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【SVJPイベントレポート】シリコンバレーにおけるスタートアップ事情と日本の課題とは?

11月1日に開催された【QWS FES 2021】において、”シリコンバレーにおけるスタートアップ事情と日本の課題とは?”のセッションをQWSとSVJPで共催しました。当日は、シリコンバレーに本社を置くHOMMA.Incの創業者兼CEOの本間 毅さんにお越しいただきお話しを伺いました。この記事はその内容をまとめたものになります。

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イノベーションが生まれる場所

アメリカでは過去に電話や車などが発明され、この100年で大きく進化し社会に巨大なインパクトを与えてきました。ところが人生の約40%の時間を過ごすと言われる住宅は、約100年前からほぼ何も変わっていないというのが実態です。
これはアメリカでの住宅事情に特徴があることが要因です。アメリカでは住宅販売の約90%が中古住宅で、残り10%の新築住宅の内約80%が建売住宅です。そしてこの建売住宅業界が非常に保守的なところが問題点となっています。住宅販売会社はこの業界が保守的なところと利益を追求するところにフォーカスしてきたため、住宅業界ではほぼ何も変わらずに、いままではイノベーション的なことは何も起きませんでした。しかしながら、現在のアメリカは少子化が進む日本と異なり、人口が増えており住宅の需要は増え続けています。そこで、HOMMA, Inc.はこのことに注目し、この状態を打破して住宅市場のイノベーターとなるべく、チャレンジしています。

やり方は垂直統合によるイノベーションを目指しています。Teslaにおける「自動車の車体」と「自動運転技術などのソフトウェア」、iPhoneでは「スマートフォン自体」とそこで動く「アプリなどのソフトウェア」、といったようにハードウェアとソフトウェアの両方を提供することを目指します。
HOMMA, Inc.ではスマートホームとして、「住宅自体」と「スマートホームなどの技術」を合わせて垂直統合して提供します。住宅業界では初の試みとなります。HOMMA, Inc.の最終的な目標は、このスマートホームで構成されるスマートな街をつくることです。スマートエネルギー、自動運転、セキュリティなどのITを装備した住宅が繋がることでできる、住みやすい街を作ることが目的です。

ただし住宅は1戸で数千万円と単価が高いため、スタートアップがいきなり100軒の街を作ることは難しいです。そこで、2022年にHOMMA, Inc.100という100軒のスマートホームでできた街を目指すという目標をバックキャスティングすることで、まず2018年に中古住宅をリノベーションするところからスタートしています。現在はオレゴン州ポートランドに18世帯からなるスマートコミュニティを建設しています。
これらスマートコミュニティの特徴は「都市型:徒歩圏で、飲食、オフィスなどが完結する」「コンパクト:若い人でも買いやすいようにコンパクトな住宅」「プレミアム:コンパクトでも高級感があり、スマートデバイスなどをすべてビルトインした形のもの」の3点です。

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スマートホームテクノロジーの代表的なものを以下に紹介します。
Adaptive Lightning:人の動きに合わせて、ライト・空調・セキュリティなどをすべて自動でコントロールする
Smart Orchestration:複数のスマートデバイスを遠隔操作する
Intuitive Learning:住人の生活パターンに合わせて自動で最適化を行う

なお、HOMMA, Inc.を構成するメンバーは、金融・不動産・テクノロジーほかさまざまな専門家です。また多くの投資家は海外に比べ優れた日本の住宅を理解している日本企業や個人が多く、コクヨほか上場企業なども名を連ねています。

アメリカでスマートホームの起業にいたるまで

起業はHOMMA, Inc.で2回目になります。1回目の渋谷での起業の経験から、もう起業する予定はありませんでした。ところが、今回の起業に至った理由として、昨今のシリコンバレーではスタートアップやそれを支えるファウンダー・VCのダイナミズムが大きく、起業10年くらいで社会に大きなインパクトを与えるようなスタートアップが生まれる状態になっていたことがあります。また、現地で出会った起業家たちが実際に話してみると「普通の人」であったことも、自分も再び挑戦してみることができるのではないかと思えるきっかけでもありました。さらに、キャリアの中でSONYや楽天のアメリカ法人などに携わったことに加えて、元々祖父の時代から宮大工など住宅に関わっていた家系だったことが挙げられます。住宅事業に思い入れもあり、自分の名を冠する会社を設立するに至りました。

