母は膝枕~膝枕に育てられた少年~
鈴蘭と申します。ClubhouseというSNSで脚本家今井雅子先生が無償提供されている『膝枕』という作品の二次創作をしてみようと思い立ちこちらの話を書いてみました。
今井雅子先生、ありがとうございます。
今井雅子先生の『究極の愛のカタチー膝枕』(通称:正調膝枕)はこちらです。
こちらの世界では、『膝枕』は世間一般に広く普及し、癒しを提供するだけでなく、ベビーシッターや家庭教師といった膝枕ユーザーから自立し仕事をしている『膝枕』さんも多く存在しています。
このお話では、タイプの違う2人の『膝枕』さんが登場します。
最初に出てくる膝枕さんは、箱入り娘膝枕のヒサコさん。こちらのヒサコさんは河崎卓也さんの膝枕外伝『ヒサコ』をモデルに書かせていただきました。
河崎卓也さん、ありがとうございます。
河崎卓也さんの『ヒサコ』はこちらです。
鈴蘭作 母は膝枕~膝枕に育てられた少年~
僕の名前は伊織、14歳。
僕の母は膝枕です。
上半身はなく、白くふっくらした太ももが魅力的な女性の膝枕。
他のママとは違う、人工知能搭載の腰から下だけの正座した姿の母に幼かった僕は、僕のママって他のママと違うな~、なんでなんだろうと不思議に思いましたが、母である膝枕のヒサコさんと父が大好きだったので、そんなことはすぐ気にならなくなりました。
膝枕のヒサコさんと父母との出会いは、僕が生まれる数年前まで遡ります。
ある雨の日。
車で帰宅中の父は、道端に置いてあるビニールカバーの掛かった段ボール箱を見つけました。オーブンレンジでも入ってそうな大きさに、何が入ってるんだろうと気になった父が蓋を開けると、中には膝枕(大人の女性の腰から下が正座した形)が入っていたそうです。
父:「これって膝枕!?今、流行ってるって聞いていたけど…君は捨てられたのか。
ビニールカバーのかかった段ボール…雨に濡れないように?でも風が吹いたら飛ばされそうだ
な…よし、連れて帰るか」
ビニールカバーごと段ボール箱を後部座席に乗せ帰宅しました。
父:「弥生さん、ただいま~!!」
出迎えた母は、父の抱えた段ボール箱を見て
母:「聡さん、おかえりなさい…それは何?」
父:「今流行りの膝枕だよ!帰る途中で見つけたんだ。捨てられたみたいでさ、雨が降ってるからかビニールカバーかかってたんだけど、なんだか可哀想で連れてきちゃったよ」
話しながら段ボール箱を下ろすと、蓋を開ける父。母が覗き込むと、女性の腰から下が正座した形で入っています。
母:「これが膝枕なのね。膝枕さん、初めまして。弥生です」
その時、父と母の頭の中に『初めまして、私はヒサコです』という声が響き、膝枕が左右の膝を合わせたそうです。
父:「初めまして!君の名前はヒサコかぁ。僕は聡だよ、よろしくね~!!」
ヒ:「拾って下さりありがとうございました。
聡さん、弥生さん、よろしくお願いします」
こうして、父と母とヒサコさんの3人暮らしが始まりました。
母とヒサコさんは、あっという間に仲良くなったそうです。その仲の良さは、父がヤキモチ焼くほどだったとか。
体の弱い母は、もうすぐ生まれてくる僕の話をよくヒサコさんに話していたそうです。
母:「でね、もうすぐ生まれてくる赤ちゃんは男の子なの。名前は伊織にしようって、この間聡さんと決めたのよ、ふふっ……ヒサコさん、お医者様の話では私はもう長くないみたいなの。お腹の赤ちゃんの命と引き換えになるかもしれないと…」
ヒ:「そうなのね…」
母:「それで…ヒサコさんにお願いがあるの。もし私が死んでしまったら、この子を聡さんと一緒に育てて欲しいの」
ヒ:「それは無理よ!私は膝枕ロボット、子供を育てるなんて出来ないわ!!」
