マガジンのカバー画像

読書のお部屋

62
本の世界から始まる物語
運営しているクリエイター

#荒井良二

ユックリとジョジョニ

ユックリとジョジョニ

その朝、ウサギは目を覚ますと、夢の余韻を感じながら静かにカーテンを引いた。今にも泣き出しそうな空を見て、彼女はもう一度ベッドに戻ると、温かい毛布にくるまった。

その時、部屋の隅に置かれた小さな本棚が、なぜか自分を呼んでいるように感じた。気づけば足がそちらに向き、青い背表紙の絵本に手を伸ばしていた。

「こんなお天気の日は、物語の世界に旅しなさいってことね」ウサギは部屋着をふわりと羽織り、窓辺の椅

もっとみる
あの時の日記帳

あの時の日記帳

その日、カメは部屋の本棚から一冊の日記帳を取り出した。ページをめくると、あの時の記憶が鮮やかに蘇ってくる。

今日、図書館で返却作業をしていたら一冊の絵本に出会った。表紙には砂漠を横切る孤独な道と、その道をひたすら歩く旅人の姿があった。一旦ページをめくり始めると、その指は途中で止まることはなかった。

その旅人はバスを待っていた。馬に乗った人が通り過ぎても、自転車に乗った人が通り過ぎてもバスは来な

もっとみる
モンテロッソのピンクの壁

モンテロッソのピンクの壁

暖かさがやってくると、人はふと旅をしたくなる。旅立つのにちゃんとした理由など要らない。でも何処へ行く? 猫のハスカップにはなんの迷いもなかった。「モンテロッソへいかなくちゃ」

「不思議な旅をする本が読みたいわ」と願ったのはウサギだった。そんな彼女にカメが薦めたのは、江國香織さんの「モンテロッソのピンクの壁」という絵本。その表紙には、まるで「白ワインで蒸した鮭みたいな」ピンクの壁が大きく描かれてい

もっとみる
ぼくの小鳥ちゃん

ぼくの小鳥ちゃん

映画「マダム・ウェブ」の上映が始まって、さほど時間は経っていなかった。主人公のキャシーの部屋の窓ガラスに鳩がぶつかるシーンで、彼女は未来を視る能力に目覚めた。「このシーンは…」映画館のシートにひとり座るカメの記憶の底から一冊の本が甦った。江國香織さんの「ぼくの小鳥ちゃん」だ。

「ぼくの小鳥ちゃん」の主人公である「僕」と小鳥ちゃんの出会いは、雪の降る朝の部屋の窓辺だった。そこに小鳥ちゃんが不時着し

もっとみる