つぼみ

Boy meets girl. 春は突然。

4月。

新入生歓迎モードのキャンパスでは、サークルや部活の勧誘チラシがバラ撒かれている。そのチラシには、見学の案内と「新歓コンパ」の日時が書かれているものだ。

僕は「新歓コンパ」が苦手だ。

もちろん、新入生の僕は今まで「新歓コンパ」に参加したことはないのだが、大学生がワーワーキャーキャーバカ騒ぎをする、というイメージが先行してしまい、まったく興味を持てなかった。

 

 

「なー、このサークルの新歓コンパに行ってみない?」

そう声をかけてきたのは、同じクラスのアキラだった。

「いやぁ、、、サークルとか入るつもりないし、、、」

「そんなん言わんと、行こ! チラシを配ってた先輩、めっちゃ美人やったで!」

美人・・・っ! 美人に会えるなら・・・

とはいえ、美人の基準はひとによって違う。もし、僕の美人のイメージとまったく違うタイプだったら、わざわざ新歓コンパに行くのは骨折り損のくたびれ儲けだ。

 

 

僕にとって、女性と話すということはかなり労力がいることだ。

というもの、思春期の高校生活を男子校で過ごし、浪人時代も理系コースにいたため、クラスのほとんどは男子だった。

これまでの4年間で会話した女性は両手で足りるほど・・・。

見ず知らずの女性と、コンパだなんて。話しもまともにできないのだから、連絡先を交換するなんて夢のシチュエーションが訪れるはずもない。

 

 

とはいえ、アキラの美人像が自分とまったく違うとは限らない。まずはどんな女性だったか、アキラから詳しく聞いてみよう。

「ちなみに、その先輩ってどんなひと? 芸能人でいうと誰に似てる?」

「せやな・・・芸能人だと、原田知世。デザイン界隈だと、長嶋りかこ。」

どんぴしゃである。永作博美がベストだが、原田知世も申し分ない。

「へ、へぇ、、、じゃぁショートなんだ。ちなみに、何年生?」

「うん、ショート。たしか3年生。サークルの副代表をやってる。」

どんぴしゃである。かねてより年上に憧れていた。浪人していたので、学年が1つ上では同い年になってしまうし、3つ上では交際1年で卒業してしまう。

しかも副代表。サークルの母ポジション。母性の塊。年上の彼女にするにはピッタリだ。

 

 

「アキラにはまだ話してなかったけど、、、おれ、年上で黒髪ショートの女性とお付き合いするのが夢なんだ! その先輩、どんぴしゃだ。」

「え? なんで黒髪ショートって知ってんの?」

「え? さっき原田知世に似てて、ショートだって・・・」

「あ、ごめん。ショートってのは髪型のことやなくて、ポジションのこと。言うの忘れてたけど、ソフトボールサークルの新歓コンパな。でも、黒髪ショートであることは間違いない。」

な、な、なんと・・・ソフトボール・・・どんぴしゃである。
かねてより、下半身がしっかりした女性に憧れていた。元気な赤ちゃんを産むためには強靭な下半身は必須。下半身を鍛えるのにソフトボールはピッタリだ。

ひとつ懸念点があるとすれば、高校時代に痛めたこの右肩では、もうボールを投げられないこと。しかし、この一期一会の出会いのためならこの右腕なんて惜しくない。ようやく君の気持が分かった気がするよ、シャンクス。

 

 

「あ! 先輩!」
アキラが突然手を振った。

「いま話してた美人の先輩や、こっちにくるで。」

「あっ、さっきの新入生やん。アキラ君やったかな。となりの彼は友達?」

「そうです! 新歓コンパ、こいつと一緒に行こうおもてます。」

「わ! それは嬉しいなぁ。君は名前なんていうん?」

「す、鈴木です。」

「"鈴木くん"かぁ。よろしく! 新歓コンパで待ってるな。」

どんぴしゃである。大学で京都を選んだ理由をすっかり忘れていた。
すべては「関西弁の彼女をつくるため」だ。

なんとステキな発音だろう。

”鈴木くん”のイントネーションが関東と違う。”木”で上がるのだ! 最高である。

初めて自分の姓が鈴木でよかったと親に感謝した。

 

 

「ほな、鈴木くん。また詳しい連絡するし、メアドと電話番号交換しよか?」

「え!?」

「LINEやってたら、それも教えて♪」

ズキューン

春が来た。

 

 

この物語はフィクションです。

登場する人物・団体・名称等は架空であり、筆者の理想のタイプ像を除いて、実在のものとは関係ありません。


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