女子サッカーに携わる風間氏に期待すること
先月末、女子サッカー界にビッグニュースが飛び込んできた。
風間氏について今さら紹介するまでもないだろう。川崎と名古屋で指揮したサッカー界随一の理論派だ。
風間氏が指導する静岡SSUアスレジーナは今シーズンから本田美登里氏を新監督に迎え、なでしこリーグ1部での豊富な経験を持つDF左山桃子を獲得。所属はチャレンジリーグだが、今季の女子サッカーにおいて注目すべき存在だ。耳目を集めるこのチームに風間氏がどんな化学反応をもたらすのか、楽しみでならない。
さて、風間氏が女子サッカーに携わると知って胸を踊らせたと同時に、私はある人物のことを思い浮かべた。フィリップ・ネヴィルである。
海外サッカーに詳しい方であれば、フィリップ・ネヴィルの名前くらいは聞いたことがあるはず。マンチェスター・ユナイテッドに10シーズン在籍し、イングランド代表でも実績を残してきた人物だ。2018年1月からはイングランド女子代表の監督としてチームを指揮している(来年7月に契約満了で退任する予定)。
ネヴィルは監督に就任してから初の公式戦となった2018年3月のSheBelieves Cupで、イングランド女子代表が抱えていた問題点を公にした。飛行機での移動手段である。ネヴィルは、開催地の米国までエコノミークラスでの移動を強いられたことに不満を表明。「結果を出すには最高の環境が用意されなければならない」とイングランドサッカー協会に訴えた。
ネヴィルの主張は『タイムズ』『ガーディアン』などのメディアによって大々的に報じられた。それはなぜか。おそらく、ネヴィルがサッカー界で知名度のある人物だからではないだろうか。仮にもし女性監督による主張だったとしたら、大した注目を集めなかったはずだ(誤解のないようにあらかじめ断っておくが、女性監督が男性よりも劣っているということではない)。
アフガニスタン女子代表を率いるケリー・リンジー監督が、ネヴィルの訴えが関心を持たれたことについて興味深いコメントを残している。
「女子チームを指揮する女性の監督による訴えだったとしたら、誰も耳を貸さなかっただろう。『ハハハ。だけどそういうものだから仕方ない』と返されただけ」
「ネヴィルのような人物が女子チームを率いることはポジティブな要素もある。本当に必要なことを発言できるし、周りも話を聞いてくれる」
ネヴィルが代表監督に就任した当初、その手腕を疑問視する声が少なくなかったという。だが少なくとも、女子サッカー界にとっては当たり前の環境が実は当たり前ではないという事実を浮き彫りにしたという点においては評価できる。ちなみに今日のイングランド女子代表は、遠征時にはプレミアムエコノミーもしくはビジネスクラスで移動しているようだ。
風間氏には、このネヴィルのように、日本の女子サッカーが抱える問題点や改善点についてメディアなどを通して発言してほしい。アスレジーナのアドバイザーに就任するというニュースを知ってネヴィルを連想したのは、そういう理由だ。
風間氏がアスレジーナを指導するのは月に1回程度だという。決して多くはない。とはいえ、女子サッカーに触れる機会が増えれば増えるほど、男子サッカーとの違い(不平等)に気づくかもしれない。風間氏には、そういった点をメディアなどを通して明らかにしてほしい。女子サッカーの発展を強く願ういちサポーターからの要望である。