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2019年スウェーデン女子サッカー観戦記①

「日本女子サッカーの発展に貢献したい」

昨年最後のツイートで、2020年の抱負としてこのように書いた。そこでこのスウェーデン女子サッカー観戦記である。いきなりこんなことを切り出されても何のことかわからないだろう。そこで、まずは簡単に自己紹介をしたい。
 
私は1994年の男子W杯で3位入賞したスウェーデン代表に魅力を感じ、この国に興味を持つようになった。20代後半には勤めていた会社を辞めて現地に留学(という名の遊び)したこともある。今は、ネットで現地のサッカー情報をチェックするのが日課だ。本業はしがない会社員だが、その傍でスウェーデンをメインとした北欧のサッカーに関する記事を「フットボールチャンネル」「ワールドサッカーダイジェスト」などのメディアに寄稿している(以下は、たくさんの方に読んでいただいたエミル・サロモンソンの紹介記事)。

北欧サッカーを追いかける一方、2011年のなでしこブームに感化されて女子サッカーにも興味を持つようになった。ブームをとうに過ぎた今も、暇を見つけてはなでしこリーグの試合に足を運んでいる。よく行くのは西が丘や浦和駒場だが、長野パルセイロレディースがお気に入りだ。昨年は南長野を4回訪れた。
 
女子サッカーを観始めた頃は、単なる趣味として接してきた。だが、このスポーツに対して何らかのかたちで貢献したいという思いがここ数年で強くなっている。「サッカーは世界中で愛されているスポーツなのに、人気や待遇においてどうして男子と女子でこんなにも差があるのか?」という疑問を抱いたのがきっかけだ。私自身が「マイノリティ」にもともと関心が強いことも理由の一つかもしれない。過去には「サッカーとLGBT」「サッカーと移民」というテーマについてスウェーデンをクラブを取材してサッカー雑誌に寄稿したことがある。

どのようなかたちで女子サッカーに貢献するか。その手段の一つが、ツイッターで情報を発信していくことだ。スウェーデン語が少し理解できるので、現地の女子サッカーに関するニュースを紹介することで、サポーターや選手など女子サッカーに関わる人に情報を提供できる。インターネットの発達によって国境の壁はなくなったとはいえ、全ての人が海外のニュースを追い切れているわけではない。サッカーの場合、豪華絢爛な男子であればさまざまな媒体が海外サッカーのニュースを提供しているが、女子についてはまだまだ少ないのが現状だ。なでしこジャパンが昨年のW杯でベスト16で姿を消したあと、「このままでは世界に追いていかれる」という声がサッカーファンの間で多く見られた。サッカーに限ったことではないが、手当たり次第に海外(欧米)を礼賛して「それに比べて日本は」という傾向は大嫌いだ。とはいえ、ここ数年で欧州を中心に女子サッカー界が急速に成長しているのはまぎれもない事実。日本も何かしらのアクションを起こさなければならない。

その一つが、他国の女子サッカーを知ることだ。外国のよいところを取り入れてうまく消化するのは日本の専売特許である。米国やドイツといった女子サッカー大国に関してはほかの方が発信してくれるはず。私はスウェーデン語という武器にもならない武器を生かしてこの北欧の小国に関する情報を紹介することで、日本女子サッカーの役に立ちたい。今回の「スウェーデン女子サッカー観戦記」もその一つである。
 
昨年9月、夏季休暇と有休を利用してスウェーデンに滞在し、女子トップリーグを3試合観戦した。なでしこリーグとの違いなど、この時に感じたことを今回ここで紹介したい。

その前に、まずはスウェーデンリーグについて簡単ではあるが以下にまとめた。

「強豪」から「古豪」に

スウェーデンのクラブチームといえば、00年代は欧州の強豪として位置付けられていた。
 
有名なのが、ウーメオIKだ。欧州カップ優勝2度(2002-2003、2003-2004)、準優勝2度(2006-2007、2007-2008)という成績からわかるように、当時は欧州トップクラブのチームだった。ほかにも、ユールゴーデン/エルヴシェーやマルメFFが決勝に進むなど存在感を放った。

だが、10年代に入ってその地位を失った。イングランドやスペインといった大国が女子サッカーに力を入れ始めたことで、近年はチャンピオンズリーグでグループリーグ突破するのがが関の山となっている。2019-2020シーズンはピーテオIFとコッパルベリ/ヨーテボリFCが参戦したが、ともにベスト32で敗退した。
 
スウェーデン初の女子サッカーチーム

スウェーデンで初の女子サッカーチームは1966年に誕生した。名前はエクサベックIF。当時の人口わずか200人の町に構える繊維会社Gefaの工場で勤務していた4人の女性が女子チームの設立を会社に提案したのが始まりと言われている。試合用のユニフォームは自分たちで縫って作成したこともあったという。

エクサベックは1973年から1988年までの間にリーグ優勝を6度成し遂げるなど、国内女子サッカーのパイオニアとして隆盛を誇った。なお、1990年代に鈴与清水FCラブリーレディースでプレーしたスウェーデン人アンネリ ・アンデレーンはこのクラブで13年間プレーした。

