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隙間バイトについて

今日、NHKのクローズアップ現代を少し見たら、「隙間バイト」という働き方があることを紹介していた。
NHKのアナウンサーの声、表情は、このまったく新しい働き方に好印象を与えるような声と笑顔だった。もちろん、その働き方の問題点も挙げていたようだが、概ね隙間バイトを好意的に見ているようだった。

私は現在四十六歳、学生時代は就職氷河期と言われていた世代である。
しかし、私は学生の頃、マンガ家を目指していたので、世間がどう動こうが、ようするにマンガが売れればいいんだろ?みたいに考えていた。
それに私は世間に疎く、就活というものの常識を知らなかった。
私は公立の小中学校で義務教育を受け、高校受験して公立の高校に進学し、大学受験して大学に進学した。それはただ、制度に乗っかっていただけだった。私はその制度は理解できた。しかし、就活というのが理解できなかった。それは制度として就職活動を、大学三年生からか四年生からか未だに私は知らないのだが、その時期にしなければならないという制度は日本にないからだ。それなのに、大学四年生になるとバカみたいにスーツを着ていかにも就活中みたいな感じで大学の授業に出ているやつの人生観がわからなかった。小説で言うと、朝井リョウの『何者』とかまったく共感できないのだ。あの小説は大学卒業しても就職できないことの不安感が前提になっているが、ようするに高卒、大卒、就職、という流れから落ちることの恐怖からで、それは自由に生きることへの恐怖だと私は思う。
私の学生の頃に、フリーターという言葉ができたと思う。私はフリーターに憧れた。いろいろな仕事を経験するって素敵じゃないか。あるいは「派遣」という言葉も、そのあとくらいに流行った。篠原涼子主演のドラマ『ハケンの品格』では、主人公がすごい派遣社員でカッコよく描かれていた。二十歳そこらの世間知らずの若者にとって、フリーターとか派遣とか、いろいろな仕事を経験することは憧れである。しかし、現実は、私は現在介護の仕事をしているのだが、私の職場に派遣で来る人はたいがい前の職場も介護でいろんな介護現場を渡り歩いているのである。しかも給料は正規職員に比べずっと安い。しかも期間が終われば職場を離れて行くのである。結局、仕事とは経験が大事で、フリーターとか派遣とかいろんな職場を渡り歩くのは十代の若者から見てカッコよく見えるかもしれないが、実際は、誰でもできる仕事をやる人足として雇用される低所得者である。
日本社会は未だに、「新卒」というゴールドカードが物を言うバカな社会なのである。採用側から見ると、新卒はまだ何も色に染まっていないまっさらな状態で入ってくるから、会社の色に染めやすい、などという勘違いがまかり通っている社会である。まっさらだから、なるべく高学歴が良い、という方程式も成り立つ。もちろん理系などの専門職はその学歴が重要なのは間違いがない、しかし、文学部とか法学部、経済学部などの文系の学生は、大学四年間遊んで暮らした者も、学問に励んだ者も同じ扱いなのである。なにしろ、「新卒はまっさら」だと採用側は見るわけだから。
自分が二十歳のとき、どうだったか考えてみたらいい。内面などドロドロしたものばかりではなかったか?二十歳など性欲と恋と野心と夢と虚栄心と、などなど、けっしてまっさらではなかったはずだ。
そんな若者は、フリーターや派遣に憧れ、世界を見てみたいと思うものだ。
私は大卒で安定した公務員になりたいと思う者より、いろんな仕事をしてみたいと世界に憧れを持った若者が好きだ。
私は新卒よりも二三年フリーターを経験した者のほうが使えると思う。
しかし、現実の社会はそうなっていない。
新卒で就職した方が有利にできている。
それなのに、また、NHKは「隙間バイト」などという若者を騙すような報道をする。クローズアップ現代で見た、隙間バイトは、誰でもやれそうな仕事ばかりだったように思う。夢のある働き方のように放送していたが、実際は社会的地位の低い者のやる仕事ばかりである。そう言うと職業差別的発言と取られかねないが、私は現在、介護の仕事で毎日年寄りの尻を拭いている人間である。
就職氷河期、マンガ家を目指し上京した私は夢敗れ帰郷し、現在は介護の仕事をしながら小説家を目指している。独身で彼女もいない。悪い人生ではないが、若い者に真似して欲しいとは思わないし、誰も真似したいとは思わないだろう。二十代には二十代の楽しみがあり、三十代には三十代の楽しみがある。ようするに恋愛、結婚、出産、育児、そういう喜びを基本に考えるならば、新卒で就職して安定した収入を得て、恋愛し結婚したらいいと思う。
いや、でも・・・

仕事は知識と技術を身につけてそれで世の中を渡っていくものだと思う。
それはどの時代でも変わらず、なんの知識も技術もなく新卒カードを使うしか能のないのは、まさに能無しだと思う。新卒で就職できなかったらどうしよう、などと不安になる奴は、自分が能無しだと認めている証拠だし、生きる勇気のない弱虫だと思う。

フリーターや派遣、隙間バイトなど、浮ついた流行りの夢に踊らされることなく、自分は何をしたいかをはっきりと自覚することが大切だと思う。何をしたいかが決まったら就職活動しても遅くはないと思う。
十八歳や二十二歳でその後の人生を決める必要はない。


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