続けよう読書日記(1/25読了分)

デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場(1/25読了)


 2020年 第18回 開高健ノンフィクション賞受賞作。 
 いい本じゃった……今年は海外文学を!とか言いながらまたノンフィクションばかり読んでいるな……と思いつつ、途中でやめることもできずぐいぐい読んでしまいました。
 実は私、栗城史多さんのことを全く知らずに読み始めたのです。タイトルから「SFっぽいね!」とか思いながら(おそらく『デッド・ゾーン』のせい)……私は登山経験もなく、山に登りたいという気持ちも特にないのですが(怖い!)、山について書かれた本は好きです。結構登山家の手記は手に取ったりもするのですが、栗城史多さん?か~聞いたことないけど、若い方だからかな?とか、ベストセラーに入ってるみたいだし……という軽い気持ちでしたが、これは前情報なしで読めて、私にとっては良かったかも。リアルタイムで栗城さんを知っていたら私は、この本で書かれていた「アンチ」の人たちと同じ様な気持ちを持ってしまっていたかもしれない……。と、言いつつ彼にアンチ的な気持ちを持っていた人こそ、読んでみたら色々感じるところがあるかもしれない。あっ、これは「栗城史多さんはあんなに叩かれていたけど、実は見えないところでこんなに努力して、こんなに勤勉な、こんなに素晴らしい人だった!」という本ではないです。

 この本ですね、著者河野啓さんの目線がいいのです。栗城さんの駄目なところをしっかり見つつ(本当に!本当に駄目な奴なんですよ!)、そして自身のメディア人としての業(「これは面白いネタだぞ!」というものを見つけたら正義や通すべき筋みたいなものをちょっと忘れて追いかけちゃうところ)もしっかり反省しつつ……亡くなった後の栗城さんを彼の軌跡を追いかけます。
 栗城さん、本当にこんな子おるよな……って思いました。努力したくない、訓練もしたくない、できるだけ手軽にぱぱっと目立ちたい(わかるよぉ!めっちゃわかるよぉ!私もそうだよぉ!)、人から「頑張ってください」とか「勇気をもらった」とか言われると嬉しく嬉しくて、もっともっと言われたい!ってどこまでも行っちゃう。(わかるよぉ!めっちゃわかるよぉ!私もすぐおだてられてえへえへしちゃう!)でも本当はもうめっちゃ辛い。もうやめたい(めっちゃわかるよぉ!私も根性なしだから……)。でもどこでやめたらいいのかもわからない。彼にビジネス的才能と、一瞬は人を引き付けてしまうカリスマ性……華やかさ……といった方がいいのかな?、があったことも悲劇の一端だよな、と思います。普通の人はこれがない。もしどちらもなかったらエベレストまではたどり着けないでしょう。でも彼には不幸なことに(?)お金を集める才能があって、実力のないまま、勢いだけでエベレストまでたどり着いてしまった。特に山が好きでもないのに「エベレストー!」って響きが世界一っぽくていいな!て思ったんだろうな、というのも容易に想像できる。銀座でパレードしたい!とか目指すものが本当に即物的で、派手で、幼稚で、でもそこが切ない。
 著者河野啓さんのことをネットで検索していたら、『ヤンキー先生』を紹介した人だ、と書いてあるコメントを見つけて「ええ~」て思ったけど、『ヤンキー先生』についてもこの本の中でちょっと触れられています。著者がこういう考え方をする人でよかった。
 栗城さんが最後にすがったものが、彼の幼さを表しているような気がして、私本当に「はー」って嘆息してしまった。

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