芹沢怜司の怪談蔵書「41.家の前の行列」
「そういえば肉が削ぎ落とされている事件ありましたねぇ……。犯人は見つかったんでしたっけ」
「自首してきたって報道されてたね。君はもう少しテレビや新聞を見た方がいい」
「あまり興味がないんですよね。すごくどうでもいい。大事なのは怪異が関わっているか否か、それだけです」
「経験上、すぐに犯人が逮捕されなかったり、動機が不可解だったりすると怪異の可能性が高いんだ。不審死を遂げているのも怪しいね」
「ほう、そうなんですか。じゃあこれからはチェックしとかないと」
「さ、お喋りはその辺にして次を話そう」
【家の前の行列】
偶然、墓荒らしを目撃した。
現代において墓を荒らす人なんていないだろうって思っていたけど、実際に目撃すると驚きより失望が勝った。
墓荒らしは副葬品や花立てをリュックに詰めてキョロキョロを忙しなく頭を振っている。
私は犯人の後ろの雑木林にいる。なぜこんなところにいるかって? 猫を見つけて追いかけてしまったのだ。猫はすぐに見失ったけど、おかげで妙な動きをしている男を発見できた。犯行の様子はしっかりと撮影している。後は無事に帰宅して通報するだけだ。
犯人が動き出す。音を立てないよう慎重に歩く。犯人が向かう先には私の家がある。犯人も同じ方角なのだろう。せっかくだから自宅を突き止めてしまおう。
まるでストーカーみたいに犯人の後ろを歩く。これでは私の方が犯罪者に見える。しかし堂々と胸を張って歩いていれば問題ない。それに今は夕方だ。事情を知らない人が見たらどう考えても帰宅をしている人にしか見えない。
私の家の屋根が見えてきた。もしや犯人はすでに私に気付いていて、家の前で待ち伏せして脅してやろうという魂胆なのだろうか。
しかしその考えは外れた。なんと犯人は私の家の向かいの家の人だったからだ。確かここの家族は最近引っ越してきたばかりだ。三十代半ばくらいの女性が挨拶に来たのは覚えている。もしや犯人の男はその女性の夫なのだろうか。
犯人はポケットから鍵を取り出して家の中に入っていってしまった。五分待ってみたが出てくる様子はない。状況が動かないのならもう通報してしまおう。私は向かいの家がよく見える寝室へ移動し、110番通報をした。
警察はすぐにやってきた。犯人は観念したかのように肩を落として連行されている。やれやれ、まさかお向かいさんが犯罪者だったとはね。しかしこれでもう安心だ。
深夜。目が覚める。夕方の出来事に興奮しているのだろうか。なかなか熟睡できない。
ふと窓を見る。カーテンの奥でぼんやりと白いものが動いている。そっとカーテンを開けると向かいの家に行列ができている。
よく見るとそれは白装束をきた人だ。老若男女、子供もいる。どういうわけか彼らの顔はよく見えない。一人ずつ向かいの家に入っていく。最後の一人が家の中に入り、明け方になっても一人として出てくることはなかった。
結局、全然眠れなかった。体は睡眠を求めて悲鳴を上げている。いったん寝よう。
次に目が覚めたのは昼頃。サイレンの音に起こされたのだ。窓の向こうには救急車。人が運ばれている。ちょっとしか見えなかったけど女性だった。あの引っ越しの挨拶に来た女性だろうか。
数日後、向かいの家の一家の訃報が届いた。
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