ゲンゴさんの独白
紅さんと鑑知さんと中高の同級生だった、源五郎丸さんの独白です。紅さん独自の交友関係については、もう少し掘り下げたいところです。カフェでミニライブをするミュージシャンの皆さんに夢を見たいです。
ゲンゴさんの独白
俺はどこにでもいる、平凡な男子高校生だ。特にかっこよくもなく、ほどほどにダサくもなく(……と思いたい)、日常をなんとなく生きている。多少名字は変わっているが。
「いや、ゲンゴが平凡なわけないよ」
笑い交じりに、紅が言った。いつも通り、朝から爽やかな奴だ。派手な顔立ちに、学ランはいまいちしっくり来ていない。
「平凡な奴は、あんなにレコードたくさん持ってねぇって」
鑑知(かがち)もうなずく。今日も切れ長の目は鋭く、三白眼は会話相手を射るようだ。
この中高一貫の男子校で、俺たちのつき合いはもう四年半になる。
俺は軽音楽部に入り、周囲のテクノへの理解のなさに悲しみを覚えつつ、独りで打ち込みとサンプリングに励んでいる。一枚でも多くのレコードを買うために、古レコード屋で週二回アルバイトをしている。
音楽一辺倒のせいで、教室の中央で輝くグループとも、片隅にたむろするオタクグループとも会話する。しかし、俺を選んで交誼を結んでくれるのは、紅と鑑知だけだ。
紅のお母さんはアメリカ出身である。その血を強く受け継いで、紅はたいへん派手な顔立ちである。目許の彫りは深く、薄ピンクの唇の間からこぼれる歯は白い。他校の女子生徒から声をかけられたり、プレゼントをもらったりすることもしょっちゅうだ。
イケているグループに入ってもいいようなものだが、紅はなぜか俺とつるむ。
「ゲンゴといると楽なんだよな、音楽の話も面白いし。いつも誰かの上に立とうとしてる連中と一緒にいると疲れる」
確かにクラスの中心にいるグループは、仲睦まじいように見えて、常にリーダー的存在を争っている。あの雰囲気が、紅は苦手なのだろう。
鑑知は俺個人に惹きつけられているのではなく、紅の友人である俺だからつるんでいる節がある。俺と二人でいる時の正直なそっけなさが、正直嫌いではない。
「テスト勉強してるか?」
鑑知の問いに、俺と紅は首を振った。俺は学校の勉強よりもテクノの勉強の方が忙しいし、紅は最近始めたモデルの仕事が楽しそうだ。
「でもゲンゴは英語できるからな」
確かに、毎日英語の歌詞を見聞きしていれば、自然と覚える。俺にとっては自然のことなのだが、紅と鑑知はうらやましそうに俺を見る。
「紅だってお母さんと会話してるだろ」
「いや、うちのママは日本語の学習能力高くて」
「お袋さん、俺が電話かけても普通に喋るよな」
俺と鑑知が言うと、紅はくすぐったげに笑って、「ママに伝えとくよ」と言った。
受験まであと二年を切っていたが、紅と鑑知と俺はあくまで呑気に過ごしていた。無理せず争わず過ごせるこの空間が、俺は好きだった。
まさか、数年後紅と鑑知が――いや、正確には二人と眞言くんが――あんな関係になるとは、この時の俺たちは誰も予想してはいなかった。
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