#10 M-1グランプリ 2024を振り返る素人
12月22日、20回大会のM-1グランプリが行われた。
史上最多10330組の頂点に立ったのは大会史上初の連覇を成し遂げた令和ロマンであった。
私は恥ずかしながらニュースなどの時事情報はスマホで通勤中に見ており、家では何かしらのお笑い番組をずっと見ている。
マニアとまでは言えないが1人のお笑いファンとして2024年のM-1グランプリを稚拙な考察も交えながら振り返っていきたい。
ネタが始まるまでの演出では大会創始者島田紳助さんの直筆メッセージも大きく紹介された。また現在休んでいる松本人志さんもVTRで度々登場した。
賛否、特に否が多いと思うが、やはりM-1においてはこの2人のカリスマが審査員にいたことにより他の賞レースより大会の重みや出場することの意義もあったのではないだろうか。
また煽りPVの終盤「俺たちが、1番、おもしろい」の「おもしろい」で誰が来るか注目しているファンも多い。昨年度はマユリカの阪本だったが今年はラストイヤー、トムブラウンであった。昨年度の敗者復活でも大きな話題を呼び今年の予選でも下馬評が高かった。昨年度からの頑張りを制作人が汲み取ったのではないだろうか。また、今年は正面の画ではなく後ろからの画であった。
審査員に関しては大きく変わったのが松本人志の不在と人数が7人→9人に増えたことである。
島田紳助、上沼恵美子、松本人志、レジェンドの座ってきた位置に誰が座るかも注目であった。私は順当にいけば礼二だろうと思っていたが、やはり礼二であった。ちなみに芸歴で言うと博多大吉の方が2年長いのだが、そのあたりは大吉先生のことだから何も気にしていないだろうし、むしろ1番後ろで余計なことは気にせず審査できたのではないだろうか。
そんな変化もある中ファーストラウンドがスタートする。順番は恒例となっている笑神籤で決められる。
阿部一二三さんが序盤3組の籤を担当。1組目。籤を見た司会者の今田耕司と上戸彩の目を大きく見開く反応から1組目は令和ロマンであることは画面越しに分かった。
2連覇を目指すチャンピオンが2年連続でトップ出番。見ている私も鳥肌が立ったし、ドラマという意味ではこの順番は偶然ではなかったのかもしれない。
今年の予選から高比良くるまは衣装や髪形を昨年から変え、黒スーツに黒ネクタイ、髪型もオールバックにすることで向かってくる挑戦者を叩き潰すヒール役を担おうとしていた。
予選の段階からくるまは同様のいで立ちで参加し、自身が出場するM-1を盛り上げようとしていた。いわば決勝に進むことを見越して予選の段階から自分達の空気感を作り上げようと計算していたのだろう。
せり上がりって来た時点で観客は大いに湧いていた。この時点でトップが不利とかそういう次元ではなくなっていたように思う。とてもホームな雰囲気の中令和ロマンのネタはスタートした。
ヒールとしての「終わらせに来ました」でがっつりと観客の心を掴み、その後は子どもにとって「渡辺」が1番良い苗字であるというしゃべくりのネタを行った。
誰しもが経験した小、中学校の教室内での渡辺あるある。渡辺ではない私もおもしろかったし、見ていた全国の渡辺さんはもっとおもしろかったのではないだろうか。漢字の間違いを簡単に許さない斉藤さんに話題が変わる場面も見事だったし、トムブラウンや真空ジェシカとは違い万人受けするまさにトップに相応しいネタであった。昨年は出番順や前のコンビの出来によってネタを変えられるよう複数ネタを用意していたが今年はチャンピオンとして2本のネタで挑戦者に立ち向かうと決めていたそうである。
900点中850点、トップとしては申し分ないパフォーマンスであった。
2組はヤ―レンズ。事前の優勝3連単予想では多くの国民が1位に予想するなど、前年度準優勝コンビに対しての期待は高かった。もしかするとその期待は高すぎたのかもしれない。
