芹沢怜司の怪談蔵書「42.団地のベランダに立つ人」
「次の話は調査中の怪談だ」
「調査中? まだ解決していないということですか?」
「そう。時々相談に乗ってたんだ。最後に相談に乗ってから二ヶ月経ったけど連絡がないんだ。今頃どうしているのか……」
連絡が取れなくなっている事態に陥っている可能性は高い。助けに行こうにもここからだと飛行機に乗らなければならない。老いぼれが行くには遠すぎる。
「連絡がないのは不安ですよね。怪談話集めももう少しで終わりですし、僕が様子を見に行きましょうか?」
「……いや、心配には及ばないよ。何かあっても大丈夫なようにアドバイスはしてある。相談相手は慎重で優しい性格だ。連絡をしてこないのも巻き込まれないようにするためだよ」
本当は相談相手の性格なんてほとんど知らない。電話越しでしか話したことがないからだ。ただ、この知人には行かせたくないだけである。
「それにわざわざ行かなくてもここで話せば怪異がやってくるじゃないか。それで解決だよ」
一人でも助かるのはいいことだ。
【団地のベランダに立つ人】
調査中の怪談のことだったね。全貌がわかってないから仮名にするよ。
『団地のベランダに立つ人』
うん、これでいこう。
今確認されている現象は三つだ。
一つは各部屋のベランダに人が立っていることがある。立っているのはその部屋に住む住人だ。家族のうちの誰かがベランダに立つらしい。
二つ目はベランダに立っている人が現れたら部屋に住む人は三日以内に亡くなる。これは引っ越しても変わらない。引っ越し先で死ぬだけだ。
三つ目はベランダに立つ人は毎日ランダムに現れる。無人になったらそこで打ち止めだ。怪異のターゲットは近くの団地に移る。
現状判明しているのはこんなものだね。原因、目的は一切不明。ベランダに立つ人は生身の人間なのか、それとも怪異が作り出した幻か……。
何もわからないというのはモヤモヤするだろう。この怪異が現れたら好きに観察すると良いよ。見てるだけなら今のところ実害はないからね。
家主である私は……どうなるんだろうか。
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