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雨が友をつれてくる女
リズムよい音が聞こえてきて、少し気分が高まる。
カーテンを少しめくって、目でちゃんと確かめる。
向かいの家の屋根の上は、灰色の雲。
「雨だわ」
その瞬間、花に水をやるように、わたしの心は生き生きとする。
わたしはくせ毛で、偏頭痛持ちだけど、雨の日はきらいじゃない。
頑張ってセットした時間を取り戻してほしいとも思わない。
バファリンの容量も頭に入っていない。
そんなことなんて、どうでもよくなってしまうくらい、雨の時間が好き。
「降水確率は20%だったはず。ついてるわ」
急いで玄関へ行き、ぺたんこの靴を履く。
小さな折りたたみ傘を持って、勢いよくドアを開ける。
幸せのシャワー音が耳に飛び込んできて、自然と口角があがってしまう。
体は、歩きなれた道へと自然と向かっていた。
この道をまっすぐ行って、公園を抜けよう。
わざと水たまりを踏み、ズボンの裾にシミをつけながら歩く。
背負ったリュックは、どれほど濡れただろうか。
傘からはみ出した自分の肩を確認する。
キャメルのダウンコートが、ダルメシアン柄になっていく。
かなりの大雨だからだろうか、今日はコンビニで傘を買う人が多いようだ。
店先に並ぶビニール傘が、急な出番でもじもじしている。
住宅街に入る。
雨どいを伝って、ごぼごぼと排出するようすを見ながら、カエルのことを思いだす。
ここは自然のウォータースライダーだ。
けろっぴぃがでてきたら面白いのに。
脇道で、傘を傾けながらカバンの中を探す女性を見つけた。
ヴァイオリンを構えるようにしているせいで、半身が雨にさらされている。
「どうか、されましたか?」
OL風の女性が、傘を持ち直しながら、
「カギを……あ、ありました。傘を持ちながらなので、苦戦しました」
「雨はイヤねえ」
「本当に。今の時期、冷たい雨ですしね」
「そうね。冷えただろうし、帰ったら体、温めて」
「はい、ありがとうございます」
「では」
雨の日だと、素直に話せる。
見ず知らずの人とも、気軽に。
心の壁が溶けるのかしら。
いつか、こうして本当の友だちができると良いのに。