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日暮里保育園のウッドデッキ

はじめに

 日暮里駅から徒歩10分にある日暮里保育園。
2019年4月に東京都荒川区に開園しました。

 今回は日暮里保育園の園庭にある小さなウッドデッキの木が朽ちて来たため、新しいものにします。

社会福祉法人ゆうゆうの園の造園をしてくださっているのは「株式会社空庭 彌永秀一(やなが しゅういち)」さんです。

彌永さんが開園当初のことや造園の想いを教えてくれました。

株式会社空庭 彌永秀一さん

 山梨県を中心に造園業を営んでいます。
保育園だけでなく、大学や個人邸、洋服ブランド店などの造園を行っています。

彌永さんとの出会いは、

彌永さんの親戚のこどもが社会福祉法人ゆうゆうが運営する
すみよし愛児園に通っており、
園に通い始めてから、
体格が見違えるほど変化したようで、
どんな環境なのか見に来たところがはじまりです。

 すみよし愛児園の園舎建て替えの際に、
どうしても切らないといけなくなってしまった桜の木を、
ただ切ってしまうのではなく、

何らかの形に残したいという理事長の熱い気持ちに、
業者さんからは無理だよと何人も断られてきましたが、
彌永さんが手をあげてくれ、木の根にオイルを塗り、
桜の木を残してくれました。

園舎の入り口にあり、園庭の遊具とは少し離れているため、こどもたちは特別感がある場所として楽しんでいます。

 社会福祉法人ゆうゆうの園庭は彌永さんに依頼しています。
その街、土地に馴染む、景色になる、おとなが良いなと思える空間づくり。

要素として、植物や土、これらもいろいろな切り口があり、
いろいろな自然素材になります。

現在は2024年4月に開園した山梨県韮崎市にあるキヅキの園庭を

造っていただいており、

「ランドスケープの3つのコンセプト」

を掲げて園庭づくりをしていただいています。

①“自然”だけでなく、“自然との暮らし”を身近に
②風景と繋がり、土地に馴染むこと
③多様性を許容する自然の中の社会を知ること

詳細はこちらをご覧ください。

 保育園の園庭を造る時には、

こども向けのデザインではなく、
おとな向けのデザインを考えています。

先生たちはこどものことを第一に考えているので、
その場を造る人はおとな向けのことを考えて、
おとなにとって良い場所をつくればこどもにとっても良い場所になると教えてくれました。

私たち社会福祉法人ゆうゆうは目の前のこどもに対してだけではなく、
こどもたちの未来、社会全体に働きかける活動を日々行っています。

彌永さんもその理念に共感してくださり、おとなに響くものを造ってくれています。

日暮里保育園もこの場所に根付きやすい植物、
関東の山に生えている植物を中心に植栽しています。

日本の自然を知ってもらい、
自然のありようが、
この場所をもって感じられるような場所になれば良い

という彌永さんの想いが込められています。

日暮里保育園

 日暮里保育園は2019年4月に
東京都荒川区から公園跡地を貸与していただき開園しました。

この公園から少し離れたところに旧荒川区東日暮里保育園があり、
その園舎の老朽化に伴い建て直すことが決まり、
日暮里保育園に移行することになりました。

日暮里保育園は住宅街の中にあり、
当初は、近隣の方、保護者から建設に対して反対の意見もありました。

近隣の方からは、

「この住宅街の中にある数少ないこどもたちの憩いの場であるこの公園を
取り壊してまですることなのか。
公立の東日暮里保育園を民間にする必要があるのか。」
などの意見もいただきました。

そのような中で、
当時王子本町保育園の造園をしていた彌永さんに
日暮里保育園の造園も依頼しました。

 彌永さんは過去に周りの環境が変わることで、
こどもが不安定な状態になることを経験しており、
今回も、園舎が変わり、
場所、あそび、先生が
おとなの都合で変わる中、
こどもたちの気持ちが置いてきぼりになってしまうことを懸念しました。

そこで、
今後日暮里保育園に置くかもしれない要素(切り株など)を先に旧保育園に持っていき
少しでも馴染んでおけば、
それらと一緒に引越しすることで、
安心して過ごすことができるのではないかと考えました。

公園にあった紫陽花を挿し木して植えたり、
伐採されることが決まっていた公園の楠を持っていったり、
土を運んだり、
少しずつ園庭をカスタムしました。

園で自主的に動くことができるこどもを育てようとしているなら、
おとなもそうあればいいな。

こどもにとってより良いことが見えているならやってしまおう。

彌永さんは、新しい園舎に対して、公園は無くなっても、
散歩して通ったりした時に、
景色として雰囲気が出せる状態にして
外からでも人が楽しめる要素を造りますと宣言しました。

