出てくるのが振込手数料の取り扱いかと思います。自社の取引先金融機関であれば振込手数料明細などの交付が受けられると思いますが、相手方が差し引いて払ってきたものを課税取引として処理する場合は①相手方への支払手数料とするなら相手方の適格請求書②銀行の振込手数料とするなら銀行の適格請求書③値引きで処理する場合は自社発行の消費税の返還インボイス(1万円未満であればはっこうを省略可)のどれかが必要となります。
インボイス制度を導入する上での注意点
ここまで適格請求書の発行やその保管をメインにみてきました。それでは適格請求書の発行が受けられなかった場合は「支払った消費税」を全額控除できないのかというとそうでもありません。インボイス制度導入に伴い以下のような経過措置があります。
令和5年10月1日~令和8年9月30日
仕入税額相当額の80%を「支払った消費税」とみなして控除可能令和8年10月1日~令和11年9月30日
仕入税額相当額の50%を「支払った消費税」とみなして控除可能
また、インボイス制度導入により課税売上は割戻し方式・課税仕入れの計算は積上げ方式が原則となりますのでご注意ください。
インボイス制度の導入に向けて
以上がざっくりとしたインボイス制度導入にあたっての流れになります。もちろんここに記載していることは全体の一部でしかありませんので、自社に合うものかどうかの判断は慎重に行ってください。
現在、企業にお勤めの方であれば会計ソフトが導入されていると思います。会計ソフトがこれからインボイス対応を行っていくはずですので、書類の保管などについては会計ソフトのガイドに任せるだけで問題ないかと思います。
インボイス制度導入まで残り4か月を切りましたので、できるところから準備を始めていきましょう。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?