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髭。
普段は気にならないのに、仕事になると途端に気になって仕方ないものがある。
それは、髭。ひげ。
生きている女子ならば、誰しも生えているはずである。
基本、してるんだかしてないんだかメイクの私だが、この時ばかりは気合を入れるイベントがある。それは、
推しのコンサート。
ライブというべきか。その、コンサートの時は全国にいる友達とホテルに泊まってワイワイするので、他人のメイク道具の中に見たことがないものや自分では買わない色味のものがあったりすると、興味津々で、教えてもらったり試させてもらったりする。
コップやマスクに口紅が付くのが大嫌いな私は口紅をつけない。グロスも、髪についたりすると、その髪が顔やら、定位置に戻った髪の大群やら、耳にかけると耳周りもベッタベタにひっついて大惨事になるので、それも嫌いなのである。
あ。急に思い出した。
高校生の頃、ウルウルのくちびるになりたくて、発売したばかりの「ウォーターインリップ」なるものをつけて登校したことがある。同じクラスにいた彼氏に見せたくてワクワクしていたら、それより先に仲良しのクラスメイトが教室に入ってきた。「おはよー(・∀・)」満面の笑みで行った私にクラスメイトが目を大きく見開いて、一瞬止まった。
「どーしたの?朝から天ぷらでも食べてきたの?口、テカテカだよ。」
今度は私が目を見開いて止まり、怒涛の恥ずかしさに襲われ、ゴシゴシこすってリップを落とした。くちびるのふちが赤くなった。それからしばらくしてウォーターインリップが当たり前になる頃には、おのれの発言も忘れたかのごとく、そのクラスメイトも使っていたが、私はいつも、
「お前んち、毎朝天ぷらかよ」
と心の中で悪態をついていたことは言うまでもない。
話を戻そう。
コンサートの朝、友人に口紅を塗ってもらおうとした時のことである。「口、結んで」「次はちょっと【ウ】って口して」「ウーー♥」「いや、それチューするときのやつ!」「キモッッ😆」などとキャッキャしていたら、友人が笑いながら、
「アンタ、その前に、ヒゲ、剃らなあかんで。剛くんもドン引きや。」
・・・・ガビーーーン。(昭和の音)
推しのコンサートの前には、顔剃りも眉毛もちゃんと整えて、なんならコラーゲン飲んだりパックとかして顔面整えてから来てる!よ。が、思い当たる節はあった。口角の上くちびると下くちびるのちょうど境目にいるアイツだ。剃れども抜けども諦めないアイツ。ど根性大根のようなアイツ。一度、皮膚科の脱毛のところに「口周りのひげ」とあったので聞いたことがある。「こいつを退治できませんか?」と。すると「もっとね、太ーい毛が、魚のコイみたいにビョンビョン生えてる人結構いるんですよ。そーゆーのには有効なんですけどねぇ〜。」「いや、それでも!」と施術してもらったがアイツは華麗にスルーしやがった。普通の産毛よりは太く、髪の毛よりは細い。そしてアイツは、ハッと気づくと坊主頭の毛のようにほんの1ミリほどで上下のくちびるに、当って存在感を誇示するのだ。これでは推しの剛くんや兼近と、ある日突然あんなことやこんなことになったときに、ハズすぎて集中できないではないか!!別の意味の推し、斎藤工のように脇の剃り残しを「ごましおちゃん」と呼んで愛でてくれるようなブッ飛んだ性癖ならいいんだけど。
剛くん、兼近、あなた達はどお?
そんなことをマイクの前で私は考えながら原稿を読むのである。だからトチるんだってな!
髭。