単身海外一年間のステイ。オーストラリアとコーヒーと夜遊び(3)
ビートルズのLet it beが流れている。
私は歌詞の空欄を埋めていく。There will be an answer. Let it be.
語学学校のクラスは数か国の出身の学生で編成されていた。韓国、ベトナム、ブラジル、コロンビア、日本、タイ。異なる文化。クラスにはだいぶなれてきた。おんなじ興味を持っている人と出会える場所は貴重だ。クラスメイトはみんないい子で、裕福な家の出身の子ばかりだった。海外の語学学校で学ぶなんて、お金持ちしかできないのだ。バイトでお金貯めて海外これる日本人、いや、私はすごく恵まれている。
だけど、これからは仕事がなければ、極貧生活がはじまる。海外で仕事をしていたり、大学にいっている日本人よりは、スペックも足りないし、恵まれてもいない。
でも私は実のところ、そんなこと、気にしていなかったし、気づいてもいなかった。気にするようなら、ここにはきていない。
私の目下の問題はボーイフレンドゲットへの道筋だった。
―――なんで全然ウケないんやー!!!
不思議の国なのか、ここは。今まで人ウケするって言われていたことが通用しない。通用しないというか、まあ、英語の会話がかろうじて成り立つくらいだから、ねえ。
そのとき私は気が付いていなかったけれど、私は「日本っぽさ」をまきちらして歩いていた。髪型、服装、話すときのトーン、視線の使い方、そのほかにもいろいろ。私が今まで「かわいい。」「きれい。」と思って訓練してきた立ち振る舞いは、明らかに他の国のそれとは違っていた。
―――こんなのボーイフレンドつくろうと思っても無理やん。
―――だって、全然なんだもん。笑顔でうんうん、うなずいたら、ばかにされるし。若さ!若さ!かわいさ!かわいさ!とがんばってきたのに、10代にみられて大人の男性には相手にもされないし。しまいには「ジャパニーズは軽い。」だあ?ふざけるなーっ!
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私はここに来る前、決めていたことがある。オープンマインドでいること。そして、男遊びをすること。
私の考えていたことはこうだ。
―――だって、日本では、強くやさしく、きれいでやわらかい、やまとなでしこ、のような感じが人気があるでしょ?正直、うざったい。だけど、いわゆる「いい男の人」にあうには、そういう、いわゆる「いい女」にならなければ、という感じもある。そして、いわゆる「軽い」行動は、会社とか学校とかグループの中ではご法度で、なんか、みんないろいろ、うるさい。
―――でも海外は?そんなの気にしてる人なんていないんじゃないかな。だって、フランス人は3,4人と関係をもつのが普通だっていうし、アメリカ人は有名人や政治家の不倫や離婚は当たり前どころか、名前が売れてるじゃない。なんか海外は感覚違うじゃないのーーーー?
―――ってことはだ。私は一年間の間、なんともない関係をイケメン外国人と楽しむことができるわけ。だってここには、ぐちぐち、がやがや、ひそひそいってくる、日本人の「和」がないんだから!
私はとんでもない勘違いと偏見をもっていたことは、明らかだ。国に限らず、自由な関係を好む人も、一対一の信頼関係を好む人もいる。恋愛の形態や考え方は個人によって違う。ただ、海外にいくということが、私の頭の中にあった日本的な価値観のしがらみから抜け出すきっかけになったことは間違いない。
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とにかく、ボーイフレンドたちが目的の私だったが、オーストラリアにきて数週間、日本のウケが全く通用しないことに、がっくりきて、いかに自分が小さな世界でしか自分をみていなかったかを痛感した。
そして、数か月後には、私は、他国の人にとっては謎でしかない、かわいさアピールをやめ、病気みたいと言われて美白対策に手を抜き、「私、きれいでしょ。」と言わんばかりに闊歩している女に憧れるのでなく、無関心になるという華麗なる変化をとげた。