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現代4コマ鑑賞記(2023年11月~2024年7月)

 昨年11月に旧ススメWebで現代4コマ作品を紹介して以来、いくつもの作品を鑑賞してきたが、それを言葉にする機会がなかった。今週末に原宿で現代4コマの展示会が開催されるのを前に、以前の記事からこの7月末までの作品で私が面白いと思ったものを選り抜きで書き残しておこうと思う。発表日順(のはず)。


波風(作:なむさん)

 海辺から水平線を見た光景を抽象的に表現した作品。砂浜と海を4段階のグラデーションで表現した点が現代「4」コマらしいだけでなく、それら『コマ』の間の『枠線』を用いて波しぶきを表現しているところが上手い。色折り紙ををちぎっても表現できそうなところがまたイイ。

涙そうそう(作:いととと)

 『涙そうそう』の冒頭を図像化。「古いアルバム」と「めくり」の直球さにやられ、さらに「ってつぶやいた」でいかにもツイートっぽい図が出てきて追い打ちをかけられた。コマのスピードに緩急があるのもうまい。

『啼いてばかりじゃ――』(作:トウソクジン)

 4コマ詩人・トウソクジンさんによる都々逸。「口」の図像を並べて4コマとしつつ、テキストの都々逸としても自然に意味が通る二重性が秀逸。

『充電してください』『充電完了』(作:04-LMN)

 赤と緑を用い、コマをゲージに見立てて、バッテリー残量を表現した作品。特筆すべきは、先に『充電してください』の一本を提示し、また赤を4コマ目に配置することによって、ゲージが下から上にのびるもの、つまりこの4コマは下から上に読むものだと誘導している点だろう。逆順に読ませることを試みた作品の中で、これはテクニック的に明快に成功した事例であるように思う。

『枠線派 0コマ 面積派 0コマ』(作:トウソクジン)

 「枠線派」とはコマの根拠を枠線に、「面積派」は面積に求める思想だろうか。これは両端が閉じていない(枠になっていない)線分の集合(概念上は面積ゼロ)でコマの表現を試みた作品であり、枠線派と面積派の両方を挑発したものと言えるだろう。

『お正月遊び』(作:なむさん)

 マンガのコマと回る独楽をかけた作品。何気なく読み進めていったら、4コマ目でいきなりコマが回り出す、その唐突さに笑ってしまった。「コマ回し」の文字がブレててスピード感があるのがイイ。

『奢るよ』(作:きまぐれパズル)

 パッと見では1コマ目だけ描かれた4コママンガにしか見えないが、男女の二人の会食と思しき描写とタイトル、そして背景の暗さが脳内で接続されると、これはビル最上階のレストランを表現していること、そしてコマ自体がビルのフロアを表現していることに気づく。その瞬間のコペルニクス的転回な衝撃がすごかった。『4コマ目』を見切れさせることによって、実際にはこの下にはまだフロアがあることを暗に示す細かさもニクい。

『本棚』(作:いととと)

 『こち亀』のコレクションを表現した作品。コマを本棚に見立てた空間的な表現だけでなく、上から下に読めば収集の変遷が時間的にもあらわれてくるような、時空間的なコマの使い方は巧みのひとこと。最終巻とされた200巻はあるが、その後に出た201巻はないあたりにも、コレクターの機微が感じられてイイ。

『マリリン・モンロー』(作:視力)

 『七年目の浮気』の名シーンの抽象表現。3コマ目はもはや「コマ」ではないが、そんなの関係ねぇとばかりに押し通す力強さがイイ。4コママンガのように読んでも3・4コマ目からいわゆる転と結を感じられるオブジェクトの並びが見事だ。

『節分』(作:リタ伯爵(猫))

 巻き寿司の抽象表現。四色は玉子、カニカマ(または桜でんぶ?)、キュウリ、かんぴょうか。抽象的でありながら具象にかなり近い、絶妙なポジションにある表現に唸った。

『毎日これだよ』(作:九本)

 新聞4コマの位置に掲載されている空白の4コマ。「純粋4コマ主義」とは「純粋」の名のもとに空白の4コマに正当性を与える思想のことだろうか。確かに毎日これではうんざりするのも仕方がないかもしれない。

