慣れないことの積み重ね

母が10年ぶりにオーブンを新調したらしい。パナソニックのビストロシリーズで新しい機能を試すたびに母から報告が来るのが楽しみになっている。姉も一律給付の10万円が入ったらオーブンを新調しようかと言っていた。そんな会話をした翌日、改めて我が家のオーブンを見てみると、わかってはいたが汚い。何度か掃除を試みても洗剤や重曹では取れなくなった汚れをどうにかせねばと思いつつ、放置していた。

ちょうどそんなことを朝から考えていると隣の部屋からマリファナの臭いが漂ってくる。よし、今日しかないと、存在は知っていたが二の足を踏んでいたセルフクリーニング機能を使ってみることにした。

大体のアメリカのオーブンについているらしいセルフクリーニング機能とは、オーブン内を4時間ほど超高温に保ち、全ての汚れを灰に変えるといういかにもアメリカらしい方法だ。中のこびりついた汚れを燃やすので当然焦げ臭いにおいが充満し、場合によっては火災報知器が作動してしまうらしい。なので、今日仮に隣に臭いが流れても、マリファナを焚いているなら気づかれないだろう。念のため火災報知器にはビニールでカバーをしておいた。そして相当熱くなると聞いたので、上に置いたあった鍋類、下の引出しも全て移動させた。引き出しの下から割れ物の破片が出てきて胸が痛んだが今は悲しんでいる場合ではない。一緒にトマト(なんと腐ってない、、、恐るべき農薬、、、)とコーヒー豆も出てきた。こんなところも掃除ができてよかった。

取り扱い説明書は見つからなかったが、どのやり方でも庫内の電気を消して中の金網は取るべしと書いてあったのでそれに従う。

セルフクリーニングのボタンを押すと、ロックしろ、とアラートが出てくる。手前にあったレバーの使い道を始めて知った。ロックをしてひとたびスタートボタンを押せばオーブンは焼却炉になるべく勢いよく熱を持ち始める。

待つこと四時間。家の中に煙こそ立たないが何かが燃えている体に良くなさそうなにおいが漂ってくる。窓を開けるのと換気は絶対だ。途中、上部のIHの部分に残っていた汚れを濡れ布巾で取り除くと、ジュっと水分が蒸発していったのでオーブン全体として素手では触るべきでなさそうだ。

横でオンライン会議をしている夫を横目に椅子を使って苦労してビニールを張り付けた甲斐あって、火災報知器にはばれずにやり過ごすことができた。

完了してから冷めるまで1時間ほど待って漸く中を確認すると、内部の汚れは消えていてところどころに白いしみができていた。汚れは大方白い灰になったようだ。取っ手がある手前のガラス部分についた焦げ付きは金属たわしで軽くこするとすぐに落ちたが、取っ手との接着部分(閉めると隠れる部分)の焦げは完全には取れなかった。直接熱を受けていないので仕方がないか。

きれいになったオーブンで早速今日はキッシュと野菜を焼いた。勝手ながらも中にいる食べ物もいくらか嬉しそうに見えてしまう。ガラスがきれいになったのでパン生地が膨らんでいくのを見るのも楽しみだ。

簡単なことでも初めて使う電化製品のメンテナンスができると、攻略した気分になって気分がいい。慣れない生活は、そんなことの積み重ねだなと思う。



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