ネタはおにぎり屋さん。楢原のおとぼけのようなボケを出井が的確にツッコんでいく。おもしろいのではあるが、いまいち会場も湧いていないし私も何か足りないように感じてしまった。
理由は2つあり1つはトップで圧巻の漫才を披露した令和ロマンの後だったこと。令和ロマンに心を奪われた観客や審査員を自分達に振り向かせることが残念ながらできなかった。
2つ目は昨年のヤ―レンズがおもしろすぎたこと。昨年は楢原のキャラクターを初見な人が多く、「なんだこの変わったおもしろい人は!?」となった人が多かったのではないだろうか。
引っ越しの挨拶のネタもラーメン屋のネタもとにかく楢原のボケが良い意味でばかばかしかった。それに振り回されそうになりながらも振り回されない出井。引っ越してきた人とラーメン屋の客となりおかしな管理人とラーメン店主にツッコんでいた。
今年は楢原のボケが昨年ほどばかばかしく感じなかった。石川という苗字から一握の砂や津軽海峡冬景色にちなんだ店名のボケを入れる。少し知的というかひねりがあったように感じたが、もっとしょうもないボケの応酬の方が良かったのかもしれない。これは審査員の海原ともこも言っていたが、ネットではその意見を叩いている人が多い。
ちなみに昨年度もラーメン屋のネタでは「麵ジャミンバトン~スープな人生~」と店名をもじるボケはあった。
点数も825点と伸びなかった。
3組目は真空ジェシカ。何を隠そう私は真空ジェシカを推しており、贔屓目な考察となることをお許し願いたい。
ヤ―レンズで少し落ち着いてしまった後の登場、せり上がりから川北はポーズ(決勝進出が決まった際も同様のポーズ)と顔を決めており、トップの令和ロマン、後述するママタルト同様今年はせり上がりから空気感を作ろうとするコンビが目立った。
ネタは商店街ロケ。ありがちな設定のように感じるが真空ジェシカ、とりわけ川北にかかると常人では到底発想の及ばない素晴らしいセンスの大喜利ボケを含んだネタとなる。1,2組目の令和ロマン、ヤ―レンズはどちらかというと大小様々なボケを多く入れるテンポの良いネタだった。
しかし真空ジェシカはゆっくり構えてエッジの効いた大喜利ボケをドン!とかましてくる。
審査員の山内も言っていたが、ジャブがなく全て右ストレート、それも全て外さず観客、審査員の顎を捉えていた。
右ストレートだけでなく前半にㇷっていた「商店街の店舗が人気の店舗順に並んでいる」ことにしっかり後半で触れていた。大喜利ボケの応酬に終始しておらず構成的にも素晴らしかった。
また真空ジェシカのネタはお笑いが好きで必要最低限の教養がないと、おそらく笑うことができない。
同様に前半で触れていた偏った政党の選挙ポスターが貼ってあるというフリ。後半でこれも回収したが「今年の都知事選みたいだ~」というガクのツッコミで笑いが起きた。今年都知事選が行われたこと、乱立した立候補者の中には悪ふざけで出馬した人が多かったこと、どちらも理解していないと何のことかわからないから笑えない。
真空ジェシカのネタは川北の常人に思いつかないボケやボケで作り出された状況をガクが観客にわかりやすく説明することで、「そういうことか!」と時間差で笑いが起こることが多い。
2人とも(特に川北)は風貌から言動までクレイジーな人に移る映るだろうが、私には教養や一般常識、マナーなどは常人以上に身に付けており、1周回って私たち常人に向けてクレイジーに見えるよう振舞っているように思う。(ザコシや野生爆弾、くっきー!等も同様。)
得点は令和ロマンに1点差で迫る849であった。
