『空中都市アルカディア』27
三、カルスの告白
カルスは小さな凱旋門の下で足の縄を解かれ、立たされた。手は後ろ手に縛られたままだ。そして、猿轡を外された。途端に彼は大声でまくし立てた。
「シマクレス。おまえは最低の人間だ。俺の姉ちゃんを不幸にした。家政婦の俺の・・・」
「歩け」
三人いる死刑執行官のうちひとりが槍の先でカルスの腹を小突いた。シャツに赤い血が滲んだ。カルスは一歩、後ろ向きに小さな凱旋門の外側に出た。地面には短い草が生えていて飛び込み台の全体は緑色をしている。
「シマクレス。おまえは俺の姉ちゃんを手籠めにした」
「弁明の余地はない。歩け」
死刑執行官が再び槍で小突いた。カルスはまた一歩後ろ向きに飛び込み台の先端に近づいた。
「俺の姉ちゃんを犯し、妊娠させ、毒を飲ませ、流産させ、発狂させた。今、姉ちゃんは下界で・・・」
「進め」
死刑執行官は槍でカルスを小突いた。カルスは数歩後退し、飛び込み台の先端に近づいた。
「そうだ、シロン!証拠を見せてやれ」
カルスはそう言ったが、シロンは動けなかった。
死刑執行官はまた槍でカルスを小突いた。カルスはまた、数歩飛び込み台の先端に近づいた。
「シロン、どうした?証拠を渡したろ?」
カルスは泣きそうな顔で言った。
シロンは答えた。
「すまない、今は持ってない。家に置いて来た」
カルスは絶望的な顔をした。
死刑執行官はカルスを小突いた。カルスはよろめいた。
「シロン、今から家に取りに行き俺を助けてくれ。頼む」
カルスは哀願した。
「わかった」
シロンは走って家に向かった。
カルスは言った。
「シマクレス。これでおまえの運命は終わりだ。おまえの過去の罪が暴かれる。ざまぁみろ」
「歩け」
死刑執行官は槍で小突いた。カルスは一歩下がった。残り一メートル。
シマクレスは言った。
「その男に弁明の余地を与えるな。押して落としてしまえ」
三人の死刑執行官は槍の柄でカルスの体を押した。カルスは後退した。残り数十センチで落ちる。カルスは覚悟した。シロンが戻って来るのは時間がかかる。カルスは涙を流して言った。
「ライオス!おまえは出会った頃から俺の親友だった。いいライバルだった。ありがとう」
ライオスは驚いた。親友?ライバル?ライバルはわかる気がするが、親友という実感はライオスにはない。
カルスは言った。
「俺には悪友は多かったが、おまえみたいないい奴はおまえの他にはシロンだけだった。それからアイリス・・・」
「落ちろ!」
死刑執行官が槍の柄で押した。カルスは飛び込み台の縁で後ろにのけぞった。もう踵は出ている。はるか下には青いエーゲ海。
「アイリス、俺は出会った瞬間からおまえに惚れていた・・・ずっと憧れていた・・・」
アイリスは目を丸くした。出会ったとき?カルスは開口一番、「おまえブスだな」と言ったのだ。それがすべての始まりだった。カルスが自分に惚れていたなどアイリスは思いもしなかった。
死刑執行官は槍の柄でさらに押した。カルスはのけぞり涙声でこう言った。
「さよなら、みんな」
カルスは落ちて行った。
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