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小説も結局、読者とのコミュニケーションだった。

一月末に書き上げたコンテスト用の新作が、今までにないぐらいのアクセス数を叩き出している。

ちなみに、私の小説サイト内での、フォロワーやファンは、ほぼゼロに等しい。

アクセス数だって、3桁いけばいい方なんじゃない? そんくらいの、感じだった。

だが、今回の作品は違った。

公開してから一週間は、通知がひっきりなしに届いた。見てみると、今までにないほどのアクセス数。

結局一週間ちょっとで、一万PVを突破した。

フォロワー、読者がほぼゼロに等しい私の小説が、だ。これは私の中でかなりの快挙である。

じゃあ、何故今回こんなにアクセス数が伸びたのか、という話だ。

もちろん、内容には自信がある。しかし過去作と比べてとんでもなく何かを変えたとか、そういうことではない。
(もちろん前作の反省点を今回に活かしたり、自分なりの向上心やブラッシュアップは欠かさなかったけれど、そういうのは、初見の読者には関係ないし、伝わらない)

ただ、ひとつだけだった。

それは、タイトルを分かりやすくすること。

単純明快で、読めばその本のあらすじが一発で伝わり、かつ、本のジャンルが伝わるもの。

そうして、タイトルにしたのがこちら。

【家の前で男が倒れていたので一晩だけ泊めてあげようと思います。】

読者の中には、「なんだこのクソなげータイトルは」と、思う方もいるかもしれない。「もっと洒落たタイトルはなかったのか」と言いたくなるかもしれない。

しかし、私は人気作家じゃない。書けば、アップすれば、またたく間にたくさんの人に読まれるような小説家ではない。

ので、まずタイトルから見直せねば、と思った。昔の私は、それこそ小洒落た抽象的なタイトルをつけていたけれど、そしてそういうタイトルを気に入っていた節はあるけれど、今回、そういうこだわりは全部捨てた。徹底的に読者目線に立ってみることにした。

そしたら、アクセス数が爆伸びした。

私は、鳴り止まない通知を見ながら思った。

「なんだ、結局小説も、読者とのコミュニケーションなんだな」

と。

小説とか漫画とか絵とか、そういう自己表現から生まれる何かというのは、往々にして「オレを見てくれ!!!」みたいな作者の願望がぎゅうぎゅうに詰まっている。

頼んでもないのに、いきなりステージに立って、変なマイクの持ち方をして、大声でうるさいビブラートを歌い上げる人ぐらいには、自己顕示欲が強い。

だけど、結局頼んでもないのにいきなり歌い出されても、見てる側としては、ちょっと困る。

――え、何で歌い出すん? この人

と、困惑すると思う。

結局、小説も、それと同じなのだ。

――君は何が好きなの?

――へぇ、そうなんだ、僕は〇〇が好きでね。あ、君も? なんだ、僕ら、気が合うね。

――あ、そっか、〇〇出身の人なんだ。僕は△△出身なんだ。ねぇ、〇〇ってどんなところなの?

いきなり歌い出す人の横で、こんな風に自分と丁寧にコミュニケーションを取ってくれる人がいたら、嬉しいし、やっぱりそっちに意識も目もいくんじゃなかろうか。

自分に関心を持ってくれる。自分という人間に興味を持って、質問してくれる。そして、相手のプロフィールや考えもきちんと伝えてくれる。

そういう人を、きっと、人は好きになる。

小説も、同じだ。

まず最初に、こんなあらすじだよ、とタイトルで伝えてくれる。これで君が気になるなら、読んでみてね。ちなみにジャンルはBLだよ。登場人物は、クールな男子高校生と、記憶喪失した男だよ。そんな二人のお話だよ。どうかな? ちょっと読んでみる気になった?

もちろん、作家と読者は、直接やりとりを交わせるわけじゃない。言葉によるコミュニケーションもできない。けど、自己顕示欲MAXで挑むのではなく、ちゃんと、こういう話を読みたそうな人に届くように、単純明快なタイトルを、まず考える。そこからだった。

直接言葉を交わさなくても、画面の向こうに読者がいる、という意識があるかどうか。それだけで全ては変わってくるのではなかろうか。

こうして言葉にしてみると、当たり前すぎることなのかもしれないけれど、たぶん、これに気付かずに創作活動をしている人間は、それなりの割合で、いると思う。断言できる。

それぐらい、創作活動、創作物というのは、自分の全てを詰め込んでいて、自分の魂を分け与えたようなものだから。

けれど、だからこそ――

そんな魂の分身を、より多くの人に届けるために、丁寧に、読者の人に興味を持ってくれるようなパッケージングをしていくのを、作家は、忘れちゃいけないんだと思う。

どれだけ最高に旨いチョコレートだからといって、紙コップに入れてそのままハイって渡されるより、100円の普通のチョコでも、しっかりかわいく包装されていたら、皆、そっちを買うだろう。

この創作活動を、自己表現の産物で終わらせたくないのなら。

あなたは、今、画面や紙面の向こうに、読者という「ひとりの人間」がいることを、決して忘れちゃいけないよ。

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