芹沢怜司の怪談蔵書「11.呪いの配達人」
「もしもし怜司さん、荷物届きました?」
「まだ来てないよ」
「そうですか良かった。実はですね、人形だけでなくベルトも入ってるんですよ」
「ベルトって……最初の?」
「ええ。たまたま見つけてね。人形が一緒に入れても構わない……みたいな雰囲気だったので入れておきました。うっかり触らないよう気を付けてくださいね」
「君はどうしたんだい?」
「僕は人形にすべてお任せしました。彼女は丁重に扱うと頼みごとを聞いてくれるんですよ。何が逆鱗に触れるかわからないので慎重に言葉を選ぶ必要がありますけど」
「なるほど。物語に出てきた、人形と相席した女性は直感で下手なことを言えないと感じ取ったんだな。それにしてもよく彼女の機嫌を損ねなかったね」
「運が良かったんですよ。たまたま僕の喋りが彼女の気に障らなかっただけで、もし全然好みじゃなかったら話しかけた時点で操られた誰かに切られてました」
知人はなんてことないように笑っているが、一歩間違えれば命の危機だった。もう少し自分を大切にしてほしい。
ピンポーン
「おや、荷物が来たようだ。それじゃあ引き続き調査をよろしく頼むよ」
「任せてください。ああそうだ、彼女には僕が感謝していたと伝えといてください。ベルトを拾ってくれたのは彼女ですので」
「引き受けた」
階段を下りて玄関へ向かう。今日の配達員はどんな人だろう。ここは幽霊屋敷だと揶揄される家だ。足がガクガクと震え、恐怖に顔を引きつらせながら配達してくる人も珍しくない。
「すみません。お待たせしました」
声を出しながらドアノブに手をかける。相手からの返事はない。普通はなんとか急便でーすと元気な声が返ってくるのに。
もしやこれは……。
私のところにもやってきたのかもしれない。
呪いの配達人が。
【呪いの配達人】
呪いの配達人は文字通り、呪われた物を配達してくる人だ。
特徴は、喋らない・真っ黒な顔・突如消えるの三つだ。ちょうど今喋らないを確認した。ドアを開けた先、真っ黒と噂の相貌が見れる。
配達人はこちらが攻撃しない限り何もしてこない。実際に攻撃した人は顔がぐしゃぐしゃに潰された状態で発見されている。その人は呪いだとか幽霊だとか、オカルト関係には一切興味がない人物だった。おそらく呪物に詳しい誰かの恨みを買ってしまったのだろう。どっちにしろその人は死ぬ運命だったわけだ。
話が逸れた。
ともかく配達人自体は何も害はない。強いて言うなら「気味が悪い」それだけだ。
立て付けの悪いドアを力任せに開けると目の前にダンボールが差し出された。
顔を横にそらして相手の顔を見る。
帽子を深く被った真っ黒な人物がそこにいた。
呪いの配達人だ。
「ありがとう。お疲れ様です」
荷物を受け取って声をかけると、配達人はペコリとお辞儀をしてフッと消えた。これも特徴と一致している。
「おや?」
ダンボールに紙が貼り付けられている。
『芹沢怜司様』
知人の字ではない。
『すべて届けたらお邪魔します』
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