4組目は敗者復活を勝ち上がったマユリカ。一昨年までの敗者復活は視聴者投票の為どうしてもテレビの人気者が勝ち上がることが多かった。その人気者が上がりやすいシステムに涙を呑んできたのが、金属バットやプラスマイナスだろう。視聴者投票は偏りが出る為、昨年から敗者復活はA,B,C各ブロック勝ち残りで勝者を決め、最終的には芸人審査員がその3組の1組に投票を行うというようにシステムを大きく変更している。
今年は金魚番長、マユリカ、インディアンスが最終3組に残り芸人審査の結果マユリカが勝ち上がった。最初は1:2:2と票が割れ、決選投票にまでもつれたが薄氷を踏む勝利でマユリカが勝ち上がった。個人的にはインディアンスはおもしろいし大いにM-1の大会を盛り上げるだろうが、優勝できるイメージは湧きにくい。そのあたりも含んだ芸人審査員のジャッジとなったのではないだろうか。
ネタは同窓会。阪本含むおかしな3人トリオが登場し、中谷さんを戸惑わせるという格好だった。「コーヒーの飲みすぎで毎日10分しか寝られない。」などおかしな人物の設定大喜利ももおもしろいのだが、これも後に飲み物の注文の際にアイスコーヒーを注文することで、その人物に再びスポットライトを当てて笑いに繋げていた。
昨年審査員だった富澤も言っていたが、阪本は中谷が喋っている際の演技がとても上手い。飲み物の注文の際も数を数えて注文を確認することをしていた。当たり前なのかもしれないがそのあたりが徹底されている。
得点は820点と伸びなかったが、阪本の「大急ぎで負けに来たんですか?」の敗者コメントはさすがであった。昨年もキモダチと紹介されたことに触れ、大いに会場を沸かせていた。平場で2年連続で大いにインパクトを残す結果となった。
5組目はラストイヤーで初出場となったダイタク。念願の決勝であり、応援していた方も多いのではないだろうか。
千鳥のチャンスの時間に出るといつもおもしろいし、恥ずかしながら劇場で漫才を見たことがなかったため、15年間作り上げてきたネタ中からどんなネタを持ってくるのだろうと、とても楽しみだった。
ネタはヒーローインタビューの体で双子ならではのありえなさそうだが想像はできるあるあるを交互に述べていくという形だった。
もちろん上手いし、おもしろかったが口調が速かったことと、所々致命傷にならないが少し噛んだところもあり緊張が伝わってきた。
審査員も述べていたが、とても上手で綺麗で、お手本のような見事な漫才だったが、その分インパクトを残すことは出来なかった。
後の大反省会では少し置きに行ってしまったと述べていた。言われてみれば14年間夢見続けてきた舞台であるし、過去のザ・パンチやアキナなどは空回りしてしまった姿を全国民に見られてしまった。(ザ・パンチはM-1で最下位となった翌年2009年の記憶がないと言っている。)そんな前情報も芸人仲間から聞いているし知っているからすべりたくないという気持ちが先行してしまったのかもしれない。
結果は820点でマユリカと同点となった。
6組目は初出場のジョックロック
設定は病院でゆうじろーのボケに対して福本がとにかく大声でツッコミぶった切るという構造だった。
MRIに入ったことがある人にはわかる大きな音を取り上げていたが健康な人に向けてもツッコミを入れる。威勢の良い手術の助手を行うゆうじろーと共にポーズを合わせて自分達は江戸前の医者だ!とツッコミボケを入れるなど大声のツッコミに終始せず盛り上げる展開を用意していたように思う。
結果は819点。審査員も述べていたがゆうじろーのボケで笑いが起こるとさらにおもしろくなるだろう。
具体的にはゆうじろーがさらにエッジの効いたボケをし、途中から福本に大声でやり返したり、大声を出させないような展開に持っていくボケが生まれたりすると福本の大声ツッコミ頼りにならず、さらに深みが出るのではないか。出てきた頃の東京ホテイソンが重なる感じが私はするのだが、まだ結成3年程でありまだまだ伸びしろの可能性は感じられた。