『駐車場』(作:鯏副社長)

 4コマと思ったら夜の駐車場だった。先ほどの『奢るよ』と同様に、コマが車に変わる瞬間のしてやられた感がすごかった。車庫入れしているところなのか、それとも車庫出しするところなのか、どちらとも取れそうな位置で描かれているところも上手い(私はバックによる車庫入れに見えた)。

『放浪者』(作:放浪者(なむさん))

 夜の砂漠を往く人の抽象表現。もはや「コマ」でもなんでもないが、4分割された領域と4つの色による表現からは『制約の中でいかに面白いことをするか』という精神を確かに感じられ、それって4コマに通じるところがあるよなあと思う。

『虹を見た日』(作:なむさん)

 こちらは空と街の抽象表現。『波風』と同じく、なむさんさんはコマ間=白を用いた表現も巧みだ。タイトルにある「虹」は『2コマ目』と『3コマ目』の間の白で表現されており、色を用いずに虹を表現している点が面白い。

『シリーズ〈器〉』(作:んぷとら)

 以前から続くシリーズで、この3月に大量の投稿があった。フォントごとの「器」の字体、特に4つの「口」を鑑賞するシリーズ。楷書体マールの「第五のコマを発生させてしまった」や、タカリズムの「古印体の掠れにも似た事件の香り」など、つけられたコメントが面白い。読みながら、『散歩する女の子』(スマ見、講談社)で「量水器」の字体を集める話を思い出した。

『3分経った』(作:いととと)

 今回紹介する作品の中ではおそらく最もバズったと思われる作品。角丸になった枠と左下隅の三角が気になってコマを読み進めれば、4コマ目でカップ焼きそばの湯切りだったという答えに気づく。3コマで3分間とした直感的な時間流、そして湯切りをシンプルでいて的確に表現した図像が、分かりやすくて広く受け入れられたということだろうか。

『エレベーター』(作:いととと)

 エレベーターが上の階から下の階へ移動する様を表現した作品。素直に進み進めれば、1コマごとに時間が進み、さらに階層も下に移動していることが読み解けるわけだが、4コマ全体をパッと見して複数階を表現したひとつの空間だと認識してしまうと違和が生じるという、現代4コマ技法を逆手に取った騙し絵的な要素が面白い。

『風船』(作:いととと)

 最初こそ上から下に読んだが、4コマ目までたどりついて、今度は下から上に読み直したくなる作品。謎を提示してから答えを示す流れと、風船が手を離れて空へ飛んで行く物語的な流れが、ひとつの4コマを読み進める方向の違いによって同時に表現されている点は示唆に富む。

『結婚式』(作:いととと)

 『結婚行進曲』の冒頭を表現した作品、あるいは『運命を思い付いた瞬間』のセルフオマージュ。言われてみれば、ちゃちゃちゃちゃーん、である。

『10年ぶり』(作:なむさん)

 特筆すべきは二人をとらえるコマの大きさが異なる点だ(1コマ目はもはや見切れている)。通常の4コママンガならコマの大きさを一定に保つためにカメラ視点を変えて表現するため、スクリーン上の記号では同じ大きさのコマでも、描かれている意味では空間の大きさが異なる。この作品は記号的な距離を一定に保つためにコマの方を拡縮して、意味上の空間を記号としてそのまま表している。要するに定点カメラのような視点は、4コマ目の二人の動きを殊更に強調することはなく、それゆえにそのわずかな動きが『謎解きの答え』のように現れてくるところが面白いと思った。

『シャッタースピードを速くしたことで4コマに』(作:きのじ)

 高速シャッターをアピールするCMでよく見る「パシャ、パシャ」の場面(伝われ)を表現した作品だろうか。パッと見ではそのように理解できつつ、よくよく見ると右の4コマでは1000分の4秒しか経っていないわけで、左右の『4コマ分のタテ幅』を比べると明らかに経過している時間の長さが異なる、という騙し絵的な要素が面白い。


 こうして見ると、私は『分かりやすい』作品が好きなのかもしれない。ともあれ、ひととおり書き残せたので、心置きなく展示会に行けます。

現代4コマ運営チームによる展示会の案内記事は↓こちら↓