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パレットクラブ日記 第29回・都築 潤先生「日本イラストレーション史」

※パレットクラブスクール「イラストコース」(23期)の授業内容の備忘録です。過去の授業内容はこちら

今回の授業は講義形式。イラストレーター・都築 潤先生の「日本イラストレーション史」だ。京都造形芸術大学で全15回で教えられている内容を、2時間に圧縮してレクチャーしてくださる。日本のイラストレーションについて俯瞰した視点を持てるようになるのでは、と、とても楽しみだ。

日本の「イラストレーション」事始め

そもそもは図版(=印刷物の絵と写真の部分)という定義で用いられていた「イラストレーション」。それが絵の話として扱われるようになったのは、1960年代頃の話だという。

先生によれば、日本の印刷物にイラストレーションという言葉が初めて登場したのは、1959年創刊の雑誌「ヒッチコック・マガジン」だそう。小林泰彦がデザインと絵を担当したこの雑誌で、当初「イラストーレション」と誤って記載されたものの、その間違いには誰も気づかなかった。今となっては、まだ浸透していなかったというのが想像できないぐらい当たり前に使っている言葉なので、なんだか不思議な心地がする。

広告業界と「イラストレーター」の出現

1960年代に入ると、「イラストレーション」が広告デザイン業界の専門用語として定着する。この頃までのイラストを担っていたのは、主にグラフィックデザイナーだ。
そこへ、アンクルトリスを描いた柳原良平が「イラストレーター」を名乗り出し、1964年には宇野亜喜良・和田誠・横尾忠則が東京イラストレーターズ・クラブを発足。「年鑑イラストレーション」が創刊され、徐々にイラストレーターという言葉が社会に認知されていく。イラストとイラストレーターを切り離して考えるようになったのもこの頃。高度経済成長を背景とした、華やかな広告イラスト時代の到来が感じられる。

傍流

60年代には、広告とは別の柱も生まれる。1964年に「ガロ」、1967年には「COM」が創刊。サブカル的な色を帯びた、漫画家によるイラストレーションの流れが出てくる。70年代には「へたうま」や「スーパーリアル」といった概念も出現し、イラストが徐々に多様性を増してくる。現在の日本のイラストに幅と奥行きを与えているものには、このあたりに源流があるのかもしれないと思った。

イラストとアートの接近

80年代に入ると、大コンペ時代がやってくる。日比野克彦が東京芸大大学院在学中に3つの大きなコンペで大賞を取り、メディアに進出。イラスト以外のビジュアルデザイン領域を巻き込んだ、大きなアートブームが起こる。オタクという言葉が一般に広まったのもこの頃。バブル景気を燃料として、日本のアートとサブカル領域が一気に爆発したという感じだろうか。イラストとアートの境目が曖昧になってきたのはこの時期だといえそうだ。

90年代以降

ネオポップの寵児、村上隆や奈良美智、中原浩大ら「逆輸入」の形で日本に入ってきたアーティストの作品がイラスト化・世俗化するのが90年代。当時高校生〜大学生だった床山は、村上隆の「フラワー」は、アートというよりイラストじゃないの?と思っていた。奈良美智の描く女の子はアートかな?とは思ったが、キャラクター性のある絵でもあったので、一般的な美術作品よりも身近に感じたものだった(グッズ化もされていたし)。
また、90年代には、アートとサブカル(コミック・ゲーム・アニメ)の相互乗り入れが起こり、漫画家やゲームデザイナー、アニメーターがイラストレーターを名乗るようになる。以前からあるイラストレーションと「萌え系」のイラストがはっきり分かれてきたのもこの頃だろうか。
2000年代以降になると、イラストレーションの世界が縮小し、イラストとイラストレーターを切り離して考える時代が再びやってくる。企業・組織によってイラストがより戦略的に使われるようになったのが、現在のイラストレーションを取り巻く状況のようだ。

終わりに

授業のメモだけでは不十分なので、随時調べながら書いた今回のまとめだったが、今の自分の絵がどのような流れを汲んでできているものなのかを考えるとてもいい機会になった。「今、必要なのはマッピング。自分が今どの位置にいるのかを考えるべき」と都築先生。自分の立ち位置を大局的に見ることは、今後の方向性や売り込むべき先を考える助けになると思う。萌え系、アニメ系に押され気味の現在のイラスト業界だが、今後またどんな新しい流れが生まれるか(また、生み出していけるか)を注視しつつ、自分の関わり方を探りながら描いていきたいと思った。

まとめてみると、景気の動向とイラスト業界の膨らみ具合は連動しているのが改めて見て取れる。景気の分析とイラストの方向性。これも意識していくといいのではないかと思う。


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床山すずり
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