7組目はバッテリイズ。初登場だったが、結果的にファーストラウンドで1番大きなインパクトを残したのではないだろうか。
ボケのエースがツッコミの寺家の紹介する偉人の名言を全く知らず、本来アホであるエースが偉人の名言の矛盾点にツッコんでいくというスタイルだった。
本来アホのエースに常人の我々観客が「こうなんだよ」と教える側に無意識に立ってしまうのだが思わぬエースの指摘にこちらが納得させられる。アホ訳が途中から立場を変えて常人に指摘をしていく。それがとても革新的なスタイルに感じた。このスタイルを確立できたので今後様々なパターンを作ることができ、劇場や営業では困らなくなるのではないだろうか。
またエースも演じているアホではなく本当に天真爛漫でボケがボケに聞こえない。本当に気になってしまったことに対する心の声を寺家含む観客に訴えかけていた。(ように見えた。)
ガリレオガリレイもガガーリンも確かに名前が細そうなのだがそんなことを今まで感じたことがある人が果たしているだろうか。またその表現を「細そうすぎる」と言っていたのもとにかくおもしろかった。
ライト兄弟を守備下手そうすぎる兄弟と言うなど「なんでそんなところ気になるんだろう。でも言われるっ確かにそうだ!」と思えてあれよあれよという間に4分が終わった。後で礼二も述べるがとても4分間を上手く使っていた。
結果は1位に躍り出る861点。少し落ち着きが見え始めていた中盤で大きな爆発を起こした。ちなみにツッコミの寺家はボケのエースのアホさに注目が集まりそれを邪魔しないようにあえてうまく見せないツッコミをしているそうである。確かにエースに対してツッコミのワードで笑わせるとエースのアホさは薄れるように思うし、このスタイルなら観客はエースに100%注目で良いくらいだろう。若林も述べていたが、寺家は目立たないようにしているが技術がとても高く漫才のテンポを崩していない。話題の切り替えは寺家が担っているためいわば、4分間の漫才の進行は寺家が行っていた。
草野球ではエースが投手で寺家が捕手だったようでありそこでもエースを支え引っ張ていたのであろう。とてもバランスよく本当の意味で良いバッテリーだった。
8組目はママタルト。水曜日のダウンタウンにもよく出ており、テレビの人気者である。ネットでは190㎏の大鶴肥満をせり上がりの機械がきちんと持ち上げられるか話題になっていた。
おそらくそのことを2人は知っており、せり上がる際は肥満が無事機械が動くよう両手で祈り、檜原は機械に対して「頑張れ!」というジェスチャーを送っていた。会場も大いに沸き見ている私もおもしろかった。
ネタは肥満が銭湯に行くというネタ。湯船に入るとお湯が溢れて子どもが車道に流されたり、水風呂を外れのお風呂と形容するなどおもしろかった。ただ会場はあまり湧かずウケも少なかった。バッテリィズの衝撃を受けた観客や審査員をヤ―レンズ同様ネタに入ってから振り向かせることができなかった。またネタの中では溢れたお湯で子どもが流されるというボケが1番おもしろかったように思うが、割と序盤のボケでありそのボケを越えるボケが最後まで出なかった。
結果は812点。檜原の長ツッコミに言及する審査員もいたが、個人的には誰にでもできるものではない為、長い、短いを使い分ければ良いのではないかと思う。実際敗者コメントの肥満のどら焼きボケ?に対しては短くシンプルにツッコんでおりすぐに対応している。
9組目は初出場のエバース。
佐々木が15年前の女性との待ち合わせの約束に行くべきかどうかというネタ。最初がとても静かな入りなのだが、15年前は2月29日だったため、この場合の待ち合わせの日程は2月28日なのか3月1日なのか佐々木が持ちかける。ここで町田が少し考えて「さすがに末締めでしょ」とボソッとつぶやくと大きな笑いが生まれそこで観客の心を大きく掴んだ。
