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【BL小説】御茶ノ水の楽器屋前

すみませんねむいので手早く上げて寝ます( ˘ω˘ )紅さんに嫉妬を抱く眞言さんです。

御茶ノ水の楽器屋前

 ファッションモデルとは、顔も含めた全身で勝負する仕事である。だから、こんなこともありうる。
「紅だよね?」
 御茶ノ水の楽器屋の前でぼんやり立つ俺に、二人連れの女の子たち――おそらく近辺の大学生――が話しかけてきた。嘘を吐く理由はないから、
「そうだよ」
 と答えると、女の子たちはひゃーっと歓声を上げた。一人は早速使い捨てカメラを取り出し、もう一人に渡す。
「ね、ね、ツーショ写真撮って!」
「交代だよ、いい?」
 俺の了解など取らずに、話が進む。同い年くらいの女の子のこういうテンションを見ているのは好きだ。だから、それぞれとの写真を撮られる時には目線も決めた。
「よかったらお茶しない? わたしたち、自主休講するからさ」
「残念なんだけど……」
 俺が断りのセリフを言い切る前に、眞言が俺と女の子たちの間に立ちはだかった。その赤い瞳は憤怒に輝いているはずだ、と思えば、笑いが込み上げてしまう。
「ごめんね、連れが戻ってきたから」
 俺は眞言のシャツの裾を引っ張り、神保町への下り坂へと導く。女の子たちの不服そうな表情が目に入るが、俺の貸し出し時間は終わったのだと理解して欲しい。
 眞言は片手に楽器屋の紙袋を提げ、不機嫌さを隠さない。
「断れ」
「ごめんね、俺も客商売だからさ」
 さすがに仕事をやめろとまでは言わず、眞言は鋭い視線を俺へ向けた。
「……醜い嫉妬なのはわかっている。だが、有象無象がお前のそばにいるのは許しがたい……」
「君が俺に妬いてくれるのは嬉しいよ」
 俺の甘い言葉に、眞言は赤い視線を逸らす。普段己の貞操に負い目を持つ眞言が、俺を独占しようとしてくれている。具体的な姿を持つ女の子たちに刺激されたのだろうが、それがどれほど嬉しいことか、このかわい子ちゃんはなかなか理解しないだろう。
「弦とか買えた?」
「話題を逸らす気だな、だが逸らされてやろう。無事に三弦を二袋買えた」
「切れやすいんだっけ?」
「あぁ」
 ギターと音楽のことを喋る眞言は真剣で、いつまでも眺めていたくなる。今度は俺の古本屋巡りにつき合ってくれるから、ギブアンドテイクの関係になる。用事が終わったら、コーヒーのおいしいカフェで一服しよう。眞言に俺を独占させたい。

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