『空中都市アルカディア』11

六、   ライオス対カルス

 シロンたちは十八歳になった。高校三年生の七月、ネオ・アテネ上空にアルカディアが浮かぶオリンピアの祭典となった。

 ホバークラッシュのギリシャ代表にライオスとカルスが選ばれていた。ふたりは勝ち進み決勝に出た。決勝は十人で戦う、うち八名がアルカディア行きを決める、つまり落ちるのは二名のみ。そのかわり判定で例えば積極的に攻撃しなかった者などは落とされるし、予選で活躍した選手の成績も考慮されるため、必ずしも決勝の八名がアルカディアに行くとは限らなかった。

 

 

 すり鉢状の満員の観客席にシロンとアイリスとマリシカが座った。

「いよいよですね」

リュケイオン高校の一学年下の女子マネージャー、黒髪で背の低いマリシカは興奮していた。
「シロン先輩。ライオス先輩は勝ちますよね?」

シロンは言った。
「当然だ。あいつはこの二年間、物凄い努力をして来た。俺はその傍らでホバーボードで遊んでいた。ライオスなら勝てる」

 と、ホイッスルが鳴り、選手十人がすり鉢状の闘技場に出て来た。選手たちはルールを守り、ヘルメット、膝当て、肘当てを着けていた。

 十人は思い思いにすり鉢の中を滑走した。

 いや、そうではなかった。ジュニアの部で優勝と準優勝をしたカルスとライオスはそれぞれ四人から集中攻撃された。カルスはそれらの攻撃を躱して言った。
「てめえら、卑怯だぞ」

インド人の選手は言った。
「カルス、おまえをまず潰す」

カルスはまずインド人を倒した。それから残りの三選手を逃げながらもひとりずつ倒していった。

 ライオスも同じように他の四選手に猛攻された。しかし、ライオスは逃げながらも着実にひとりずつ倒していった。

 ライオスは四人を倒した。そして、カルスが残るのを待った。一騎打ちをするつもりだった。

 カルスは四人を倒し、ライオスに言った。
「なんだ、余裕じゃねえか」

ライオスは言った。
「おまえは強い。それは認める。だが、俺のほうがもっと強い」

 ライオスとカルスの一騎打ちが始まった。

 すり鉢状の闘技場をふたりはグルグル回った。相手の出方を探った。

と、ライオスがすり鉢の底部に向かった。カルスはチャンスと見てチックタックフライで闘技場の中央上空に舞い上がった。ライオスは加速し、カルスの下を通り抜けすり鉢の上のほうへ向かった。カルスは底部に着地した。そのとき、ライオスは垂直の壁を滑り上がり天高く舞い上がって太陽の中に入った。逆さまになりボードを上にして両足をボードにつけたまま片手でボードの端を掴み、一回転してそのまま垂直にカルスの頭上に落ちた。それは早業はやわざだった。カルスはなす術もなく、ライオスのボードの裏を頭に受け、ボードから落ちた。

この瞬間、ライオスが金メダルとなった。気絶したカルスは担架で運ばれて行った。

マリシカは声を上げた。
「やった、ライオス先輩が勝った」

シロンは言った。
「うん、これはライオスの圧勝だな」

アイリスは言った。
「すごい技だったわね」

シロンは笑った。
「技の名前にライオスの名前が入ったりしてな」

ライオスの金メダルが決まったのだ。
「ああ、これでライオス先輩は雲の上の人になるのね」

背の低いひとつ年下の女子マネージャー、マリシカは嬉しさと一抹の寂しさで泣いていた。

 

 

 競技の結果とオリンピア省による選手の素行調査の結果、ライオスのアルカディア行きが決まった。一方、カルスは一応銀メダルだったのだが、アルカディア行きは見送られた。理由は、「素行が悪いから」というものだった。アルカディアは倫理の島なのである。

 カルスは憤慨してオリンピア省の窓口に文句を言いに行った。

「俺はホバークラッシュで銀メダルを獲ったカルスだ。でも、素行が悪いからアルカディアに行けないってのはどういうわけだ?」

役人は言った。
「それは今みたいな暴言を吐くことや、不良行為があなたの学校の内申書にあるからです。アルカディアは倫理の島なのですよ」

「なにが倫理の島だ、ふざけんなよ。じゃあ、次、四年後、俺が金メダルを獲っても、素行が悪いと行けないのか?過去の不良行為とやらは清算できないのか?」

「何か、善行を為して、あなたの人格が優れていることが示されれば、可能性はあります」

「よし、わかった。清算してみせるさ。四年後には絶対アルカディアに行ってやる」



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