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新しく大学生活を迎えたあなたに

概要

学校では、理想的な状況の理論を主に学びますが、その知識を実用に展開する練習もします。そのような訓練は、主にレポート作成で行われます。レポート作成は、負担が大きいですが、社会生活でも生きる力です。しっかり身に付けてください。

学校文明が大事にするもの

 学校で教えることは、理論的知識が中心になります。もう少し言うと、理想的な条件での理論になります。例えば、テイラーという人が『科学的な管理法』を研究したときには、物を運ぶための最適作業手順の研究で、次のような人選をしました。

 「雄牛のような男シュミット」

これは、単調な作業の連続による『飽き』が発生せず、『疲労』の効果が一番出にくい人材を選んだ、ということです。これが一つの理想化です。

 実際には、人間が作業する時には、感情的要素や単調作業による『飽き』など、色々なことを考慮しないといけません。

 しかし、このような多様な要素から、一つか二つの重要な要素だけを取り出して、その変化で、目的の達成にどのようになるか、このことを考えるのが、研究者の論文などの考え方です。

 これを物理学など自然科学で考えると、もっとよくわかります。ニュートンが万有引力の法則を考えたとき、太陽系には色々な天体がありますが、地球と太陽だけの関係でまず考えました。月の影響や、他の惑星の影響を無視して、太陽と地球の関係だけで、地球の運動を記述して万有引力の理論を作ったのです。

 学校で学ぶ理論は、このような理想社会での議論が多いのです。そして、良い理論というものは以下のような特徴があります。

1.       できるだけ広い範囲に適用できる
2.       厳密に定義されている(できれば数式化されている)
3.       現実世界の事例を説明できる

学校で身に着けるべきもの

 学生時代に学ぶことは、上で書いたように理想社会での理論が中心になりますが、それを現実に適用した例についても学びます。教科書に載っている例は、ある程度理想的なモノです。杉田玄白がオランダの医学書を訳したとき、内臓の配置が実際の人間の内蔵の配置と同じと感心したという話があります。しかし、現在の医学で、多くの人間の内臓をCTやMRIで見た結果は、多種多様に変化しています。大きさも個人で変化するし、位置もいろいろと変わります。教科書通りの内臓の配置などはありません。しかし、教科書が示す内臓を、そのあたりにあると考えて個々人と触れながら、お医者さんは治療しています。このため、実際の死者を解剖し、MRI画像などを学ぶのです。

 このように、自分が手当てをするときの、ガイドとなる理論を知っておく、これが学校教育の一つの目的です。

また、基本的なスキルとして、きちんと自分の主張を展開する力を身に着けることも狙っています。数学の証明問題などが、一つの形ですが、それ以外にも法律の体系は、論理的な議論の典型になります。憲法の精神を刑法や民法などで、具体的に展開する。さらにそれを個別の法律に展開する。このような、

  一般論―>具体論
  原因―>結果

という風に、話の体系を作るスキルを身に着ける、これが教育の一つの目的です。

レポート作成で身につくもの

 先ほども申しましたように、大学で学んだ知識は、主に理想的な環境で成立するものです。複雑多様な現実に対して、自分の理論が成立する部分を切り取って、議論します。しかし、実際に世間に対して話をするときには、現実の多様さを意識していないと、色々な切り口から反論が来ます。そのような人たちに対抗するためにも、理論知識と現実の突合せを行うレポート作成の経験が大切なのです。

 理論だけの意見表明は、空虚で説得力が欠けます。一方、自分の体験だけで話す人は、多くの人を巻き込む幅に欠けることがあります。理論と現実の両面を突き合わせ、説得力のある議論を行う練習として、レポート作成の時間を無駄にしないでください。

