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海底 - 33031

寒くはなかった。けれども曇っていて、澄んでいるとは到底言えなかった。

2019年に行われたライブは行けなかった。愛知、大阪、東京の三都市のみの開催。この中であれば東京が行きやすかったけれど、その年は流石に行き過ぎていた。東京には何度か行く用事があった。だから行きたいと思ったけれど自分で出せるほど金もなかった。当たるとも限らなかった。

ファンと公言するにはどこを切り取ればいいのだろう。グッズを持っていればファンだろうか? 堂々と言えるようになるにはどうすればよいのだろう。考察ができればいいのだろうか。過去を知っていればいいのだろうか。活動が始まった時から知っていればいいのだろうか。ライブに行っていればいいのだろうか。たぶん、そんなことを考える方が可笑しいのだろう。ライブに行けない人もいるしグッズを買えない人もいる。ファンという基準はない。その基準を設けているのは自分自身であり、なんと滑稽なものだろうと思う。それでも、その日だけは、2019年のライブに行っておけばよかったと強く思った。

16時半ぐらいに着いてグッズ列に並んだ。売り切れは少なかった。けれど目当てだったロンTが買う直前で売り切れた。本来の目的だったパーカーは買えたけれど、眼前で売り切れるということが何とも悲しかった。

30日は曇りだった。ライブは五分程度遅れて始まった。波の音が会場に響いた。ポエトリーが始まって、曲が始まる。順調だった。ラストの最後まで順調だった。屈み込んだ彼女に何があったのかわからなかった。それでも三十分程度待機して再開された。拍手が盛大だった。『だから僕は音楽を辞めた』の途中だったから、その後の歌が心に籠っているような気がした。彼女がエルマに見えた。エルマだと思った。そして、それが彼の本望なんだろうなと思った。もしここで彼女が急逝してしまって。そんな良からぬことを考えた。それでももしかしたら、彼女の代わりが誕生するのかもしれない。それでも。一人早く気づいて駆け寄る彼を見て、そして物語を見て、多分彼は彼女がエルマでも、彼がエイミーでも、そこで終わらすのだろうと思った。それは後日、『エルマ』を見てからそう思っただけだけれど。

前日の失敗を踏まえて早く行った。その前に新宿で用事を済まそうと思ったので、家を昼に出た。物販の開始時刻十分前に行くとすでに受付が開始されていた。目当てのものは購入できた。ライブは順調だった。前日のことを鑑みたのかポエトリーの合間で彼女は少し休んでいる様子だった。途中でカメラの存在に気づいた。ライブ映像か、はたまたYouTube用だろうか。ライブが終わって一日経った今日でも何も出ていないので、もしかしたら何もないのかもしれない。
家に帰って新宿で済ませた用事の続きをする。インクとコンバーターだった。『藍二乗』のMVに万年筆とインクが出てくる。万年筆はプラチナのセンチュリーだと特定できたけれど到底買えないので、インクを購入した。PILOTの色彩雫、月夜だ。『だから僕は音楽を辞めた』の木箱に入ったエルマへの手紙の文字もこのような色だった。どういうふうに作成したのかはわからないからこの月夜が使われているかはわからない。似た色、というだけでそれだけでよかった。試し書きをして、歌詞を書いて、その滑り心地が元々持っていたカクノと違って興味深い。カリカリした感触が好きなのでもっと求めたくなる。

これで何を書くかはわからない。有効活用できればいいと思っている。
手始めに何を書こうか。真似をして日記でも書こうか。

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