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夏への扉

大粒の雨が一定のリズムで冷たく傘を打ちつけていた。図書館で過ごした静かな時間から一転し、ウサギは外の厳しい寒さに身を震わせながら、水たまりを慎重に避けて帰路についていた。彼女の心は、まだ温かい図書館の中の物語の世界に留まっていた。

ウサギの心を満たしていたのは、ロバート・A・ハインラインの「夏への扉」。物語の主人公、飼い猫のピートをこよなく愛するデイヴィスの姿が、まるで鏡に映る自分のようで、30年後の未来へ踏み出す勇気にひそやかな共感を感じていた。「もしも私がデイヴィスのように時を越える勇気を持てたら……」と彼女は思いを馳せた。未知の世界への一歩は、彼女の心にある遠い憧れだった。

「30年後の世界か。僕には想像もつかないな」と、ウサギに本を勧めたカメが、静かに彼女の隣を歩いていた。彼はデイヴィスの発明家としてのアイデアと情熱に、尊敬と好奇心を抱いていた。「あの情熱はどこから来るのだろう?」デイヴィスの情熱は、彼にとっては遠くて近い理想像だった。

「夏への扉」。それはデイヴィスにとっても、猫のピートにとっても「困難に負けず、幸せを求め続ける」ことを意味しているように思えた。その強い意志と行動力に、二人は心を奪われていた。

「幸せな未来なんて、ただ待っているだけでは来ないわ」とウサギがつぶやくと、「幸せになれるように、今できる小さなこと、その一つ一つを大切にしたいね」と、カメは静かに頷くと、優しく彼女の手を取った。

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