その後は待ち合わせ場所に生えていた木が土地開発でショッピングモールになりもう存在しないこと、丘の上に木が生えていたため何階で待つのが良いのかなど、佐々木に湧き出る疑問を町田が一緒になって解決策を考えて1つ1つ解決していくという格好だった。
次々湧き出る疑問や問題に対して、解決策を考えながらまた新たな問題を取り上げていくというスタイルは2005年M-1王者のブラックマヨネーズを想起させた。
また上手いのは1,2,3階それぞれに飲食店があり、ネタを聞いていると「普通飲食店は1階に集まっているだろう」と感じるのだがそこには触れず他の今湧き上がっている疑問を解決していく。薄っすら最初の疑問が残っている中、後で「どんなショッピングモールだよ」とそこにも触れてしっかりと解決していく。素晴らしい展開だった。
点数は848点で惜しくも4位。真空ジェシカにわずか1点及ばなかった。
ただネタを2本消費せず国民に「おもしろかったのに惜しかった!」という印象を与えることができたのはポジティブに捉えて良いのではないだろうか。
今年エバースは他に様々な賞レースに出場しており、ネタがないのではないかと心配されていた。後の大反省会で述べていたがなんと1番最後のM-1に向けてネタを取っておいたそうだ。今年用意していた2本目も温存しているだろうし、来年のネタに期待せざるを得ない。
ラスト10組目はラストイヤーのトム・ブラウン。
昨年の敗者復活で大いに会場を沸かせてとてもウケていたが僅かに決勝に届かなかった。どんなネタで来るのか楽しみであった。
ネタはホストのコールから女性客の肝臓を守りたいという内容で、みちおが女性の肝臓を守るために試行錯誤を重ねていく毎にどんどんカオスになっていくという内容だった。
私は笑ったがお笑いに興味のない妻は何がおもしろいかわからないと言っていた。それこそがトム・ブラウンの魅力なのではないだろうか。何が何だかわからないけど思わず笑ってしまった。とても良いことなのではないだろうか。
あとトム・ブラウンの漫才を楽しむには想像力がいるように思う。ネタが進むにつれてみちおが女性の肝臓を守るための工程を重ねていくが、1つ1つ聞き取り頭で想像して2人が今どんな状況なのか画が浮かばないとその後笑うことができない。
私には途中からみちおが鹿のはく製を被っており、布川の足の下には動くルンバが見えた。トム・ブラウンの伝えたい内容が想像できるときっとおもしろいのだと思う。そうじゃない人は想像力が欠落しているかというとそうではなく、おそらく2人の正解間に圧倒されて頭が想像することを拒否してしまっているのではないだろうか。
得点は823点。決勝には届かなかったが6年前よりさらにクレイジーに進化した姿を全国に届けてくれたトム・ブラウンに賛辞の拍手を送りたい。
ファーストラウンドは令和ロマンのいきなりの爆発で始まり、3組目の真空ジェシカが実力を見せつけ食い下がり、バッテリィズが停滞しかけた空気を一気に大爆発に変え、見事トップで折り返した。
ファイナルラウンドは3位→2位→1位の順で2本目のネタを行う。昔は上位から好きな順番を選ぶことができていたが、最近は番組側が決める形となっている。
あとでくるまが二宮和也のポストを引用して述べていたがバッテリィズがトップなら印象も確かに変わったかもしれない。後述するが真空ジェシカはさらにエッジの効いたシュールで世界感たっぷりのアンジェラアキのネタを、令和ロマンは1本目と違い、底力を存分に詰め込んだタイムスリップのネタを行った。大きなインパクト2本の後で1本目と同じスタイルだったバッテリィズが不利になってしまったように思う。
ファーストラウンド1組目は真空ジェシカ。
長渕のコンサートを見に行きたいのに隣のピアノが大きすぎるアンジェラアキのコンサートを見に行くことになるというネタ。
