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【小説】神様の案内人

黒い羽根を広げて、オイラは今日も空を飛ぶ。
神様に言われてヒトを案内するんだ。

オイラはえらいぞ、すごいぞ。
だから今日も大きく鳴くんだ。

「カァー、カァー!」

道案内はオイラの誇り。
すっごい神様がオイラに任せてくれた。
頑張れば神様が褒めてくれるんだ。

「カァー!」

ほらほら、ヒトよ、着いてこい!
オイラは元気よく鳴いた。

**

今日の仕事は終わり。
終わればオイラはすぐさま家に帰るのだ。

「カァー」

オイラが家の前で鳴くと、神様が出てきてくれる。

「おかえり、八咫烏。お疲れ様」

「カァ」

にっこり優しく笑ってオイラを抱きしめてくれる神様が大好きだ。
頑張ったせいで疲れたから、あったかい腕の中で丸くなって息を吐く。
ここで眠るのが一日の終わりの合図。

「おやすみ、八咫烏」

「カァ……」

おやすみなさい、神様。
明日も頑張るから、そしたらまた抱きしめて欲しいのだ。

**

最近、神様の元気がない。
ついでにオイラの仕事もない。
抱きしめてくれる腕は変わらずあったかいけど、溜め息を吐く神様はなんだか寂しそうだ。

そういえば、ヒトが来るのも減った。
あれだけ神様に助けられてたのに。
なんだかすごく悔しくて、神様の腕に頭を擦り付ける。

「八咫烏……」

「カァー」

大丈夫だぞ、神様。
オイラがついてる、オイラがヒトを連れてくるから元気だして。
そんな気持ちを込めて神様の綺麗な目を見つめれば、久しぶりに優しく笑ってくれた。

「八咫烏は優しいね」

「カァー!」

そうだぞ!オイラは優しいのだ。
神様が寂しいなら、オイラがいっぱい優しくする!

神様の笑顔が嬉しくて、思わずはしゃぐ。
周りを飛んで元気よく鳴けば、神様がオイラの頭を撫でてくれる。

嬉しい、嬉しいな。
あぁ、でも眠くなってきた。
ヒトは明日連れてくるから、今日はもう寝ちゃおう。

「おやすみ、八咫烏……」

「カァ……」

おやすみなさい、神様。
待っててね。

**

朝が来た。
今日は神様のためにヒトを連れてくるのだ。
オイラはすごくてえらいから、簡単に連れて来れる。
だけど、失敗すれば神様が悲しむから気合を入れるんだ。

今日も元気よく鳴くぞー!
オイラは頑張る!

「カァー!カァー!カァー!」

そうして、オイラはヒトのいる世界に降りた。
久々に飛ぶヒトの世界は、前に来てた時よりも新しくなった気がする。
でもオイラを覚えてる人間もきっといるから、鳴けばオイラに気づいてくれるはず。

よぉし、神様のために今日も元気よく鳴くぞ!

「カァー!カァー!カァー!」

ほらほら、オイラが来たぞ!
ヒトよ、着いてこい!
神様に会いに行くぞ!

「なにかしら、あのうるさい鳥……」

「やだわ、ずっとこの辺りの空をうろうろしてるじゃない」

「不吉ね……」

なんだ?
なんで、オイラをそんな目で見る?
オイラは神様の遣いだぞ!

「カァー!カァー!」

いつもとは違うヒトの様子に、声を張り上げるけどヒトの様子は変わらない。
ヒトはオイラを不気味そうな目で見つめるだけで、オイラに着いてくるような様子を見せない。

なんで?
オイラはなんにもしてないじゃないか。
前みたいに、どうして笑ってくれないのだ!

ヒトに裏切られた気持ちになりながら、オイラは鳴き叫ぶ。

「カァ、カァ!カァー!カァー!カァー!」

前みたいなヒトはいないのか!
神様に会いに来てくれるヒトは、オイラに道案内を頼んでくれるヒトは!
あのヒトを出せ、隠すな!

オイラを心を覆い尽くす悲しい気持ちは、いつの間にか激しい怒りになっていた。
その怒りのままヒトに向かって飛べば、ヒトは慌てふためく。
悲鳴をあげてオイラから逃げるようとするのを追いかけると、急に周りのヒトがオイラに向かって怒りの目を向けた。

「去れ!この、うるさい馬鹿鳥が!」

そして、オイラの身体を重たいものが貫く。
一気に想像を絶する痛みが身体に走って、地面と羽根が赤黒く染まっていくのが分かった。
オイラの腹を弓矢が貫通して、そこから血がぼたぼたと垂れていく。

あぁ、神様のところに帰れない。
優しい腕の中で眠りたかったのに。
ごめんなさい、神様。

**

「ヒトに殺されたのかい、八咫烏……。優しいお前のことだ、私のためを思って下界に行ったんだろう?」

優しい大好きな声が、悲しげにオイラの頭に響く。
目を開けて、すぐにでも腕の中に飛び込みたいのに、オイラの身体はピクリとも動かない。

「ヒトは進化をするうちに私を忘れていった。それが悲しかったし、寂しかった。けれど、お前を失う痛みに比べれば些細な痛みだ……」

あったかい雫がオイラの身体に落ちる。
泣かないで、ってその頬に頭を擦り付けたい。
オイラがついてるよって伝えたいのに。

「私はヒトを許しはしないだろう。お前の痛みも怒りも、悲しみも、次のお前の身体にヒトへの呪いとして授ける。お前の怒りが鎮まる時、呪いは解けるよ」

あぁ、そうだ。
オイラはヒトを許せない。
神様を悲しませた、オイラを裏切った。
許さない、呪ってやる。

オイラの姿がある限り、その姿はヒトに不幸をもたらす。
不吉の存在として、オイラはヒトの世界に君臨するのだ。

「次のお前は、もう私の遣いではない。大きさも下界に合わせて縮まるだろう。だから次は烏として生きてくれ。……さようならだ、八咫烏」

そうか、もう神様とは一緒にいられないのか。
さようなら、神様。
オイラは幸せだった。

**

こうして、八咫烏はヒトへの恨みを抱えながら、普通の烏へと生まれ変わりました。
八咫烏が抱えた恨みはヒトに対する呪いとして残り、烏が現れるところに不吉なことが起きるようになりました。
ヒトが死んだ場所に集まるのも、恨みによってねじ曲がった八咫烏の魂が他の烏に影響を与え、恨みを晴らすかのようにヒトの死肉を貪るためかもしれません。

そして、それはヒトの中にイメージとして残り、今でもそのイメージがヒトの中に残り続けています。

<了>


あとがき

いかがでしたでしょうか?
この作品は烏に持つ不吉なイメージがどうしてあるのか?という疑問から生まれました。
古事記では、かつて烏は八咫烏という今より大きい姿で人間を神様の元に案内していたといいます。
その古事記と自身の疑問を元に作った作品になります。
私の想像でしかありませんが、もしこういった出来事や因縁が現在に繋がっているとしたら面白いですよね。

ここまでの閲覧ありがとうございます。
それでは次回の記事でお会いしましょう!

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