損失・利得の管理方法による TCG/CCG の分類

前書き

 この記事を書くに至ったきっかけはいくつかある:

  • デュエマの対戦動画を見ながら、シールドってやつはカードだけで(小道具やメモ書きを用いずに)ライフ管理できる、よくできたシステムだ、と思ったこと。

  • 旧裏時代ぶりに再会したポケカをプレイしながら、どうしてポケカは(デュエマなどのように)劣勢側がサイドを引くシステムになっていないんだろう、と考えたこと。

  • MTG がついにマーベルコラボを発表したとき、これは今後あらゆる IP とコラボしていくのか!?と頭によぎったが、対立を元にしたゲームで再現できる概念には限りがある、と MaRo が言っていたことを思い出して考え直したこと。

  • Lorcana の(対戦相手をチャレンジで打ち負かすことによってではなく)クエストでロアを集めることによって勝利するシステムって、自己実現的で面白い、と感じたこと。

 こういったことがあって各 TCG/CCG のルールを改めて見てみたところ、どのゲームでも敗北や勝利に直結する損失や利得を管理している、という気づきを得た(客観的に勝敗が決まるゲームなので、当たり前っちゃ当たり前なのだが)。この記事ではそのルールを俯瞰してみることにする。

分類観点

 ほとんど全ての TCG/CCG では各プレイヤーの損失または利得を何らかの方法で値として管理している。そして損失が閾値に至れば敗北し、利得が閾値に至れば勝利するようにゲームシステムやルールが作られている。

 例えば MTG のライフは損失を管理するものであり、標準的な二人対戦であれば初期値は20点で、0点(またはそれ以下)になると敗北する。これはしばしば、対戦相手のライフを0点にしたら勝利、と表現されることもあるが、この記事では自分自身の損失または利得がどうなったら敗北または勝利なのか、という枠組みで見ることにする。つまり、自分自身のライフが0点になったら敗北、と見なすわけである。

 いくつかの TCG/CCG を調査したところ、次の4つの観点による分類ができそうだという感触を得た:

  • 損失か利得か — 敗北につながる損失を管理するものと、勝利につながる利得を管理するものに大別される。

  • 枚数かポイントか — デッキなどから所定の方法でセットアップしたカードの枚数を用いて管理するものと、カードとは別に小道具やメモ書きを用いて点数として管理するものに大別される。

  • カウントダウンかアップか — 正の値から始まって0という閾値に向かって数え下ろしていくものと、0から始まって正の閾値に向かって数え上げていくものに大別される。

  • (損失・枚数・ダウンの場合)シールド的かライフ的か — 枚数が0枚になっても即座には敗北しない(盾のような)ものと、0枚になったら即座に敗北する(生命力のような)ものに細分される。

具体的な TCG/CCG の分類

 日本国内の TCG/CCG 通販サイトをいくつか調べて取扱いがあったもので、アーケードカードゲーム(「スーパードラゴンボールヒーローズ」や「機動戦士ガンダム アーセナルベース」など)でないもの24タイトルをピックアップし、公式サイトで標準的な二人対戦のルールを調べ、前述した観点によって損失・利得の管理方法を6種類に分類した。

▲損失・利得の管理方法による TCG/CCG の分類

損失・ポイント・ダウン

 プレイヤー自身またはプレイヤーを表現したゲーム内のオブジェクト(以下「アバター」という。)に正の初期生命力が設定されており、これが0点になると対戦に敗北するもの。古典的な RPG でも採用されているシステムで理解しやすいが、ポイントを管理するための小道具やメモ書きが必要になる。

損失・枚数・ダウン・シールド的

 対戦開始時にプレイヤー自身またはアバターを守る盾となるカードを所定の方法で何枚かセットアップし、これが0枚の状態で相手側からの有効な直接攻撃を受けると対戦に敗北するもの。盾の呼び名はタイトルによって様々だが、ビルディバやワンピではこれを「ライフ」と呼んでいて少々まぎらわしい。

