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『空中都市アルカディア』3

二、出会い

 九月から六歳のシロンは小学校で学ぶことになった。

 地殻の大変動、大洪水後の新世界では、アルカディア世界政府が決めた学制で小学校六年、中学校三年、これが義務教育で無償となっていた。そして、高校三年、大学四年、これが義務教育ではないが無償だ。つまり、誰もが大学まで進学することができる。ただし、高校からは必ず入学試験がある。それにより、学力の違いによって進学する学校が決まってしまう。優秀な子供の行く学校と優秀でない子供の行く学校とがある。

 シロンは家から近い、コロナキ小学校に入学した。コロナキ地区は父とアルカディアを見たリカヴィトスの丘の南麓にあり比較的裕福な家庭が多かった。

 

 

入学式、体育館で頭の禿げた還暦近い男性の校長が壇上にて話をしていた。壇上の校長の後ろにはAのマークのアルカディア世界政府の白地の旗が掛かっている。入学した児童たちはそれぞれ男子はワイシャツにネクタイを締め紺色の半ズボンを穿いて正装し、女子も紺色のスカートを穿き、白いシャツの襟にはリボンを巻くなどして正装していた。子供たちは真面目な顔をして立ったまま整列して校長の話を聴いていた。後ろの方では正装をした保護者たちが並んで聴いていた。

「今日から君たちは小学生です。いよいよ学問をするのが義務となりました。ここは、ネオ・アテネのほぼ中心、アクロポリスにも近い、それはほぼ世界の中心と言ってもいい。君たちは誇りを持って勉強して欲しい。旧世界は大変動によって海に沈みました。しかし、人類はアルカディアを空中に浮かべ、難を逃れました。それができたのも学問のおかげなのです。今、人類があるのは・・・」

 校長の演説中、新入生の列の中から騒ぎが持ち上がった。

 シロンは新入生をかき分け、その場に行ってみた。すると、長身の男の子が、小柄の男の子を組み伏せていた。

「何しやがる、どけよ」

組み伏せられた小柄な赤髪の男の子は言った。すると、組み伏せている長身の金髪の男の子は言った。

「この人に謝れ」

シロンが見ると、近くで金髪の女の子が泣いていた。小柄な赤髪の男の子は言った。

「なんで、俺が謝んなきゃいけないんだ?ブスって言っただけだろ」

「なにを!」

金髪の男の子は殴ろうとして腕を振り上げた。その手をシロンは掴んだ。

金髪の男の子は茶色の瞳をシロンに向けて言った。
「なんだ、放せよ」

「暴力はよくない」

シロンがそう言うと、組み伏せられた赤髪の男の子は言った。

「へへっ、そうだ、暴力はよくない」

「なにをっ!」

金髪の男の子が殴ろうと腕に力を入れるが、シロンがその腕を掴んでいる。

そこに若い男性教師たちがやってきた。
「いったい何をしているんだ。こら、やめなさい」

長身で金髪の男の子は立たされた。

「君、名前は?」

「ライオスです」

「ライオス君、なぜこの子を組み伏せた?」

「こいつが、この人を泣かせたからです」

横で泣いている金髪の女の子をライオスは指さした。

若い女性教師が女の子に声を掛けた。
「何かされたの?」

女の子は泣きながら言った。
「その赤い髪の子が、わたしのことをブスって言ったんです」

立ち上がった赤髪のそばかすのある男の子に女性教師は訊いた。
「そうなの?」

赤い髪の男の子は笑って言った。
「だって、ブスじゃないか」

女性教師は怒って言った。
「そんなこと言っていいと思ってるの?あなた名前は?」

赤髪の男の子は鼻を擦って言った。
「カルス」

男性教師はシロンのほうを見て言った。
「君は何をしたんだ?」

「ぼくはこの大きい子が赤髪の子を殴ろうとしていたのを止めただけです」

シロンがそう言うと、男性教師は泣いている女の子に訊いた。

「そうなのかい?」

「はい、そうです」

泣いている女の子は青い瞳から涙を流して言った。女性教師が女の子に名前を訊ねたので彼女は答えた。

「アイリスです」

シロンも名前を聞かれたため答えた。
「ぼくの名前はシロンです」

男性教師は言った。
「さあ君たち、元に戻るんだ」

 校長の話は再開された。



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