アメリカでの起業について
アメリカで起業した一番の理由は、やはりシリコンバレーには失敗を許容する文化があったということです。失敗しても再度立ち上がれる文化の中でさまざまな人達がチャレンジ・失敗をして、また再起して成功しています。こういった精神的なセーフティネットの土壌があるシリコンバレーで、ぜひチャレンジしてみたいと考えました。加えてスマートホームという新しい分野で社会に貢献したい、という気持ちがありました。そして最後には、ここでやらない選択をして後悔するなら、やるという選択肢しかありませんでした。

競合について
スマートホームであれば競合はAlexaやGoogleアシスタントを販売しているAmazonやGoogleなどの大手になるのでは?とよく言われますが、実際は異なります。AmazonやGoogleのやり方ではこれらスマートスピーカーを住宅に装備していくだけのビジネスです。一方で、HOMMA, Inc.では住宅の設計時からスマートホームとしてITを実装していきますので、ビジネスモデルが全く異なります。したがって、今のところ競合はほぼいないという状況だと思っています。

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アメリカで起業後に辛い・厳しいと思ったこと

辛い・厳しいということはたくさんあります。ただし最も重要なのは希望を持つことです。希望があればなんとかなると考えています。1回目の起業時にはなんとかビジネスはうまくいくだろう、と漠然と考えて進めていました、そしてうまく行きませんでした。ただ、今は「スマートホームを作って人々のよりよい暮らしに貢献する」というビジョンがあります。そのため、少々辛い・厳しいことがあってもこのビジョンに向かって乗り越えることができる、という希望を常に持つことができています。

コロナ渦の影響について
コロナ渦は結果的には我々のビジネスへいい影響を与えました。アメリカではコロナ渦の影響で、人々は家の中で仕事や勉強などをする必要ができたため、IKEAやホームセンターに人々は足を運び、家をいかに過ごしやすくするか、ということに人々の関心が向きました。それによってHOMMA, Inc.がコロナ渦前から企画していたスマートホームはあっという間に売れました。今後もこの傾向は続くのではと考えています。

最も難しかったこと
前述したように、このビジネスモデルには前例がありません。したがって経営者として判断を下す時に、確信がないまま判断を行う必要があります。これはとても難しいことです。
例えば最初スマートホーム事業は、テクノロジーの部分だけで、住宅自体はビジネスとしていませんでした。しかしこの判断でやってみると、やはり両方ないとどうしてもうまくいかない、そこでピボットして現在のビジネスとなっています。これはやってみないとわからない、という部分があり、事前にこれを見越した判断を下すのは非常に難しいと言えます。


シリコンバレーのスタートアップエコシステムは10年でどう変わったか?

スタートアップへの投資や買収金額などの資金調達額が非常に大きくなりました。それによって住宅家賃ほかさまざまな物価が高くなりました。その分格差も拡がったとも言われています。

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シリコンバレーでの起業は年齢によらない
シリコンバレーでは、シリアルアントレプレナーと言われ、何度も起業する人たちがいます。そのため現在では、分野や内容によっては私自身も40代で起業をしたので、20代の若者に限らずさまざまな年齢での起業が起きています。日本で「起業は若者がする」というイメージがありますが、シリコンバレーでは社会経験を経てからの起業に対しての評価が高いということもできます。

シリコンバレーの”コミュニティ”の価値
シリコンバレーで最も重要なのは物理的な場所ではなく、コミュニティそのものです。働き方やコミュニケーションの形態がリモートとのハイブリッドになったと考えられます。リモートベースであってもたまにはオフラインで会うなど、場所ではなく人と人との繋がりに今後も重点が置かれていくでしょう。
Tesraが本社をシリコンバレーから移転するといった話も確かに話題になっていますが、私はシリコンバレーの本当の価値はコミュニティだと思っています。投資家や起業家が出会い、集う場所としてシリコンバレーの価値は今後も高くあり続けると思いますし、シリコンバレーで培った人脈を糧にして各々リモートにしているようにも感じますね。
ただ、これまではパーティやバーベキューなどで偶然会ったことをキッカケにビジネスになっていたケースがありましたが、そういった機会は間違いなく減ったと言えるでしょう。今後コロナ渦が終息方向になるにしたがってFace To Faceの機会も徐々に増えていくことを期待します。ただし完全に元に戻ることはなく、ハイブリッドになっていくのではないかと考えています。

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