M-1を見ていない人にこの文章だけを見せてもどんなことをするのか想像が及ばないだろう。
大きなピアノを川北演じるアンジェラアキが顔を使いながら弾くのだが、演奏中にガクが「ピアノが大きすぎるぞ!」と野次を入れる。弾いていたアンジェラアキは鍵盤を叩いて演奏を止め、野次を入れた観客を探し出すのだが、そこがすごかった。普通は優勝が目前に迫った2本目は自信のあるボケをたくさん入れたネタをしたい。しかし川北はここで笑いの定石である緊張と緩和の緊張を高めるためにたっぷり時間を使う。
野次を飛ばされると「だれ!」と鍵盤を叩いて演奏を止め、1人1人観客の頭を掴んで確認を始める。モンスターのような姿勢と表情で観客席を練り歩き、演奏を再開するのだが実はガクが犯人であることを知っていて、ガクに迫るまでの時間が1分7秒あった。4分のうちほぼ1分は観客席をゆっくり練り歩いて緊張を高め、その後のボケのフリに使ったのである。
また緊張感漂う観客席を練り歩きながらギリギリ拾えるくらいの声で長渕の「とんぼ」を歌い、隣の会場で長渕がコンサートをしていることに触れて拍手笑いを起こしていた。私にはもう川北は演奏を止められて怒り狂ったアンジェラアキに見え、バレたかもしれないと怯えるガクの周りには同様におびえる観客が見えた。
たっぷりと真空ジェシカの世界観を見せつけたネタだった。
2組目は令和ロマン
ネタは戦国時代にケムリがタイムスリップしてしまうというネタ。
何故かケムリの体が固くて刀を弾いてしまう。そのことで殿に会いに城に行くのだがそこに敵が襲ってくる。攻め込まれ最早ここまでかとなったところで体にダメージを受けないケムリが大暴れし、事態を収束させるという流れだった。
自然すぎて目が向きにくいのだがすごいのはくるまの演じた登場人物の多さである。いきなり切りつける輩や殿様、お城の子どもや知ったかぶりの爺など、思い出すだけで8人以上の役を1人で演じている。それだけの役を入れ代わり立ち代わり演じているのに違和感がなく見ている人をどんどん引き込んでいく。
凄さの理由は演技力の高さにある。特に私が目を見張ったのはケムリのことを体を固くするために石を食べる修行をしている石僧だと爺が言う場面。ケムリは何のことかわからず柔らかく否定するのだが、実は爺は今まで知ったかぶりでここまでのし上がってきたことがばれてしまう。
その後の爺を見る周りの人の表情。実に何とも言えない。何か言いたいけど言えないという人間の100点の表情だった。
くるまだけがすごいかというとそうではない。ケムリはくるまが1人で何人もの役を見事に演じているが、ケムリは何も演じていない。現代からいきなりタイムスリップし困惑しているだけなのである。いわばくるまが世界観を1人で作り出し、ケムリはその世界に入ってしまった1人の現代人、いわば観客や見ている私たちと同じ立場でいてくれるのである。これが2人とも何かを演じるとくるまの凄さが薄れるし、くるまの世界に引き込まれそうなところを良い意味でケムリが私たちの代弁者となってツッコんでくれる。くるまにひっぱられないケムリもすごいのである。
最終的に困惑しているケムリが大暴れし戦国時代の人々を救うのだが、最後の最後でタイムスリップに巻き込まれ、観客の代弁者だったケムリが戦国時代の世界に入りこむ。大一番で観客を裏切ることで大きな拍手笑いが生まれていた。昨年の工場のネタがさらにパワーアップしているように感じた。
3組目がバッテリィズ
偉人の名言の次は世界遺産を知らないというエースに寺家が次々世界遺産を紹介していく。サクラダファミリアを工事現場だと言ったり、万里の長城を長すぎてどこに来たら来たことになるのか問いかけたり、言われてみれば「確かにそうだ。」と感じることをエースが次々言っていく。また世界遺産には墓が多いという話題にも触れ、最後寺家は大仙公園を教える。公園だと知りエースは嬉しがるが最終的にそこにも古墳という名の墓があることを知りネタは終わる。大仙公園に古墳があることはみんな知っているがアホのエースは知らない。喜ぶエースだがいつそこにも墓があることをしってしまうのだろうと思えて、未来の展開を想像して笑うことができ見事だった。