徐々に旧保育園の先生、こども、保護者にも想いが届き、
地域の方にも公園にある桜やケヤキなど、
環境の変化を減らす園舎を提案し受け入れていただきました。


日暮里保育園はもう少しで開園7年目。こどもたちは毎日元気に登園しています。

日暮里保育園の園庭、園舎

 日暮里保育園の園舎は2階建てになっています。
旧公園を囲む形で作られた園舎は、
2階の廊下がぐるっと一周繋がっていて、
太陽の光がとてもあたたかいです。

園内どこにいても園庭であそぶこどもたちを見ることができます。

公園にあった大きなケヤキの木、桜の木を生かした園庭です。

日暮里保育園

園舎の反対にも園庭があります。

ナンテンやユズリハなど様々な植物、木々があります。

鳥が糞をして違う植物の種を運び、

はじめは数種類で小さかった植物も7年かけて育ち、

自然のサイクルができるようになりました。

都会の中とは思えないこの空間で、
こどもたちは心が落ち着かされじっくり遊びます。

土や枝、葉があるとこどもたちはずっと帰ろうとしません。

私たちおとなの目線では気づきづらいのですが、
こどもの目線だとたくさんの実がなっており、

0.1歳児はよくここで立ち止まり、じっと見ています。

おとなの目線
こどもの目線
ランチルームから見える園庭

 彌永さんは
園庭に壇香梅(ダンコウバイ)や山桜、ススキなど
日本に元々生えていたものを植えています。

ランチルームからの園庭の景色は社会福祉法人ゆうゆうの理事長もお気に入りで入園の見学に来た方々も圧倒されます。

ウッドデッキ

 公園にあったヒノキの木を使い
彌永さんがウッドデッキを造ってくれました。
6年の月日が過ぎて、だいぶ木が朽ち、
何とか補強して耐えてきましたが、
こどもの安全面も考えて彌永さんに改修の相談をしました。

 開園当初の園長、現在の園長、主任の想いとして、朽ちて古くなったから捨てるのではなく、何かにしたい。
どうにか使えるものにしたい。
と言うことで頑張ってきましたが、

今回その思いを叶えつつ、彌永さんが新しいウッドデッキを提案してくました。

 そもそも、元々なぜここにウッドデッキがあるのかというと、
ウッドデッキの真ん中にある木は
かっこいい形の木を植えたから登りやすくて、
こどもたちがどんどん登るから、
木の表面がつるつるになってしまい、
枝も無くなってしまいました。

その下の土も踏まれまくり、
根がカチカチになってしまい、木が弱ってしまいました。

しかし、何とかこの木を残したいということで、
根を守るためにウッドデッキを作りました。

そのため、防腐剤も塗らず朽ちていいものとして作成しました。

今までのウッドデッキ

そして、今回こどもがいる時間を選び作業しました。

あえてこの時間に行うのには先生たち、
彌永さんのある想いがありました。
こちらはまた後ほど・・・

 彌永さんが提案してくれた新ウッドデッキはまず土台を作ります。

インドネシア産の木で耐久性がある
「ウリン」 別名「鉄の木」
とも呼ばれている木でしっかりとした土台を作ります。

その後、カラマツという木を塗装してのせます。

このカラマツも5、6年で朽ちてくるそうです。

しかし、木は一気に朽ちるのではなく、
徐々に朽ちていきます。

朽ちたものから新しい木にしていき、
次は、ヒノキにしてもケヤキにしてもいいし、
一つのウッドデッキに新しいものと古いもの、

色々な種類の木が入り混じり、いつまでも使い続けていくことができます。

ウリンとカラマツ

あえて不揃いな木を使い、
でこぼこまではいかないが平らにもしないように削っていきます。

それでは前のウッドデッキを取り外していきます。

こどもたちは興味津々です。

ウッドデッキの丸太を一つずつとっていきます。
丸太の下にはたくさんの虫がいました。

誰にも踏まれない土には、沢山の根がはりめぐらされていて、

たくさんの虫が住んでいるのではないかと彌永さんも楽しみにしていました。

根は人がいないところに根ざし、木に対して下に向かって生えているのではなく、
うねうねぐるっと一周していることもあります。そこに虫が来て鳥が来てふんをして沢山の養分が蓄えられています。

幼虫、ダンゴムシ、女王あり、、本当にたくさんの虫たちがいました。
次の丸太が取り外そうと声をかけても聞こえないほど、こどもたちは夢中になって土や虫を触っていました。

あえてこどもがいる時間に工事を行うのは、
出来上がる過程を見て欲しいのはもちろんですが、
このような貴重な体験をぜひこどもたちにしてもらいたいからです。

「やながさ〜ん、なんでここにありがたくさんいるの?」

「やながさ〜ん、どうしてきがぼろぼろなの〜?」

「やながさ〜ん、どうしてここはしろくなってるの?」

彌永さんは丁寧にこどもたちに説明します。
説明を聞いたこどもはおともだちに自分が聞いたことを説明していました。

ウッドデッキの木を全て取りました。

枠組みをつくり、木をはめていきます。

作業はこどもたちが帰る時間になっても続き、

こどもたちは最後まで手伝いをしました。

お迎えに来たお母さんの前で釘を打って、自慢するこどももいました。

保育園では滅多に体験することのできない貴重な時間になりました。


ウッドデッキが出来上がりました。
こどもたちは大喜びでした。

完成したウッドデッキ


彌永さんは、今回、松ぼっくりやヒノキの切り株をくれました。

ヒノキは枝や幹で香りが違うそうです。

葉はフレッシュで気分が良くなる香り、
幹は落ち着かせるような香り、
こういう違いをこどもたちに感じてもらいたいという想いで持ってきてくれました。

他にも松ぼっくりをいただきました。

松ぼっくりでリース作ったり、ヒノキの木を磨いたりします。

今回1日を通して、法人の理念に共感してくださり、
こどもたちにも全力で向き合ってくださる優しい人柄の彌永さんを感じ、

こどもたちにとっても人気な理由がわかりました。

本当に貴重な体験をさせていただきありがとうございました。


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