選手の待遇は世界5位

トップリーグのダムアルスヴェンスカン(Damallsvenskan)でプレーする選手の過去3シーズンの平均給与(月)は以下の通りである。

2018年 11319クローナ
2017年 10193クローナ
2016年 10462クローナ
※1クローナ=約11円

英Sporting Intelligenceが2017年に実施した調査では、ダムアルスヴェンスカンに所属する選手の給与はフランス、ドイツ、イングランド、米国に次いで5番目に高いという結果が出ている。

https://www.fotbollskanalen.se/damallsvenskan/damallsvenskan-femma-i-varlden-pa-lonelista/

世界5位といっても、完全プロ化というわけではない。

スウェーデンの民間労働組合Unionenがダムアルスヴェンスカンでプレーする選手の給与事情についてまとめたレポートによると、約半数がサッカーだけで生計を立てられないという。

https://www.expressen.se/sport/foreningsliv/tvingas-jobba-extra-det-ar-inte-rimligt/

観客動員数

過去4シーズンの1試合平均観客動員数は以下の通りである(直近の2019年シーズンは現時点で不明)。

2018年 894人
2017年 809人
2016年 815人
2015年 907人

チーム別に見ていくと、2018年シーズンのホームゲーム平均観客動員数が最もピーテオIFの1999人。以下ハンマルビーIFの1383人、コッパルベリ/ヨーテボリFCの1087人と続く。最少はリンハムン・ブンケフロー07の484人となっている。

マルタ「スウェーデンは第二の母国」

「スカートを履いたペレ」。女子サッカーをチェックしていない人でもマルタという名前を聞いたことがあるはずだ。これまでFIFA年間最優秀選手に6度選出されたサッカー史上最高の女子選手である彼女にとって、スウェーデンは特別な国である。

2004年、17歳の時にブラジルを離れたマルタは、当時の欧州サッカーでその名を轟かせていたウーメオIKに移籍。03−04シーズンの欧州チャンピオンズリーグ決勝で2得点をあげて優勝に貢献するなど、チームの一時代を築く。後年プレーしたティーレソーFFとFCローセンゴードでもリーグ制覇を成し遂げるなど、スウェーデンで輝かしい成績を残した。

ピッチの外でも充実した日々を過ごした。メディアのインタビューで「自分がスウェーデンで築いた歴史はサッカーだけにとどまらない。普段の生活にも満足している。この国が好きだ」と話している。ティーレソーの入団会見では「スウェーデンは第二の母国」と涙ながらに語った。

2017年にスウェーデンの国籍を取得したマルタ。引退後はこの北欧の国で生活することも検討しているという。

スウェーデンリーグでプレーした日本人 

私が知る限り、これまで2人の日本人がスウェーデンリーグでプレーした。
 
1人目は、代表歴を持つ山口麻美さん。米大学リーグの最優秀選手に贈られる「ハーマントロフィー」を引っさげて、2008年にウーメオIKへ移籍。先述したマルタと共にプレーし、欧州チャンピオンズリーグ準優勝と2度の国内リーグ制覇を経験した。その後、米アトランタ・ビートおよび日テレ・ベレーザを経て、2011年シーズンにハンマルビーDFFに加入。毎年のように残留争いを強いられるチームの中心として活躍が期待されたが、右膝の怪我によって思うようなプレーができず、1年で退団した。

もう一人は、野口亜弥さん。日本の大学卒業後、米国の大学院に通いながらサッカーと学業を両立させてMBAを取得した後、2014年にリンショーピンFCと契約。約半年間プレーした。

外国人選手

ダムアルスヴェンスカンでプレーする外国人選手の数は2019年シーズン開幕時点で73人。国籍の数は19にのぼる。最も多いのは隣国フィンランドの14人。続いて、意外かもしれないが米国の13人。先述した山口麻美さんや野口亜弥さんのように大学リーグでプレーした後にスウェーデンにやってくるというケースが多い。ほかには、ナイジェリアや南アフリカといったアフリカ諸国出身の選手が目立つ。昨年のW杯ではスウェーデンリーグから18人の外国人選手がそれぞれの代表チームの登録メンバーに選ばれた。

過去にはマルタのほかにもホープ・ソロ、クリスティン・プレス、ナディネ・アンゲラー、アーニャ・ミッターク、ラモーナ・バックマンといった有名選手がスウェーデンでプレーした。

欧州の「輸出大国」

FIFAのレポートによると、2019年に42人の選手がスウェーデンのリーグ(カテゴリー問わず)から他国のクラブに移籍したという。この数字は欧州各国リーグのなかで最も多い。スウェーデン代表で中心選手として活躍するコソヴァレ・アスラニは、レアル・マドリーが保有するCDタコンの新加入選手第一号となって話題となった。

https://www.fotbollskanalen.se/damallsvenskan/sverige-storsta-exportoren-av-damspelare-i-uefa-galler-att-skriva-langre-avtal/