芹沢怜司の怪談蔵書「34.買い取ります」
「最後は……借りてきた本の中から選ぼうか。これが終わったら私は横になるよ。今日はもう疲れた」
「じゃあ僕はフィールドワークに出ようかな。夕飯までには戻ってきます」
「うん、わかったよ」
【買い取ります】
俺がその声を聞いたのはスーパーで食材を買い込んでいた時だった。
買い取ります 買い取ります 買い取ります
ずっと呼び込みをしているし、スーパーで何を買い取るんだと気になったから探したんだ。でもどこにもそれらしき人はいない。
買い取ります 買い取ります 買い取ります
声だけはずっと聞こえている。最近仕事が繫忙期で忙しいから疲れが溜まって、幻聴を生み出しているのだろうと思った。その日はさっさと寝た。朝起きると聞こえなくなっていたからやはり疲労が溜まっていただけ――この時は安心してたんだ。
ある日、ポストにチラシが入っていた。俺の家では新聞は取っていないが、チラシは毎日二、三枚入ってくる。このチラシを見てお買い得品を把握しておくのだ。
チラシを見て俺は絶句した。普通のチラシに混ざって『買い取ります』とだけ書かれたチラシが入っていたのだ。一体何を買い取るのか、このチラシは他の家にも配られているのか――俺は怖くなって同僚に電話をかけた。
買い取ります
向こうから聞こえてきたのは同僚の声ではなく、数日前、スーパーで聞いた声と同じだった。
慌てて電話を切る。しかし声は途切れない。
買い取ります 買い取ります 買い取ります
いつまでも聞こえてくる声。俺は叫びまわりながら走り回った。
毎度ありがとうございます。
俺の体は宙を舞っていた。車の行列が見える。すべてがスローモーションになり、やがて俺の意識は暗闇に落ちた。
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