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【長編小説】『アトランティス世界』2

二、 マイル少年

 ロンドンの郊外にある家の二階の部屋で、十六歳のマイル少年は打ちひしがれていた。ベッドの上で苦悶していた。
「ああ、僕の夢は破れた。将来はサッカー選手になってイングランドをワールドカップの優勝に導くのが僕の夢だったのに、現実はどうだ?地元の少年チームのレギュラーにもなれないじゃないか。ああーくそ。僕はどうしたらいいんだ。そうだ、僕には絵の才能がある。画家でも目指そうか。いや、画家は眺めるだけの傍観者だ。絵を描いて生きるなんて本当の人生とは言えない。僕はクラスにいじめられている子がいたのに、傍観しているだけで救いの手を差し伸べる勇気がなかった。結局、彼は学校をやめてしまった。僕は人生の傍観者だ。僕はもう死んでいるようなものだ。でも、人生は続く。死んだように生きろと言うのだろうか?」
すると、階下から母親の声がした。
「マイルー、ごはんよ。今日はあなたの好きなハンバーグよ」
「ああ、ハンバーグ。それにどんな意味がある?ちくしょう、僕の夢の挫折はハンバーグの味なんかで慰められるのか?それに、いじめを傍観していた僕に美味しいものを食べる資格なんかあるのか?」
ぶつぶつ言いながら、マイル少年は階段を降りてダイニングに行って父親と母親と供に食卓に着いた。
 ハンバーグを食べながら、母親は言った。
「ねえ、マイル。なにがあったか知らないけど、学校には登校しなさい」
「なんでだよ。僕は生きる意味がわからないんだ。それなのに、なんで勉強なんかしなきゃならないんだ?」
父親は言った。
「勉強しないとろくな大人にならんぞ」
「もう、ろくな人間じゃないよ」
そのとき家の固定電話が鳴った。母親が出た。
「はい、もしもし、あ、お兄ちゃん?え?はい、うん、え?ほんとに?いいの?ええ、はい、じゃあ、本人に訊いてみるわね?」
母親は受話器を置かないで、マイル少年の方に振り向いて言った。
「ねえ、マイル。ガラパゴス伯父さんがね、今度の夏休みに一緒に船でニューヨークへ行かないかって」
マイル少年はびっくりしてハンバーグを食べる手を止めた。
「ニューヨーク?」
マイル少年はまだ、アメリカに行ったことはなかった。しかも、船旅だ。悩みは吹っ飛び、即答した。
「行くよ!」


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(1~5無料公開中)古生物学者ガラパゴス博士は甥のマイル少年とともに、ニューヨークヘ向かって大西洋横断の船旅に出るが、嵐に遭い遭難してしま…

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