母:「いいえ、貴女(あなた)は家事をずっと手伝ってくれたでしょう。それに、人工知能搭載の膝枕さんなんだから、伊織に色んなことを教えることも出来るはずよ。だからきっと大丈夫。それに…聡さんはあなたじゃないとダメなの」
ヒ:「でも…でも…」
母:「ヒサコさん、お願い…」
ずっと悩んでいたヒサコさんでしたが、父からも頼まれ了承したそうです。
その数ヶ月後…僕が生まれ、入れ替わりに母は天国へと旅立ちました。
母と父に頼まれてから、徐々に育児関連の情報をインストールして勉強していたヒサコさんは、母が亡くなってからも、勉強を続けながら家事をするという、忙しい毎日を過ごしていたそうです。そんなヒサコさんを気遣い、父も仕事しながら僕のお風呂やオムツ替えなどしていました。
とても大変だったんじゃないかと思ったのですが、父は再婚しませんでした。どうしてって聞いたら…。
父:「再婚なんてする訳ないだろ!!ヒサコさんがいるのに!!!」
小さい頃の僕は、ヒサコさんの子守唄や読み聞かせが大好きだったそうです。
え?ヒサコさんは音声機能ないでしょ?
う~ん、僕にもよく分からないのですが、ヒサコさんと一緒にいると頭の中にヒサコさんの声が聞こえるんですよ。テレパシーみたいなものですかね?寝なきゃいけない時間になると…。
ヒ:「伊織さん、そろそろ寝ましょう。ヒサコがお歌を歌ってあげます」
ヒ:「もうおやすみの時間ですよ。今日は伊織さんの大好きな『わにのだんす』を読んであげましょうね」
布団に横になると、ヒサコさんの歌声や読み聞かせの声が頭の中に流れてくるんです。
静かで優しく穏やかなヒサコさんの声は、僕をすぐ眠らせてくれました。
幼稚園に行くようになると、ヒサコさんは色々教えてくれるようになりました。そこから勉強が好きになり、学校では図書室、休みの日は図書館に通うようになりました。
そんな毎日を過ごしている内に、僕は大好きなヒサコさんにプレゼントしたくなり、小学2年の母の日にクッションを作って彼女に渡しました。
ヒサコさんはすごく喜んでくれて、両膝で優しくギュッと抱きしめてくれました。
4年生くらいから、学校に行くのが嫌になってきました。勉強はどの科目も楽しかったけどクラスメートと喧嘩したり、嫌がらせを受けるようになったのです。先生に相談しても取り合ってもらえず、学校は守ってくれないと悟った僕は、父とヒサコさんに報告。2人は僕の辛い気持ちを分かってくれました。
その後、父はすぐ学校に連絡。僕は家庭教師に勉強を教わることになりました。
ヒサコさんは、学校に行かなくった僕の側を離れず、膝枕をしてくれたり両膝でギュッと抱きしめてくれてました。
毎日優しく癒してくれるヒサコさんに、いつしか僕は恋心を抱くように…。
伊:「ヒサコさん、いつも僕の側にいてくれてありがとう」
ヒ:「いいえ、私は何も出来なくて…でも、せめて伊織さんに寄り添っていたくてこうしてるのです」
伊:「ヒサコさんのその気持ち、ずっと側にいてくれることがどれだけ嬉しいか、貴女(あなた)には分からないだろうね。毎日忙しくて大変な貴女(あなた)をずっと独り占め出来るなんて、僕は本当に幸せだよ」
ヒ:「伊織さんにそう言ってもらえて、私も嬉しいです。…ああ、今日は伊織さんの14歳のお誕生日ですね。おめでとうございます。14歳の少年には見えませんよ。また大人っぽく素敵になられました」
伊:「ありがとう、ヒサコさん。僕はヒサコさんの隣に並んでもおかしくないかな?」
ヒ:「勿論です。聡さんみたいにかっこいいですから。私こそ伊織さんの隣にいていいのか、心配になってしまいます」
伊:「…父さんの名前を出すのはやめてくれないかな。今は僕とヒサコさんしかいないんだから」
ヒ:「伊織さん?」
伊:「ヒサコさん、好きだよ」
ヒ:「伊織さん…私も好き、ですよ」
頭の中に響く、困ったような声。
伊:「その好きは、母としてかな?」
ヒ:「……」
