芹沢怜司の怪談蔵書「33.心中ラブソング」
「二話目ですね。次は僕が話しましょう」
「じゃあお願いするよ」
【心中ラブソング】
恋の歌っていいですよね。
甘酸っぱいし、青春を感じられるし……ときには別れがテーマだったり。どれも人の強い想いが感じられて好きですよ。
そんな数あるラブソングの中には『死』をテーマにした歌もいくつかあります。今回お話するテーマは――心中です。
心中といえば練炭自殺でしょうか。愛し合う男女、もしくは家族が車内で練炭自殺をした……そのようなニュースは誰もが聞いたことあるでしょう。
でももっとお手軽に心中できる方法があります。それが『心中ラブソング』です。この歌を二人以上で聴いたらその場でコロリと逝けるんですよ。
聴きたいですか?
後で一人で聴いてくださいね。一人だと効果はありません。ただの普通の歌です。あ、誰かといるときに口ずさむのもナシですよ。ちょっとでも歌ったらアウトですから。
これは呪いです。殺したいほどの想いを乗せて作った歌詞とメロディー……いやぁ怖いですね。思い出すだけでゾッとする。
実はここに歌詞カードと歌を収録したCDがあります。
……どうして持っているかって? 友達だった人からプレゼントされたものでね。これがただの歌だったら捨ててましたよ。でもこれは僕が大好きなオカルト案件です。捨てられませんでした。もっと早く相談してくれ? そうでしたね、怜司さんと出会った時点で話すべきでした。
制作者についてですか。そのかつての友達ですよ。心中したいほど僕を愛していたということですね。とんでもない物好きでしょう? 僕のために呪いを勉強したんですよ。恋の力って怖い。
あ、何ですかその顔。僕に友達いたんだって意外そうな顔をして。あの頃は周囲に溶け込む努力をしてたんですよ。比較的まともな僕でした。この事件からですね、人を寄せ付けない言動をするようになったのは。
話が逸れましたね。僕の話はいったん脇に置いといて、その人には何度も聴いてくれとせがまれました。そのたびに断りましたが、やっぱり聴いてみたいじゃないですか。もちろん聴きましたよ一人で。でももう忘れてしまいましたね。覚えやすいキャッチーなメロディーではなかったし、何年も前だから歌詞なんて一節も思い出せません。
ああ、これでは効果がわからないですよね。
あの後、僕は愛し合う二人、とある心中志願者の願いを叶えたんです。
この場合、僕は殺人犯になるのでしょうか?
まあそうだとしても警察は僕を逮捕できないでしょうね。ただ片方の志願者にCDを渡して歌を覚えてもらっただけですから。CDを貸しただけ。僕と志願者の接点はそれぐらいです。
僕としては完全なる善意なんですけど、世間は悪意に溢れていると判断するでしょうね。怜司さんはどう思います?
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