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「星に願いを」
「星に願いを」という曲。
言わずと知られたディズニーの名曲で、この曲がお気に入りの人も多いかもしれない。
僕はこの曲を知らない。
でも「星に願いを」は聴いたことがなくても「星に願いを」とは関わりがある。
☆☆☆
高校時代によく話す女の子がいた。と言っても現実での関わりはほぼ無く、僕らの接点はSNSのみだった。所謂、ネッ友(インターネット上の友達)というやつである。
正直に言うと、僕はLINEはただの連絡手段としか考えていない。なので他の人とのLINEは超短文、若しくは即既読スルーですぐ終わらせようとするタイプである。
それなのに、この子とのLINEだけはめちゃめちゃ長文になるし、それも長期間にわたって熱中している。高校時代楽しめたのも彼女との交流があったからかもしれない。
そろそろ本題に移ろう。
高校2年生のとき。
僕たちの高校は、その他大勢の高校と同じく北海道が修学旅行の行き先だった。
僕と友達が北海道の自主研修で最初に向かったのは、札幌ポケモンセンターだった。
アニメ、漫画、ドラマ、映画、音楽。一切のエンターテイメントに何の興味も持たなかった僕だったが、ポケモンだけは一端のオタッキーだったと思う。
LINEでよく話していた女の子もポケモンが好きだった。僕は日頃の感謝の気持ちも込めて、その子のためにお土産も一緒に買う。一緒に修学旅行に行っていたが、贈り物するには良い機会だと思ったのだ。
その日の夜、自由研修が終わってホテルで一息ついていたときのことである。札幌ポケモンセンターで限定ポケモンカードを手に入れれた僕は、有頂天になりLINEのプロ画をポケモンセンターの写真にした。
ピロリン♪
僕のスマホが鳴る。
早速、誰かが俺のプロ画に反応したのかなと思いLINEを開くと、あの子からメッセージが来ていた。
彼女からのLINEの内容はやはり、僕のプロ画について。ポケモンセンターに時間がなくて行けなかった彼女は羨ましそうにしていた。
そこで、ポケモンセンターに行ったことを大いに自慢しながら彼女にお土産を買ったことをさりげなく伝える。すると彼女は想像以上に喜び、「○○君のお礼に私もお土産買う」と言ってくれた。
修学旅行の最終日。最後の活動は「小樽の自由研修」だった。僕たちの班は基本的にノープランで回っていたが、その行き当たりばったりの中で僕は決定的な運命に出会った。
小樽の町外れに小樽の老舗オルゴール店がある。誰をも受け止めてくれそうな優しい感じの店。班のメンバーのほとんどはオルゴールに全く興味が無さそうだったが、僕はどうしても入りたくなった。運良く、「姉ちゃんにオルゴールをお土産にしたい」と考えた班リーダーが賛成してくれたので、思いきって店の扉を開く。
カランコロン─
全ての音が綺麗だった。
四月の北海道は寒いぐらいなのに、店内は涼風が吹いているかのように心地よい。
そうした中、僕は突如として昨日の"LINEの女の子"との会話を思い出す。確か、彼女は僕にお返しをくれるって言ってたっけ。そういえばもう少しで彼女の誕生日だし、ここでも何か買おうかな。
そう考えて店内を注意深く見回す。そこに震い付きたいほどに良いデザインのオルゴールを見つけた。曲名は知らなかったが、切なく儚げな旋律がとても美しく、僕は一目惚れしたような感覚に陥った。
値段は少々張っていたけど、彼女にはお金で換算できないぐらいお世話になっているし結果的に後悔の無い買い物が出来て良かったと思っている。
因みに僕が買った曲は忘れてしまった。一度彼女が僕の送ったオルゴールの曲名を教えてくれたけど、もうトーク履歴が消えてしまって今となっては分からない。
修学旅行から帰った初日、僕と彼女はプレゼント交換した。
正直、とてつもなく不安だった。別に彼女とは現実でもあまり関わり無いし、まして付き合っているわけでもない。なのにオルゴールを贈るというのは、重いと思ったのだ。もしかしたら気味悪がられて、もう楽しいやり取りも出来ないかもしれない。それでも日頃の感謝の気持ちも伝えたい。
そんな想いが葛藤するなか、僕はオルゴールを渡すことを選んだ。相当覚悟して望んだプレゼント交換だったのである。
※もはやポケモンセンターで買ったお土産は僕の頭からは完全に消えていた笑
幸い、プレゼント交換は掃除する前の一瞬の間に行ったので、その場でプレゼントを開く時間など無かった。だからその場で彼女は僕から何が贈られてきたのか知らないはずだし、僕も彼女からの贈り物が何なのか知る術は無かった。
その日の部活が終わる。そして、早く彼女からのプレゼントが見たい、その一心で友達からの寄り道の誘いも断り家路を急いだ。
部屋に駆け込み、プレゼントを机に置く。
緊張の瞬間。
僕は、包装用紙をそっと優しく開いた。
そして驚いたのだ。
包みの先にあったのは、
オルゴールだった。
急いで手紙を開く。手紙には、重いかもしれないけどオルゴールを贈ること、そして感謝の気持ちが綴られていた。
読んでいただけている皆さんには、何となく予想がついていたかもしれない。けど僕は当然知る由もなく、大いに驚いて大いに幸せを感じたのだ。
そしてこれこそ予想できると思うが、
彼女から贈られたオルゴールの曲は、
「星に願いを」
僕の未だに知らない曲である。
なぜまだ聴いていないのかと言われそうだが、勿体ないの一言に尽きる。ここぞというときに聴きたい。僕は彼女とのLINEでとても救われた。ただの「星に願いを」では意味がない。が、彼女からの「星に願いを」は心に届く気がする。
さて。
結局その後も、何も関係に変動がないまま卒業してしまった。卒業式以来、彼女とは一度も会っていない。もう会うことも無いという悪い予感さえする。
でも彼女は僕に大きな影響を持たらした。それは今でも変わらない。卒業してもなお、相変わらずやって来る超長文のLINEの返信を、らしくなく真面目に考える。
いつかまた会えたら良いな。会ったところで話さえろくに出来ない気がするけど、せめて感謝の気持ちぐらいは直接伝えれたら良い。
そんなわけで、