伊:「僕も最初はそうだったよ。ヒサコさんは優しいお母さんだって。でも、学校に行かなくなって貴女(あなた)と過ごすようになってから、どんどん好きになっていったんだ。今はもうお母さんとしてじゃなく1人の女性として」
ヒ:「私は、あなたのお母様と約束したのです。伊織さんのお母さんになると。それに、私には聡さんが…」
伊:「ヒサコさん、好きだ!父さんじゃなく僕を見て!!」
その時、ドアが開いて父が入ってきました。
父:「伊織、ヒサコさんを困らせないでくれないか」
伊:「困らせてない!!僕の気持ちを伝えただけだ!!!」
父:「まあ、ちょっと落ち着いて。お前に紹介したい人がいるんだよ」
その時、カートの上の膝枕がガタガタ動きました。
伊:「その人って…」
父:「お前の家庭教師。膝枕の『葉月』さんだ」
分厚いクッションに座ってる膝枕が喋りだしました。
葉:「こんにちは!伊織くんですね?家庭教師の葉月と申します。よろしくお願いします!!」
伊:「あ…よろしくお願いします」
元気な葉月さんの挨拶に気を取られてる内に、父はヒサコさんを抱き抱え、部屋から出ていってしまいました。
葉月さんは、音声機能搭載の膝枕。
葉:「それじゃ、早速始めましょうか。伊織くんの学力の確認したいから、5教科分のテスト作ってきたの。時間かかってもいいからやってみて。それじゃあ、スタート!」
1時間後。
葉:「驚いた。全教科全問正解って…」
伊:「これで終わりですか?」
葉:「この展開は予想してなかったわ…。君、家庭教師要らないんじゃない?」
伊:「それじゃ、これで終わりなんですね。父を呼んできます」
葉:「わ~!待って待って!!私、伊織くんとお喋りしたいなぁ」
伊:「僕は、話すことありません」
葉:「まあまあ、そう言わずに(2時間の契約なんだから、なんとか引き伸ばさないと!!)」
僕は、暫く葉月さんと話していました。
葉:「ふ~ん、彼女はヒサコさんっていうんだ。で、伊織くんのママ」
伊:「話聞いてました?代理母です。本当の母じゃない」
葉:「ここまで育ててもらっておいて、何言ってんの。で、毎日優しくしてもらってる内に好きになった、と」
伊:「なんか、引っ掛かる言い方しますね」
葉:「事実でしょ。んで、気持ち押さえられなくて告白…ね。ん~、情熱的ぃ」
伊:「僕のこと、バカにしてませんか?」
葉:「してません!!」
…この人、家庭教師としては頼りないけど面白い。
彼女と話してる内に冷静になってきた僕は、葉月さんに興味を持ち、もう少し喋ってみたくなりました。
それから、葉月さんは毎日家に来ました。
え?どうやってって?今は膝枕専用のタクシーとかあるんですよ。それに乗って。
で、授業が始まるんですが…僕が質問しても何故かちゃんと答えてくれないんですよね。
葉:「あ~、疲れちゃったね。休憩しよっか」
伊:「休憩の前に、今、僕がした質問に答えてもらえませんか」
葉:「あ~…まあ、それは後で答えるから」
伊:「そう言って、いつも答えてくれませんよね。いい加減にしないと父に報告しますよ」
葉:「わ~!!そこは、目をつぶって!!」
伊:「なあんで、僕が黙ってなきゃいけないんですかね。ま、いいですけど」
そして雑談タイムが始まります。
几帳面で丁寧なヒサコさんとは違い、大雑把で豪快な葉月さんに最初は戸惑っていたのですが、最近、彼女とのお喋りが楽しくなってきました。
葉:「伊織くんさあ、最近よく笑うようになったよね」
伊:「そうですか?葉月さんの気のせいじゃないですか?」
葉:「気のせいなんかじゃないよ!最初の時はさあ、ヒサコさん命!って感じで笑うこともなかったんだよ、伊織くん。でも今は本当によく笑うようになった」
伊:「だったら葉月さんのせいですね。豪快だし大雑把だし、ノー天気だし」
葉:「そこは、『葉月さんのせい』じゃなく『葉月さんのお陰』でしょうがって…ん?