だがバッテリィズの前には、段々と大きくなる巨大ピアノをアンジェラアキが顔を使いながら弾く狂気のコンサートが行われ、タイムスリッパ―が戦国時代にやってきて様々な人物と知り合いながら最後に戦国時代を救うという見事な戦国ドラマが繰り広げられていた。
その後のバッテリィズは少々部が悪かった。バッテリィズは悪くないのだが前の2組がすごすぎたということである。
最終審査結果。毎年CMを挟み、ファイナリストがこけるのがお決まりだが、上戸彩の「CMの後です!」の後、川北は一目散に舞台後ろの階段を登りジョックロック福本の叫びツッコミを行う際のポーズを取っていた。
毎年敗退コメントにも何か用意しているし、今年も大会が始まる前の楽屋をアナウンサーが覗いた際には大きな目の画用紙を目で挟む小ボケも用意していた。嫌な書き方だし川北の良さを消す発言となるが本当におかしな人は笑いをとるためにそんな用意はしない。こうなったらこれを使おうと事前にしっかり用意しているのだ。家でこっそり小道具を作っている姿を想像すると可愛ささえ感じる。
最終審査結果は真空ジェシカ1票、バッテリィズ3票、令和ロマン5票で令和ロマンが史上初の大会2連覇を達成した。
塙が真空ジェシカ、哲夫、若林、礼二がバッテリィズ、大吉、石田、山内、柴田、ともこが令和ロマンに票を入れた。
最後のコメントではくるまは来年の出場は否定し「審査員をしたい。」と言っていた。審査員はボケかもしれないが来年出たくないのは本心だろう。
2連覇も前人未到の快挙なのだが、3連覇となるとさらに今年を越えないといけない。十分2連覇で栄誉は得たし、それに向かう労力と3連覇を逃した場合の(3連覇は無理か…)というレッテルを貼られるリスクは割に合わない。
良いイメージで伝説を残して終えることができるのだからそれで本望だろう。
9人に増えた審査員に関しては山内、若林がとても良かったように思える。山内は画面に抜かれる度険しい顔をしていたが、とても公平なジャッジだった。何が良かったか、どこがイマイチだったかをわかりやすく伝え点数にも表れていた。
若林はコメントがさすがでコメントを聞いていて安心感があり出場者にとって耳が痛い内容も実に柔らかく伝えていた。まさに人柄の現れた審査だったように思う。
少し気になったのはともこの点数の高さ。10組中5組に95点以上を付け、94点が4組いた。実際どの組もおもしろかったのだが点数による区別はしてない。もしかすると審査員が増えたことで自分は自由に採点して良いという気持ちや、上沼恵美子、山田邦子の枠を自分が担わないといけないと感じていたのかもしれない。礼二は毎年M-1が終わると自身の審査が適切だったかの確認をともこに電話をすることで行っていた。大阪では嫌いな人はいないくらい人気も実力もある漫才師なので来年も個人的には審査を続けて欲しい。
哲夫はコメントに関して他の審査員と違い1コメントにつき1ボケ入れようとしており、所々無理に入れているように感じる場面もあった。もし誰か変わることがあるならそれこそくるまであったり、フットボールアワー岩尾なども相応しいのではないだろうか。それこそ否定の声が多いだろうがやはり松本人志に審査員に復帰して欲しい気持ちもある。
かくして大盛況で2024年のM-1グランプリは幕を閉じた。
節目を迎える20回大会であり、来年以降も大会は継続されるか現段階では分からないが国民的イベントとなりスターを生み出すこの大会が良い形で継続されることを願って止まない。