【column #13】ビヨンド ザ クラフト / オヤマ
《今回はビールの話です。ひとくちにビールと言っても相当な種類がありますね。まずはお馴染みアサヒやキリンなどを筆頭に、スーパーなどでもインポート系のビールがずらっと陳列、また各社が出している発泡酒は安価なので皆さんもビールの代用品として1番身近に飲まれているんではないでしょうか?最近ではノンアルなんてのも人気ですね。ビールの認識もそれぞれ。
ではクラフトビールはどうでしょう?
普通はよっぽど好きでなければ飲む事がないような気がしますが、延岡ではうれしい事に「宮崎ひでじビール」という地元の醸造所があって割と身近な存在で、飲む機会もたまにありますね。
でも色々と味を比べたりする事は普段なかなかないのが現状。その点東京もんはいいですがね。
ビールを求めて20年。
今回はそんなオヤマさんがクラフトビールにかける思いを書いていただいています。
ビール片手にどうぞ。ゴキゅっ!》
編集部 小野
はじめまして
オヤマといいます。
延岡市出身、現在サラリーマンの聖地・新橋のビール屋勤務。
発注と品質管理に従事しています。
正岡子規似。俳句は詠みません。
ビール屋勤務ということでビールにまつわるテーマが多くなるかと思います。余談と蛇足と脱線を繰り返しながら、何となくまとまるよう記していきたいと思います。どうぞ宜しくお願いします。
新橋のビアバーでナショナル・クラフトを問わずビールを提供しているのですが、
ここ数年、特にクラフトビールについて感じていることを幾つか書かせてください。
現状の個人的モヤモヤと今後の期待とが混じったまとまりの無い文ですので、さらっと読み流してください。
クラフトビールは小規模であること以外は定義が曖昧で必ずしもレシピが決まっておらず、自由な発想と感性でビールを醸します。
飲む度に新しい発見があり、そこが魅力です。
ビールのレシピは基本原料である水・麦芽・ホップ・酵母の組み合わせ。
発酵温度、投入するホップの量やタイミングを変え、場合によっては副原料を使ったり
木樽で寝かせてみたりと多彩です。
また、クラフトビールは造り手との距離が近いのも魅力で、ビールのみならず造り手の人柄も含めてブランドのファンになることが多いです。
クラフトビール好きが集まる場は
フレンドリーで壁が無く、ジャンルを越えて繫がり易い雰囲気があるように思います。
そんなクラフトビールもブームと言われて久しく、現在日本には約528ヶ所のブルワリーがあるそうです。(※きた産業株式会社調べ)
都道府県別では東京73ヶ所、神奈川36ヶ所が多く、その他の地域は北海道28〜佐賀、長崎各1。
東京、神奈川を除いた道府県の平均は9ヶ所となります。
単純に都内の人口辺りで換算すると
東京都には19万人に対して1軒、23区に限定すると15万人に1軒の割合ということになります。
また、醸造所が集中しているであろう23区の面積辺りの軒数だと9k㎡辺りに1軒です。
これらが多いか少ないかは置いておいて、
少なくとも日本で1番クラフトビールが流通しているのは東京23区内だと言えると思います。
家賃が高く開業リスクがあるにも関わらず、
コロナ禍に於いてもビアバーや醸造所の新規開業のペースは落ちていないのは、人口に比例して開業志望者の分母が大きいからだと思われます。
身近に先例があることでビジネスのイメージが湧きやすいのかもしれません。
個人的に新規開業の流れはもうしばらく続くと思っています。
以下、そんな東京で日々思っていることです。
モヤモヤと期待その①《造り手さんへ》
小規模醸造所は地域のハブになります。
新しい造り手が増えると新しいコミュニティが生まれ、ビール以外の活動に展開していくことは多いです。その地域の農産物との親和性も高いです。
自分の生活圏内にビールの現場があると思うだけで嬉しくなります。
小規模醸造所がもっともっと増えることを願います。
ただここからがモヤりなのですが…
肝心のビールがいまいちです。
個性ありきに見えます。
美味しさ以前に変わった副原料を使うことが前提になっていたり、ビールのネーミングも
ウケ狙いの様なもので造り手の真意が伝わらないもの(味に自信がないのかな?)。
