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お盆と大晦日と未来から来たネコ型ロボット 【エッセイ】

お盆休み。
家でのんびり映画でも見ようかと、夫と近所のレンタルショップへ行った。

子どもの頃に何を見ていたかという話の流れから私が「ドラえもん」を挙げると、彼はドラえもんの映画を一度も見たことがないと言う。
それならば、と一本借りて一緒に観ることにした。

ドラえもんの映画はたくさんある。
(大山のぶ代さんら声優陣でのものが二十五作。声優交代が行われた以降もリメイクと新作の公開が続いている)

どれにしようかと迷いながら何本か知っているタイトルを挙げると、夫に「毎回映画館に連れて行ってもらっていたのか」と聞かれた。
思い返してみたが、実際に映画館でドラえもんを観たのはおそらく一本だけだ。

後はテレビ放送で観たのだと思う。
確か、毎年夏休みと冬休みに放送されていた「夏休みだよ! ドラえもん」と「大晦日だよ! ドラえもん」という特番だ。(……なにせ遙か昔の記憶のため、もしかすると放送時期などが間違っているかもしれません……) 


子どもの頃、毎年お盆と正月には母方の祖父母の家に親戚一同が集まっていた。
最大で大人が八人、子どもも八人。子どもたちの中では私が一番年上だった。

夕方になると父たちが家にあるちゃぶ台やテーブルを一か所に運び集めて並べ、夕飯を食べる場所を作る。折り畳み式の座卓テーブルが登場することもあった。

母や祖母、叔母たちが慌ただしく台所を立ち回り、まずは子どもたちの食事が始まる。
先に子どもたちにご飯を食べさせ、その後で大人たちはゆっくり宴会をするという算段である。そのために、食事を終えた子どもは奥の洋間へと誘導された。

祖父母が孫のためにとお菓子やジュース、アイスなどをたっぷりと買い込んでくれていて、普段は「一日一つ」「食べすぎは駄目」と怒られる嗜好品も、その日だけは随分と規制が緩かった。

魅惑の菓子類と共に、子どもをうまく別室へ行かせる理由となるのがドラえもんの特番である。
「ほら、ドラえもんが始まるよ」「あっちの部屋で見ておいで」という大人たちの言葉に従い、皆が次々と洋間に集まる。

祖父母宅の洋室には、豪華なフリフリのドレスを着たフランス人形たちや雉(きじ)の剥製が飾られていた。

他にも、革張りのソファやごつごつとしたマッサージチェア、テレビに繋いで使うカラオケセットやレコードなど見慣れぬものがたくさんあった。
( 私は人形や剥製と目を合わせるのが怖くてなるべく見ないようにしていた。)

そこで思い思いに過ごしながらドラえもんを見た。
高めの位置に置かれた古いブラウン管テレビを皆で見上げる。
それはたまにジジジ……と音を立て、映像や音声が乱れたりもした。

番組が始まってしばらくは静かになるものの、そのうちに飽きた数人が勝手に遊び始める。大人がいる部屋を覗きに行く子や眠ってしまう子もいた。
そんな中で、私はストーリーの先が気になっていつも結構真剣に見ていた。

CMに入ると何人かが慌ててトイレに駆け込み順番争いになったり、「僕これ知ってる!」と映画の展開をバラそうとする子を「やめろー!」と止めたり。

あまりの騒がしさに、大人がひとり「こら! うるさいのは誰だー! 暴れているのは誰だー!」と、なまはげのように押し入ってきて、皆で「ギャー! 出た―!」とゲラゲラ笑いながら逃げ回ったり。

ひたすらに騒がしくて、はしゃいで、一番上だからという理由で保護者代理の現場監督みたいな扱いを受けることに「なんで私ばっかり」と不満だったりもしたけれど。

部屋を真っ暗にして枕投げをしたり、色付き鬼やダルマさんがころんだをして遊んだり、テレビゲームをしたり……今思うと、やっぱりすごく楽しかったんだと思う。

そのうちにそれぞれ習い事や部活などで忙しくなり、予定も合わせづらくなったのだろう。

私たちが成長するのと同時に祖父母や両親たちも年を取り、次第に全員揃っての集まりは減っていった。

決して仲が悪くなったわけではないけれど、大きくなるにつれ、子ども同士だから、いとこだから、というだけでは無邪気に遊べなくなる。

いつの間にか、あんなに楽しみにしていたドラえもんも見なくなっていた。

思い出話が長くなってしまったが、まあそんなわけで。
本当に久々に見たドラえもん映画「のび太の日本誕生」は、所々しか覚えていなかったけど、懐かしくて、面白かった。

初めて見た夫は「先が読めない」「ジャイアンの印象が全然違う」などと驚いていた。
別のも見たいと言われたので、後日またレンタルし、それから何本か観た。

年代を経て進化していく映像もさることながら、作品毎に街の様子が変わっていくのが印象深かった。

初期の映画では土色で表現されていた道路が、その数年後の映画ではきちんと舗装されている。時代が進む毎に街並みがにぎやかになっていたり、家族で海外旅行へ行く話題が出たりとその当時の時代性が反映されている。

逆に、どの映画においても登場する定番アイテムや共通するシーンがあったりと、なかなかに興味深い。

シリアスなシーンもコメディシーンも含めて次々と場面が移り変わり、どうなるのか先が読めない。見ている子どもが飽きないように工夫されているのだと思った。
( 中には、少し退屈で途中で眠たくなってしまったものがあったことも正直に記しておく。)

当時映画館で観たはずの作品もレンタルして観たのだが、それは綺麗さっぱり忘れていて何も覚えていなかった。(ちなみに「のび太とブリキの迷宮(ラビリンス)」です。そのおかげで新鮮な気持ちで楽しめました。面白かった!)

話の内容はまったく覚えていないのに懐かしさだけはしっかりと感じるとは、これいかに。

頭のどこかでひっかかっているのか、それとも身体で覚えているとでもいうのか、不思議なものである。 


それにしても、大人になった今でも、いや、今だからこそ切に願う。

私も、ドラえもんが欲しい。
あの四次元ポケットが欲しい。

せめて、どこでもドアだけでもいいから欲しい。

そんなことをつらつらと考えながら、また童心に帰って のび太たちと冒険に出るべく、私はDVDの再生ボタンをそっと押すのだった。



追記:視聴済リスト

・のび太の宇宙開拓史
・のび太の大魔境
・のび太の日本誕生
・のび太とブリキの迷宮(ラビリンス)

・2112年ドラえもん誕生
・ドラミ&ドラえもんズ ロボット学校七不思議!? ← これ大好きです


……というわけで、もしよろしければ上記以外のおすすめドラえもん映画を教えて頂けたらありがたいです。


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