囀る…感想その24 55話感想(前編)

(以前ふせったーに上げた記事の再掲です)

 まずは井波。正直言って、矢代さんのネタを盾に百目鬼に対してもっとエグい要求を繰り出してくるのではないかと恐れていましたが、意外にもあっさり交渉は終わった印象でした(どれだけ先の展開に戦々恐々としてるの私……)。

 意外だったのは、矢代さんに対する言動は赦し難いとはいえ(まあ最初のきっかけはともかくその後も継続したのは合意の上ではあるのですが)、百目鬼に対して矢代さんをネタに下衆いいたぶりを仕掛け楽しもうとして、逆に返り討ちに遭った後は何故か普通に情報提供し、聞かれてもいない奥山のことまで進んで教えてきたことです。また百目鬼が甲斐の出所時期を尋ねると、その意図を瞬時に察するなど、なかなか頭の回転も速い。この人は口と性癖は壊滅的にひどいけれど、そこそこ有能で仕事相手としては悪くない……勿論そうでなければ矢代さんも自傷行為のためだけに関係を継続したりはしなかったのでしょう……と思ってしまいました。

 印象的だったのは勿論、そんな井波への百目鬼の去り際の一言、「あんた、気持ち悪いな」。いくら無口とはいえその感想……と思わず笑ってしまいつつ浮かんだのは四年前、矢代さんが撃たれて大怪我しているにも関わらず七原を探すため無理して病院を抜け出そうとしたとき、影山が怒りながらも杉本がくすねたのよりもっとよく効く痛み止めをくれたのに対する矢代さんの「カーゲー なんかキモイな」の一言でした。人から思いがけず受けた親切に対する反応が、この二人は似ているな……と感じたのでした。


 井波についてはいったん終了として、話は桜一家の抗争へと移ります。

 このところ、いよいよ終盤へと向かいつつある『囀る……』を読んでいて頭に浮かぶのは、「因果応報」という言葉で、今回もそれを強く感じました。

 因果応報。
 自分のしたことは自分に返ってくる。
 いいことも、悪いことも。
 
 奥山がどういう人間なのか、まだはっきりとは分からないけれど、綱川がもう少し、年長者(極道としては奥山は大先輩にあたるわけですし)に敬意を払うとか、形だけでも立てるとか、そういうことのできる人物だったら、また余所から入ってきて(たぶん上にいいところを見せようと)イキがる新参者の若い衆の処し方がもう少し違っていたら、あるいは仁姫ちゃん誘拐事件は避けられたのかもしれない、と思ってしまいました。もちろん己れの私怨に子どもを巻き込むなど言語道断なのは言うまでもありませんが。

 そしてもし綱川がそういう人物であったら、綱川が跡を継いだとしても、奥山は出て行かず、残って綱川を支えるという未来もあったかもしれない……。分からないですけれども。

 良くも悪くも、綱川という人は生まれながらのキングで、俺様で、でもその強烈なカリスマ性が人を惹きつける、その力は絶大だと思うし、それは極道という世界でトップを張るには得難い資質なのでしょう(今回明かされた「玲司」という名前も貴公子感があっていかにもキングにふさわしい)。けれどもそれはこのように身内にさえ敵を作ってしまうこともあるという、諸刃の剣であるといえます。

 ただ奥山も、甲斐みたいな男を引き受けてしまうあたり人を見る目がないのか、それとも甲斐のような根性が捻じ曲がって執念深い人間と引き合うものがあるのか、色々問題はありそうです。
 一見穏やかそうに見えますが、若き日の綱川に含みのある言葉を投げかける横顔は残忍そうにも見え、裏のある人物にも思えます。
 良い意味でも悪い意味でも直球の綱川とは、そもそも相容れないのでしょう。


 あと気になったのは、綱川の右耳のピアス。

 これまでも何度か綱川の耳にピアスを見るシーンはありましたが、右耳だけなのか今ひとつ確信が持てませんでした。でも今回、正面からの画でピアスは右耳だけにあることがはっきり分かりました。

 「右耳 ピアス 男性」で検索すると、同性愛者であることを示す、という記述が出てきます。しかし必ずしもそうではない、という記述もあり、断言はできません。本来は、ピアスを右耳につけることは「守ってくれる存在がいること」、左耳につけることは「守るべき存在がいること」を意味するとあります。

 綱川が右耳だけにピアスをしていることに、意味があるのかないのか。今の時点では何ともいえませんが、先生が意味なくその画を描かれたとは思えないような気もします。

 だとしたら綱川は本来ゲイなのか?にもかかわらず女性との間に子どもを作り、異性愛者として生きようとした?桜一家の長として、誰よりも極道らしく生きるために。……その考えは、今の段階ではまだ妄想の域を出ません。でももし仮にそうだとしたら、天羽さんに言った「俺の疲れ○○でも……」という台詞の意味合いが、全くちがうものになってきます……。そもそもその台詞って、男同士のジョークとしては普通なんですか?というのは、当初からの私の疑問だったのですが。

 まあ綱川がゲイなのかどうかは置いておいて、若き日の連が思いのほか背が高くガッチリしており、控えめだけど静かな迫力があって、ちょっと百目鬼と雰囲気が似ているなあと思い、傍に置く者として、綱川の好みなのかな、と思ったりしました。
 

 ……いつものことながら、長くなってしまったので、いったん切ります……。百目鬼と矢代さんについては、後編で。(二人については、別にしたかったですし……)

(2023/12/6)

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