クラフトビールを呑むことは美味しいビール体験であってほしく、
変わった味のビールを呑むことで終わってほしくないです
日本のビールはもっと美味しくなるし、
自分らもアンカーとして大切に呑み手に
お届けします。
期待を込め敢えての苦言です。
モヤモヤと期待その②
《ビールはあるけどビールがない⁈》
ビールの世界にはビアスタイルという概念があり、国内外のコンペではそれを基準とした審査が行われています。
また我々ビアバーのスタッフがビールのメニューを作る際も、ビアスタイルがバランス良く(若しくは自店らしく)なるように意識して発注をかけます。
ビールを発注する際に
「今回は柑橘の様な香りの“ペールエール”が欲しいな」
と思ったとして、
この場合“ペールエール”がビアスタイルの名称にあたります。
色合いが、ペール(淡い)エール(ビール)でペールエール。
一口にペールエールといっても使用するホップの産地やビールの苦味値等で区別されます。
代表的なところで
・イングリッシュスタイル ペールエール
(ほの甘く、オレンジの皮を浮かべた紅茶の様な香り)
・アメリカンスタイル ペールエール
(砂糖を降ったグレープフルーツを皮ごと齧った様な甘苦さ)
等が知られています。
その他にオーストラリアやニュージーランド原産のホップを使用すれば新しいカテゴリになりますし、日本原産のホップのみでつくられたジャパニーズペールエールも浸透すればビアスタイルのカテゴリに入る可能性ありです。
ビアスタイルの数は年々増えていき
現在100種類以上。サブカテゴリーまで数えるとそれ以上になります。
興味のある方は日本地ビール協会のビアスタイルガイドライン一覧を検索してみると良いです。
ビアスタイルについてはまた機会があれば
書きたいと思います。
とにかくそれだけ沢山のビアスタイルと、
それを造れるはずの醸造家がいるはずなのに
、いざ欲しいビアスタイルのビールを発注しようと思っても定番モノが少ないのです。
特に伝統的なスタイルほど造られておらず、
大好きなスコティッシュエールなんて日本でもはや1ヶ所しか造っておられないのではないか?とすら思う状況です。
年間を通して造れることがビールの良いところです。
そのルーティーンに是非とも普通のペールエールやピルスナー、スコティッシュエール、スタウト、アルト等々を取り入れてみて欲しいです(出来れば名前もカッコつけずに)。
私見ですが、定番品を持っている醸造所は
レベルが高いです。
うちの店で昔から付き合いのある造り手さん達も定番ないし順定番商品を造り続けています。
プロスポーツ選手がオフシーズンに基礎練習から始めるように、基本の伝統的なビアスタイルは、いつ何度でも帰って来て良い場所だと思います。
帰れる場所があるって大切です。
そんな意味もあって是非とも伝統的なビアスタイルにチャレンジして欲しいです。
モヤモヤと期待その③《撮らずに飲もう!》
ビールはサーブしたてが一番美味しい呑み物です。
泡まで美味しそうな見た目のビールを写真に撮りたい気持ちはわかるんですが、
これが結構なビール屋泣かせ。
プロがいる店はホールスタッフでさえも
そのことに心を配って、カウンタースタッフと息を合わせてベストなタイミングで客席までビールをお届けします。
それに写真を撮っているとさっきまでビールを欲していた頭が冷静になって勿体ないです。
ビールは到着したら即乾杯が絶対オススメ!
その一口でビールがもっと好きになるかもしれません。
麦酒到着即乾杯之口福
よろしければ。
ビールはとても身近で気楽なお酒です。
それ故に軽く扱われがちな面があります。
あまりメンドクサイことは言わないようにしたいのですが、美味しいビール体験をもっとしてもらいたいという気持ちで、これからも
モヤモヤし続けていきたいです。
『たかがビール。されどビール』
“たかが”も“されど”どちらも大切にしていきたいです。
皆さんが今夜も美味しいビールで乾杯できるよう願ってます。
それでは。
cheers!
新橋Drydock
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新橋DRY-DOCK