くじら島旅行記《前編》
“ねぇ、もし無人島に行くなら
何を持っていきたい?”
そんな会話をしたことがある人は多いはず。
古今東西、小説や映画、テレビ番組で引っ張りだこな舞台、無人島。
誰しも一度は(きっと)憧れるそんな無人島を、1日1組限定で貸切できちゃう夢の場所があるんです!!
それが…
くじら島!!!
♪〜〜(ONE PIECEのOP)
◇はじまり
「無人島を貸し切ってみたいなぁ」と思うようになったのは大学生の頃でした。
大学に入ってから体験と経験を積み重ねることを目標にしたり、趣味を趣味探しにしたりしていたので、とりあえず面白いと思えることや好きだと思えることならどんなことでも「よし、まずは試しにやってみよ!」の精神だった学生時代のくま。
そんな気持ちの延長線上で、幼い頃から憧れてた無人島でいつかイベントの主催をしたいなーと考えてました。
だって無人島で無人島の脱出ゲームしたり、無人島に漂流した人間の映画を見たり、無人島をテーマにしたTRPGやボードゲームをしたりとかぜーーーったい楽しいじゃないですか!
大人数で疑似サバイバル生活をするのだって絶対楽しい……。
無人島は浪漫の宝庫、行こうよ無人島。
◇くまの恩返し
…と、まぁ夢は広がるのですが、そんな大規模企画を在学中に立ち上げるほどの気力はなく、「人生の中でいつか無人島を独り占めしたいなー」くらいに思いとどまってました。
さて、それからだいぶ時が過ぎ去り大学卒業を間近に控えた3月のこと。
「もうそろそろくまも社会人だねぇ〜」だなんて居酒屋で家族3人仲良く談笑している中、アルコールが入って普段よりも1.5倍笑顔が溢れる両親を横目に私だけが1人ただただ焦っていました。
(家族旅行、どうしよう……)
これまで紆余曲折ありながらも、大学まで大事に育ててもらった両親へのお礼の気持ちとして大学4年間でちまちまひっそり貯めていた30万。
本来ならば母親が台湾に行きたがってたので台湾旅行の足しになればと思って貯めていたお金だったのに、世の中は生憎の流行病で海外旅行どころか国内旅行も厳しい状態に。
はてさて、どうしたものか。
(んー、贅沢なご飯にでも毎週行く?いや、せっかく貯めたのに感動が分割されちゃうのはなんかなぁ)
(じゃあ、とっても豪華なホテル?いや、ホテルもちょっと台湾旅行の思い出とは釣り合わないなぁ…)
(えーーじゃあ……)
(無人島、とか?)
一瞬「いやいや、流石に家族旅行で無人島に行くのはあまりにもサバイバルすぎるでしょー」と思考を放り投げようとしたんですけど、
………ん、いや?
…ある、あるぞ。
過去に無人島を調べてた時に、至れり尽くせりのグランピングをやってる無人島を確か見かけた気がする。あの時はサバイバルがしたかったからスルーしてたけど、無人島なら一般的な国内旅行よりも感染リスクを心配しなくても良いしグランピングなら両親も好き。それに無人島は浪漫だしそれを貸し切るのは私の夢でもある…あれ、布陣が完璧すぎるな???
え、じゃあ本当に無人島にしちゃう??
確かあの島の名前は……。
うろ覚えの記憶を何とか手繰り寄せて、スマートフォンにその文字を入力し、1番上に表示された検索結果を見て高揚感に思わず息が止まります。
(…あった、“くじら島”)
くじら島は岡山県にある1日1組限定で貸し切ることができる無人島で、正式名称は「竪場島」
値段も調べたら予算圏内だし、設備も最高な上にアクティビティも充実してる。何よりも「くじら島」という名前がくじら好きにとっては堪らなく甘美な響き…いや、もう一生の思い出を作るならここしかない。
くまの心は一気にくじら島に奪われました。
さぁ、あとは両親にこれを言うだけ。
「ねぇ、無人島に行かない?」
◇日程決め
驚く両親に今までこっそり貯めていた30万円やくじら島のことを伝え、日程を決めることに。
カレンダーと睨めっこしていると、2021年の12月に遊びに行った「かしいかえん」(シルバニアファミリーのテーマパーク)での記憶がふと蘇ってきました。
それは、人集りに吸い寄せられてバースデーショーを何となく眺めていたときの記憶です。
キャラクターたちが子供たちの誕生日をお祝いしているのを微笑ましく見ていていると、バースデーショーの最後にスタッフのお姉さんが「誕生日はもちろんみんなが主役の日…なんだけど、お父さんとお母さんが居なかったらみんなは産まれてこなかったでしょう?だから、今日はみんなの誕生日をお祝いするのと、今までみんなを大事に育ててくれたお父さんとお母さんにも“ありがとー!”って言ってお祝いしたいなって思います!」と言ってたのがとても印象的でした。
素敵な考えだったので、私もそれを真似っこして「この前行ったかしいかえんでこんな話を聞いていいなって思ったんよね、やけん、私の誕生日にくじら島に行かん?」と両親に提案しました。
◇出発
さて、両親の合意も得たところで流れるようにその場でくじら島を予約しました。当日に向けてくじらの絵本を買ったりグッズを購入したり、振り込みをしたときにATMの前でちょっとドキドキしたのもいい思い出です。
そんなこんなでうきうきるんるんで準備してたら気づけば当日を迎えていました。
出発日は私が夜まで仕事だったので、両親には先に車で岡山県まで行ってもらい、私は仕事終わりに新幹線に乗って岡山県へ向かいました。
新幹線に乗るのも久しぶりです。
コンビニで買ったお菓子やジュースを頬張りつつ、浮き立つ心を落ち着かせるために窓の先で流れていく風景をぼんやりと眺めていました。
福岡から岡山まで1時間半ほど。
うっかり寝てしまって乗り過ごさないように、友達と通話を繋いでボードゲームをしつつ岡山へと向かいました。
岡山駅に着いた頃にはもう23時前。
知らない土地へのワクワク感も相まって、夜遅い駅の非日常感にまた心がスキップし始めました。両親が迎えに来てくれているらしいのでスキップしたい気持ちを抑えつつ改札口へと向かいます。
ホームからエレベーターを下ると「ようこそ 晴れの国 岡山へ」という看板が目に飛び込んできます。ずっとずっと待ち望んでいた日がやっと来たのを実感して口角が上がるのを感じつつ、見慣れない改札口を抜ければ見知った両親が笑顔で私を迎えてくれました。
「お父さんお母さんただいま!」
さて、今日の冒険記はここまで!
《中編》では岡山駅からくじら島に到着するまでを書いていきたいと思います。
それでは《中編》でまたお会いしましょう!
《おしまい》