○×ゲームの話。
私が彼と出会ったのは、もう15年も前の事。
出会った頃の彼は、すでに女子に括るのは相応しくないように見えた。
髪は今より長めでサラサラだったけれど、金髪。服装は、パーカー・ジャージ・スウェット。
オンリー。
たまにサスペンダーなんかも垂らしていたなぁ。
頭から足の先まで原色で。
まるで歩く信号機。
そして語尾には〇〇っす。
これがヘルメットを逆さに被って、原付でやって来る。
怖い。
仲良くは…なれなさそうだった。
今の彼は、人見知りで外では猫を被りまくっている(本人談)らしいのだけれど、当時の彼は誰にでも愛想を振り撒いているようなタイプで、男女問わず年上組からは【尻尾をブンブン振っている子犬】と言われていた。
確かによくよく見ると、童顔で可愛い顔。
コミュ力が高く、いつも明るい。
愛嬌の塊だった。
けれど、一方では尖ってもいた。
ギラギラ・バチバチ・イケイケの三拍子。(表現が古い)
女の子、だよね?
少年、に見える。
今の仕草、男の子だったなぁ。
かっこいい女の子。
危なっかしい、目が離せない。
明らかに女子ではない・・・
Rくんを見るたび私は彼に興味が湧いて、感情が揺れ動いた。
私は元々人見知りで、当時はある要因から更に他人に心を閉ざして生きていた。
生きていたとは言い難い日々だったかもしれない。
周囲の人達の助けによって、辛うじて命を繋いでいただけだ。
そんな時期にRくんと出会った。
知り合って数ヶ月が過ぎても、私は一方的に彼を観察するばかりで、面と向かって話した事はなかった。
そんなある日、偶然二人きりになったタイミングで彼が言った。
「姉さん、○×ゲームやんないっすか。」
はじめて二人きりで話すのにいきなりそれ?と驚く私を置き去りにして、彼は淡々と線を引き、バツを書いた。
「はい、姉さんの番。」
(姉さん...)
私は戸惑いながらもマルを書いた。
「そうきたか。」と彼は言って、バツを書き、私はまたマルを書いた。
呆気なく引き分けた。
(大体そうなるやろ。大人だもの。)
「くっそー。もう一回戦!」と彼は言って、私が返事をする間もなく二回戦目に突入した。
またバツを書く彼。
瞬時にマルを書く私。
「おっ。そこっすか。」と彼。
再びの呆気ない幕切れ。
(何がおもろいねん。)とツッコミそうな私の横で、彼はケラケラと笑った。
一転。真面目な顔で、
「くっそー。勝てねー。今度こそ負けないぞー。」
と言った。
(まだやるつもりかい!!)
小学生男子のような台詞と、解放されそうにない初歩的ミスを犯さない限り引き分けループゲームに、私は気付いたら涙を流して笑っていた。
年上の女が、自分でも引くほど泣き笑いしている姿に、彼は目を見開いて、こう言った。
「・・・楽しくなかったっすか!?」
20代の女は○×ゲームは楽しくないやろ!!(笑)
これが彼と私の最初のエピソード。
彼にはこう言ったけれど、私の人生で一番楽しかった○×ゲームの話。