なあんか褒められてる気がしないんだけど」
伊:「後は…デリカシーがない」
葉:「ちょっと!!!」
伊:「ふっ、あははっ」
葉:「も~!!私だって傷つくのよ」
伊:「でも、だからこそヒサコさんへの気持ちを整理出来たのかもしれません」
葉:「え?」
伊:「最初は、ヒサコさんと正反対のタイプの葉月さんは苦手なタイプだと思ってました。でも、話してる内にだんだん気になってきたんです。
そして葉月さんが帰った後は、いつも寂しさを感じるようになりました。
賑やかな葉月さんが帰ったからだと思ったんだけど、そうじゃない。僕はいつの間にか葉月さんに惹かれていたんです」
葉:「それ、本当?」
伊:「……なあんて、言うと思いましたか?」
葉:「はい?」
伊:「くっ、あははっ。」
葉:「も~!!騙したわね!!!」
伊:「騙してませんよ」
僕は葉月さんの膝をそっと撫でました。
葉:「ちょっ!!」
伊:「葉月さん、好きです。元気で明るいところも、ポジティブなところも、賑やかなところも、大雑把で豪快でノー天気でガサツなところも全部」
葉:「最後の方、悪口みたいだったんだけど」
伊:「騙されやすくて、お人好しで、素直で、可愛いところも好きですよ。僕が守らなきゃって思いました」
葉:「それじゃ…信じていいの?」
僕は返事の代わりに、彼女の膝枕に頭を預けると膝頭を撫で、口づけました。
伊:「葉月さん、貴女(あなた)が好きです。僕の側にずっといてくれませんか?」
僕が膝に頭を乗せた時、葉月さんの両膝が震えました。
葉:「私も伊織くんのこと、ずっと好きだった。ヒサコさんを一途に想ってすごく苦しそうな伊織くんを見てるの辛くて…。
なんとかしてあげたいって思うようになってから、私も伊織くんのこと好きだって気づいたの。だから今、めちゃめちゃ嬉しくて幸せだよ…。これからもずっと側にいるからね」
伊:「僕も同じ気持ちだよ。ずっと側で貴女(あなた)を守るから…」
葉月さんの太ももに口づけると、僕は彼女の膝枕に顔を埋めました。
震えていた葉月さんの膝が、急に温かくなりました。
ヒサコさん、葉月さんのお陰で、僕はやっとヒサコさんはお母さんなんだって思えるようになりました。
今まで困らせてごめんなさい。
これからも父さんとお幸せに。
父さん、僕もやっと本当に守らなきゃいけない人に出会えたよ。
今まで心配させてすみませんでした。
ヒサコさんとこれからも仲良くしてね。
大好きな2人へ
いつもありがとう。これからもよろしくお願いします。
伊織
終
お読み下さりありがとうございました。
今回は2回目の三次創作として、そして初の膝枕外伝として楽しく書かせていただきました。
色んな膝枕外伝を読んでる内に、膝枕さんに育てられる少年の話を思いつきました。
少年のママになる膝枕さんは箱入り娘膝枕のヒサコさん(おふくろ膝枕さんのこと忘れてました)。
物語を作り出す作業は楽しく、また書いてみたいと思います。
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