 ポイントを管理するシステムとの違いは、デッキのカードだけで管理できるところ、およびそのカードを使用した劣勢からの逆転(デュエマで言うところの「S・トリガー」)をシステムに組み込みやすいところだろう。

損失・枚数・ダウン・ライフ的

 対戦開始時にプレイヤー自身またはアバターの生命力を表現するカードを所定の方法で何枚かセットアップし、これが0枚になったら即座に対戦に敗北するもの。上に挙げたタイトルの中ではリセだけが少し特殊で、対戦開始時の山札の枚数をライフのようにも用いるシステムになっている。

 シールド的なシステムとの違いは、シールドやライフになったカードのうち最後の1枚をプレイできる期間や機会の大小だろうか。

損失・枚数・アップ

 対戦が進んで攻防が行われるにつれて、プレイヤー自身またはアバターが受けたダメージを表現したカードの枚数が増えていき、これが正の閾値に達したら対戦に敗北するもの。山札の上からめくってダメージとするゲームについては、いわゆるライブラリーアウトやリフレッシュのルールも直接的に関係することに注意。

 カウントダウンによるシステムとの違いは、いわゆる「盾落ち」を対戦開始時にはケアしなくていい点と、0でない閾値を覚えておく必要がある点だろうか。

利得・枚数・ダウン

 調査した範囲ではタイトルが少ない。ポケカでは対戦開始時に、各プレイヤーは少なくとも1匹のポケモンを場に出し、また山札の上から6枚を「サイド」としてウラ向きでセットアップする。サイドは相手のポケモンを1匹「きぜつ」させ(倒し)たときに1枚だけ引き、自分のサイドが0枚になったプレイヤーが対戦に勝利する。または、自分のポケモンが0匹になったプレイヤーが対戦に敗北する。

 ポケカのサイドがこのようなシステムになっているのは、原作ポケモンのシングルバトルにおける「相手のポケモン(最大6匹)を全てきぜつさせたら勝利」を再現しようとしたためだろう。しかしこれは「自分のポケモン(最大6匹)が全てきぜつしたら敗北」と同じであり、ここまでに見てきた分類では損失・枚数・ダウン・ライフ的に管理するようなシステム作りも不可能ではなかったはずだ。対立を元にしたゲームだから不自然ではないし、劣勢からの逆転も組み込みやすい。

 とはいえ、既に数多くのカードが現在のサイドのシステムを前提に刷られており、その中には自分と相手のサイドの枚数を比較するものもある。エラッタによる修正は可能だとしても、印刷された文章と実際の効果が異なれば混乱は避けられないだろう(筆者もいまだに「ポケモンキャッチャー」で混乱することがある)。そもそも、根幹のルールにメスを入れること自体がTCG/CCG としてはインパクトの大きいことである。新裏になって既に20年以上が経った今となっては、もはや変更は難しいのかもしれない。

 Vividz では対戦開始時に、各プレイヤーはあらかじめ用意した3枚のミッションカードをオモテ向きでセットアップする。ミッションにはクリア条件が書かれており、クリアしたらウラ向きにする。そして自分の全てのミッションをウラ向きにしたプレイヤーが対戦に勝利する。こちらは直接的で理解しやすいシステムである。

利得・ポイント・アップ

 この分類もタイトルが少ない。スクコレではセットリスト(サブデッキ)から引いた楽曲カードにメンバー(キャラクター)を参加させてライブを行い、ライブPを獲得していく。そしてライブPが9点になったプレイヤーが対戦に勝利する。

 Lorcana では、キャラクターにはチャレンジ(相手のキャラクターへの攻撃)とは別に、クエストを行わせてロア(Lore)を獲得することができる。そしてロアが20点になったプレイヤーが対戦に勝利する。

 今回の分類ではスクコレと Lorcana が近いと分かって面白かった。言われてみればラブライブの物語って対立というよりは自己実現が元になっている。

所感

 今回調査した TCG/CCG の多くがプレイヤーの損失を枚数により管理していた。対立を元にした「相手を打ち負かす」フレーバーをシステムに組み込むために損失を管理し、またデッキ以外の補助道具が不要で済むことから枚数による管理になっているものと思われる。