剣岳と奥穂高岳吊り尾根の難易度比較。私の場合
私は去年夏、前穂高岳から吊り尾根を通り、奥穂高岳に登り穂高岳山荘に泊まった。
そして、今年夏、剣岳に登った。
どちらの難易度が高く感じられたか?
剣岳は一ヶ月前に行ったばかりなので、まだ感想が頭の中でうまくまとまっていない。しかし、精神的に追い込まれたのは、去年の夏の吊り尾根のほうだった。
なぜかと考えてみると、天候が大きく左右していると思う。吊り尾根は雨で、剣岳は晴れだった。
晴れの剣岳は、たしかに難所だったが、精神よりも肉体的な辛さがあった。カニのタテバイをよじ登り、山頂に着いたときは、もうこれ以上動けないような気がした。しかし、下山しなければならない。その体力を回復させるため、山頂に三十分、石に背中を凭れてじっとしていた。このとき、体が塩分を欲していて、塩飴などを持ってきていない私はその必要性を痛感した。登る前、剣山荘で見たカルピスが無性に欲しくてたまらなかった。
水も剣山荘に降りてきたときにはカラになっていた。それはハードな登山だった。しかし、晴れていたのだ。もし雨が降っていたら、死んでいたかもしれない。
いっぽう、去年の吊り尾根は雨だった。霧のため自分がどこにいるかもわからず、永遠にこの登攀が続くのではないかと思った。私はこのとき人間を思った。たったひとり、岩に挑む私は、故郷の人々との深い繋がりを強く意識していた。「絶対生きて帰ってやる」それだけを考えていた。
いっぽうの剣岳はそのような思想的な深みに陥ることはなく、剣山荘に戻ってきたときにはただのひとつの仕事を終わらせただけというような感想だった。
山の難易度は天候に非常に左右されることを学んだ。