個別レポートの注目点

 それでは、レポートの種別に応じた書き方のコツは以下のとおりです。

1.教科書などの抜き書き

 教官の指示で、

 「テキスト第N章を1~2枚にまとめろ」

という形式の出題です。

 この狙いは、

  「重要部分を理解しているか」

を評価します。

 作成時の着目点は以下のとおりです。

1.       中心になる主張を見つける。
 例)XXが原因で、YYとなる

2.       一般論(抽象的表現)を選ぶ
 主張を裏付ける話も、できるだけ一般論で探す

3.       具体例を適宜付加する
 ページが余れば具体例を加える。この時、自分の体験を入れるとよい。

なお、これに感想を加える場合には、上記1の主張に対して、感想を言うのがよいでしょう。

 例)「この主張は、自分の体験XXと合っている。」

   「この主張は、自分の体験とは合わない。理由は、自分の場合にはXXという事情があったから。」

のどちらかのパターンで書くと、書きやすいと思います。

2.理系の実験レポート

 理系の実験レポートは、文系の人には関係がないかもしれませんが、考え方が大切です。

 理系の実験レポートの目的は、

  「理論的な予測結果は、実際の実験結果と合わない。
   その理由を考える。」

ことです。

 例えば、電気の例ですと、オームの法則というものがあります。これは、

  電流=電圧/抵抗値

という式で表されます。例えば、1.5ボルトの電池を、100オームの抵抗につなぐと、15ミリアンペアの電流が流れるというのが、オームの法則で理論的な計算値です。

 しかし、実際に電池と抵抗をつなぎ、その間に電流計を入れると、その値にはなりません。これを実感して、理由を考えるのが、実験の目的です。

 この場合の考察欄に書くことは、次のようになります。

例「今回の実験で測定した、電流の値は14ミリアンペアだった。これは、計算値より1ミリアンペア低い。理由は、電池と抵抗をつなぐ、銅線の抵抗値や、電流計の内部抵抗の値が影響していたからである。」

 この考察の要点は、理論的に考える時には、電池と抵抗を結ぶ導線は理想的な『抵抗値なしの物』を考えていますが、実際の銅線は、少ないながら抵抗があります。このように理論の検討時には無視していたものが現実にある、これをしっかり考えることが、実験の目的です。

3.文系の調査レポート

 これは、経済学などで、教官が指示する事例を集めるなどの作業です。つまり

  「理論を裏付ける事例を探せ」

ということです。学問の世界では、『仮説』を立ててその証拠を探す、ということもよく行われています。そのための訓練ですが、これが行き過ぎると

  「自分に都合の良い事例だけを並べて、強弁する。」

という悪い癖が付く可能性もあります。これは注意してください。

4.社会科学の思考実験レポート

 これは出題されることは少ないが、高度な内容を含んでいます。主な考え方は

  「いま私たちが住んでいる社会と、別の社会で何が起こるか考える。」

  「特に歴史的な事例で考える。」

ことで、現在私たちが常識と思っていることを疑ってみる。さらに

 「なぜ今こうしているのか、その理由は?

ということを考えるのです。

 また、この応用として、二つの世界を比較する方法もあります。例えば、平安時代以降の日本と、同時代の朝鮮半島を比較してみましょう。日本は既にかな文字を持ち、独自の文化を発展させました。しかし、朝鮮半島では、中華文明の支配下にあり、独自の文字(ハングル)が使えるようになったのは15世紀です。この結果、漢文を標準に考える朝鮮半島では、儒教的な価値観での支配が続きました。

 一方、日本では独自の文化が花開き、武士階級などが権力を握るようになりました。

 このように、自分が今いる世界と別の世界を想像する。自分と別の立場の人を想像する。この思いやりが大切なのです。しかしこれができていない人も多いですね。

まとめ

 今まで書いてきたように、学生時代のレポート作成は、まとまった報告・提案を作るために大切なスキルを身に着ける、大事な機会です。社会に発信して生き残るためには、このレポート作成で身についたスキルが、一つの武器になります。あなた方の貴重な経験と、能力を生かして今後活躍いただくためにも、学生時代の時間を有効活用してください。

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